SU-METALの成人を寿ぎてBABYMETALは故郷へ返す

BABYMETAL return home for a momentous occasion: SU-METAL’s ‘coming of age’ *1

ALTPRESS 2017ー12ー20 Norman Narvaja著 

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溢れんばかりのJポップ、過激なまでのスラッシュメタル、飽くまでも軽やかなEDM、オペラに見まごう華麗な舞台、それを併せてBABYMETAL。なかの二人は未だ二十歳に満たずとも、既に彼女たちはオルトロックの上に、永久に消えない刻印を打ってしまったのだ*2。北米ではRed Hot Chili Peppersをバックバンドに従え、記念すべきアルバムMetal Resistanceは、西洋チャートにおける日本人ミュージシャンの新たな指標になり、2016年のAPMAでは、Judas Priestのフロントマン、メタルの巨星Rob Halfordの認証を勝ち取った。コメディアンのPaul Scheerは「Andrew W.K.のパワーにAriana Grandeの可愛さを加え、Slayerの汗を振りかけた」と、BABYMETALを評したものだ。多くのバンドが一度でも味わってみたいと願うような大きな人気と知名度を、既にBABYMETALは掴んでしまったと言えるのだ。

1年を越えるツアー経験を蓄えて、BABYMETALが故郷に戻る日がやって来た。それはリードシンガーSU-METAL(中元すず香)にとって、まさに凱旋に相応しいその時だったのだ。「私は、アーティストとしてあるいは人として、様々な経験を積んでりっぱに成長したと思うまで、故郷の広島には戻らないと決めていた」と、彼女が通訳を通してAPに語った。「だから、この特別な歳に故郷へ帰ることができたことは、私にとって大きな意味のあることだった」。

SU-METALが特別な歳と呼ぶのは、彼女の20回目の誕生日、12月20日の今日なのだ。日本では、20回目の誕生日は大人に成ることを表す。「別の言葉で言うと『成人』、20歳になることは公的な意味で大人になることを意味する」とSU-METALが言う。「今まで多くの人たちが私を助けてくれ、ここ迄にしてくれた。だから、20歳になった今からは、これまで助けてくれた人たちに恩返しするのが私の義務だと思う。歌を通じて人々に力を与えられるような人間になりたい」。

可愛い不良の3人組*3 ー SU-METAL, YUIMETAL(水野由結)にMOAMETAL(菊池最愛) ー は、SU-METALの故郷である広島で12月2日と3日の2晩、各々7000人の観客を前にした大盛況の公演で、1年を締め括ることになった。 「LEGEND - S - BAPTISM XX」と題されたイベントは、Metal Resistance神話の第6章の最終節だった(YUIMETALは病気のために出演しなかった)。西洋では最初の頃、My Little Pony*4の甘さにハイデシベルの憤怒を混ぜた一発屋とみなされたこともあるBABYMETALであったが、彼女たちの故国で生み出した熱狂のすさまじさは言葉で表現しきれないほどだ。広島のふた晩は、単なるコンサートの域を越え、6体のフィギュアと大金をかけたアリーナの大騒動、他では絶対に観られないスペクタクルだった。巨大なキツネの頭(日本語で狐を表す、このバンドの神話に度々登場する偶像)を背景に、BABYMETALは歌い、叫び、踊った。MOAMETALがステージを飛び回ると地獄の業火のようにパイロが爆発し、マスクをつけた「神の僕」がSU-METALの到着を告知する。この夜のレーザーショーは、たとえどんな空港でコンサートをやったとしても、その着陸用ビーコンの美しさをはるかに越えていただろう*5

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集合した観客たち ー キツネの面をつけ、大きなメダリオンを首に下げ、おどろおどろしい頭巾を被っていた(参加者に配られた「三種の神器」だそうだ) ー は、神バンドがリフを繰り出すたびに、SU-METALがステージの上から煽るたびに力を増していくように見えたのだが、かたや合間のナレーションでは薄気味悪いほどの沈黙が訪れた。観客が音楽に合わせて返すレスポンスはあまりにも正確で、振り付けられた手順を誰も間違わないのは気持ち悪いほどだ*6。それでも、メインフロアで起こったモッシュピットのカオスは、このように巨大なショーには稀なほどに、ひたすら熱狂が溢れていた。2日目公演の後、SU-METALは家族や地元の友達と、短いが気のおけないひとときを過ごした*7

この広島公演は、SU-METALがバトンを託され落日に立ち向かう儀式のように捉えられるかも知れないが*8、それとは別の目的もあったようだ。それは、己れの感情の赴くままに生きたいと願う人々のために、彼女の情熱がその道標となること。それに加えて、SU-METALは自身のスキルを磨くための実戦の場として、この公演を捉えていた。SU-METALは言う「この公演は、いままでに無い、コンサートというよりミュージカルのようなものだった」。「これまでやったことの無い経験ができたし、このセットリスト中の個々の曲だけに集中できた」。

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SU-METALと仲間たちは、ライブを周るなかで、本来ならずっと年を重ねないと得られないような自信と安定性を確立してきたのだが、それでも音楽に対する若々しい情熱を、依然として心の中に抱いている。SU-METALは、Red Hot Chili PeppersMetallica 等と共にしたツアーを思い起こす。「今年の4月に Red Hot Chili Peppers と合衆国でツアーをしたんだけど、最後のショーのときにコラボしないかと誘われた」。「2016年の12月に一緒にやったときはChad(Smith、ドラマー)だけだったんだけど、こんどの4月は Red Hot Chili Peppers の他のメンバーも参加してくれて、それは忘れられない経験になった。特別だったのは、彼らが私たちの歌(Gimme Chocolate!!)を演ってくれたことだった」。

BABYMTELは、Metal Resistance神話の8番目のエピソード*9に向けて準備中なのだが、SU-METAL自身は、来るべきライブで、まるでYouTubeの「 Reacts To BABYMETAL」のように、新しい観衆を魅了する(ときには混乱させるかも知れないが)ことを待ち望んでいる。「世界のいろいろな所に私たちを待ってくれている人々がいると思うと、まだ行ったことのない国にいる彼らに、早く会いたいと思う」

あとがき

前の記事で「山本彩を甘やかすな」と言っていたら、Su-metalにも同様に「Su-metalはたいへんな努力をしている」などと甘やかす連中がいるらしい*10

Su-metalは若くして既に、とても高い位置にいる一流シンガーだ。私は思うのだが、こういう一流あるいは超一流と言えるようなアーティストに、彼女たちが作品や公演のためにしている準備や練習を褒め称えることは、彼女たちに対する一種の冒涜に近いのではないだろうか。

むかし落合博満は、新聞記者が見ている前では真剣に練習しなかった*11。それは、オレを評価するのは試合で出す結果であって、そのためにどれだけ準備しようが、結果が出なければそんなものに何の価値もないという彼のダンディズムのためだった。その裏にあるのは、オレは結果を出せるのだという圧倒的な自信だ。

そもそも、努力などという言葉は、頑張っても結果を出せない人のためにある言葉だ。一流の連中は、練習すれば必ず結果につながる。そういう成功体験をつねに重ねているわけだ。だから、しんどいことであっても辛くはない。これに対し、一流でない人は一生懸命頑張っても結果に繫がらない。それでも諦めずに頑張る人にだけ、努力という言葉を使えるのだ。

一流の人間に対しては、その結果だけを評価すれば良い。Su-metalは、その圧倒的なパフォーマンスを褒め称えるだけで良いのだ。

*1:表題の「寿ぎて」は「ことほぎて」と読んでください。原題の「for a momentous occasion」に対応します。また、「返す」という動詞は、元へ戻ることを表します。この用法では、本能寺の変のあとに秀吉軍が行った「中国大返し」が有名ですね。この場合は、BABYMETAL軍団が広島へ向けて「返す」わけです。なお、「中国大返し」の際の相手方である毛利軍の大将は小早川隆景と兄の吉川元春でしたが、小早川の本拠は現在の広島県三原市です。小早川と吉川(きっかわ)という名字を持つ人には、現在も広島に縁のある有名人がいますね

*2:BABYMETALがオルタナティブロックに分類されたのは初めてのようにも思うが、なにしろAP(オルタナティブプレス)の記事だから仕方がない

*3:ヘビーメタルをやるような連中は「不良」という定番になっている

*4:アメリカのテレビアニメ。 https://mylittlepony.hasbro.com/en-us

*5:困惑するほど奇妙な比喩と文章だ。夜の空港に現れる、幻想的なビーコンの列(滑走路や誘導路の目印となる灯り)より綺麗だったと言いたいのだろうが。言葉を足したり削ったりして訳したが、意味は分かりますか?

*6:私は古い人間なので、この振り付けのある応援が気持ち悪くて仕方がない。BABYMETALの東京ドーム公演はちょっとした悪夢だった

*7:このエピソードが突然、ここで出現したのは何故だ?

*8:Metallicaの前座をやった韓国公演についてのMetal Hammerの記事で「バトンを受け継ぐ」みたいな表現があったのだが、それと関係するのか?

*9:8番目というのは、著者の勘違いだろう

*10:この二人には、とても似ているところがある。いずれ書いてみたい

*11:かげでは猛練習していたらしい

山本彩を甘やかすな

山本彩のファンの多くは、彼女が「シンガーソングライターという夢を目指して頑張っている」ことを応援しているようだ。

だがそれを聞くと、私はとても奇妙に感じる。山本彩は既に日本のトップシンガーの一人であって、ソングライターとしても、過去2枚のアルバムにおいて十分過ぎるほどの才能を示しているのだから。彼女が一流のシンガーソングライターでないとしたら、だれがそうであるのか、私には思いつかない。

多くの売れないミュージシャンにとって、フルアルバムを2枚もメジャーリリースすることは夢の夢である。それを実現してしまった彼女をまだ夢の途中にあるなどとみなすことは、大多数のミュージシャンに失礼なのではないか。

おそらく、アイドルというものは音楽的にとても低い水準であるということを、彼女のファンでさえも信じ込んでしまっているのではないだろうか。そういうファンたちは、山本が誰か他人の曲を演奏したら、「よく頑張ったね」とか、「よく努力したね」とか褒めそやす。しかし、彼女がアイドルでなく普通のアーティストであれば、果たしてそんな評価を与えるだろうか。一流のアーティストが、例え他人の曲であろうが、観衆を感動させるような演奏をすることは当然なのだから、結果が良ければ褒めるだろうが、芳しくなければ厳しく非難されるのではないか。

「UTAGE」という番組で、弾き語りの途中で止まってしまったことがあったが、あれはミュージシャンとして恥ずべきことだった*1。もちろん彼女の音楽活動にかける時間が制限されていることは分かる。しかし、それは彼女がそういう道を選んでいるからであって、出来ないならば仕事を引き受けなければ良いのだ。絶対的に時間が足りなければ、アイドルをやめるかアーティストをやめるか、どちらかを選べば良いだけだ。

山本彩は既に、夢の途中ではない。そこには、一流のアーティストとしての責任が生じる。これほどの才に恵まれた人間を甘やかしても、その「無限」では無いにしても極めて大きな可能性を潰してしまうだけだ*2

*1:そもそも、レコーディングの佳境で、あんな仕事を引き受けるべきではなかった

*2:とてもしたたかな彼女が、この程度でスポイルされるとは、本当は思わないけどね

Kim Kellyの異常な愛情、または、彼女は如何にして心配するのを止めてBABYMETALを愛するようになったか

これは、昨年の5月にNoiseyのサイトに載った記事の翻訳だ。インタビューに入る前までの訳は出来ていたが、インタビューになってから嫌になって、長いあいだ放っておいた*1。今回、在庫整理のつもりで公開することにしたのだが、その動機のひとつは、Kim Kellyが記事のタイトルにこめた意味に気づいたからだ。


ヘビーメタルのライターは、記事のタイトルを映画のタイトルと引っ掛けることが好きなようだ。

Metal Hammer 273号のカバーストーリー「When Worlds Collide」も1951年の映画のタイトルを流用したものだ。この映画の日本語タイトルは「地球最後の日」である。これは、原題から離れて映画の内容を日本版タイトルにしたものだ。だが、BABYMETALの記事のタイトルとしてこれを使ってしまったら、記事の意味が全く分からなくなる。そのため、私は翻訳記事のタイトルを「ふたつの世界が衝突するとき」にした*2

これに反して、Kim KellyがNoiseyに書いた記事には、映画の日本語タイトルがそのままの形で見事に嵌ってしまう。彼女の選んだタイトルは、"How I Learned to Stop Worrying and Love Babymetal" である。

実を言うと、私は最初、記事のタイトルにまったく感心を払わなかった。それが、翻訳を再開しようと改めてタイトルを意識したとき、これは何だか決まり文句のようなタイトルだなと感じたのだ。調べるとすぐ分かった。スタンリー・キューブリックのブラックコメディー "Dr. Strangelove or: How I Learned to Stop Worrying and Love the Bomb" だったのだ。この映画には、ほとんど直訳に近い、とても長い日本版のタイトルがついている。

博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」

Kim Kellyは、どうやらタイトルに意味を込めていたようだ。これに対する分析、というより邪推はあとがきで。

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私は如何にして心配するのを止めてBABYMETALを愛するようになったか

Kim Kelly著 2016-05-12 Noisy

日本のポップメタル現象すなわちBabymetal、その裏側にいる3人の少女に膝を交えてインタビュー

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Babymetalの世界に一歩でも足を踏み入れてしまったなら、そのシュールさが身に染みて分かるようになるだろう。Su-metal、MoametalとYuimetalは、私の真向かいに座った。彼女たちのメタリックシルバーと黒のステージ衣装が輝き、彼女たちの明るく好奇心旺盛な目にはコールが引かれている。彼女たちの小さな体が大きな赤いカウチの端に収まり、手は澄ましげに重ねられ、真紅のチュチュが優雅に盛り上がっている。紹介がすむと、通訳が位置につき、私は承認済みの質問リストにとりかかった。私は、表向きはあくまでも通訳の仕事を軽減するという理由で、それを予め送るように要請されていた(そうは言っても、経歴についてのふたつの質問を削るように言われた。Babymetalはキャラクターを壊さない)。普通なら私はそんなことはしないのだが、言葉の壁を理由にして、それを例外とした。それほどまでに、私はこのインタビューに興味をそそられていて、いくつかの譲歩も喜んで受け入れたというわけだ。既に伝えていたように*3、気持ちの良い、まじめで、とても気遣いのできる女の子たちだった。私が質問をする度に、3つの小さな顔は私を一心に見つめ、誰が担当するのかを決めると、答えが用意され、通訳を通じて伝えられた。

その間ずっと、五・六人の大人たち ー マネージャー、メイクアップアーティスト、そして、バンドのプロデューサーであるKobametal。時にはインタビューに応じるこの男に対して、今回の私は話をすることが許されなかった*4 ー が、うしろで遠慮がちにぶつぶつ言っていた。彼らは邪魔をすることは無いものの、そうかと言って出て行きもせず、ずっとそこに居すわっていた。それでも、女の子たちは周囲の出来事には一切惑わされず、ひたすら、その場の仕事に集中していた。こんなことは、彼女たちにとっては日常茶飯事だ。Babymetalプロジェクトの一員となることを承諾した ー 神話では、狐神の命令になっている ー その日から、彼女たちが組み込まれてしまった大きな機械の中では、それは必要不可欠なことなのだ。最初に受けた印象からすると、彼女たちはとても楽しそうだった。彼女たちの目は輝き、ちょっと間が空くとクスクス笑う。傍目から見ても、通訳との関係は親密で、気持ちよさそうで、愛情に溢れていた。彼女たちは私をすっかり魅了してしまった。正直に言うと、気まずくて堅苦しい出会いを予想していた。だが彼女たちは、もう何度も繰り返したであろう答えにも真剣に取り組み、とても大切なことであるかのように振る舞ってくれたのだ。最後には、私はしっかり彼女たちの味方になっていた ー #BabymetalHive*5の一員には決してならないにしても、Twitter上で彼女たちを守るぐらいはやらせてもらったよ。雄弁な2016年になりそうだ。

日本のポップメタル現象、BABYMETALの背後にいる3人の早熟な十代の女の子にインタビューしたことは、私の十年を越えるキャリアで、最も奇妙な経験のひとつだった。それはひとつに、私がいつも取り上げる一連のバンドに比べると(注目度が徐々に上がってはいるものの、エクストリームメタルはまだ、ビッグではない)、彼女たちは圧倒的に人気があることだ。日本で大きな存在であるだけでなく、合衆国をも征服してしまった。間もなく始まる北アメリカのツアーは大半が売り切れ、最新のアルバムMetal Resistanceは、ビルボードチャートを壊滅した。彼女たちはとても多くのファンに崇拝されている。彼らは、Babymetalの教義を広く遠くへと伝えることに身を捧げている。彼らのBabymetalとバックバンドへの熱烈な愛は、大衆による崇拝という意味では#Beyhive*6に匹敵するものだ。私は、ひと月ほど前にBabymetalの女の子たちとの写真をツイートした時に、そういうレベルのファンダムというものを味わってしまった。それからというもの、Babymetalファンのアカウントから、リツイートとお気に入りが増え続けている。私が彼女たちの演奏を初めて見たあとに書いた、ノリの悪いレビューを覚えていた連中は、まだ私に腹を立てているか、私のこのバンドに対する見方が和らいだことを喜んでいるか、そのどちらかだ。

Babymetalのファンが、彼らのアイドルを愛する強さと言ったら、それには驚いてしまう。BabymetalによるJポップとスラッシュがかったニューメタルの混成物が、いかにメタルの鉄の門をこじ開けてきたかという事実を考えにいれなかったら、ときにはその強さに引いてしまうほどだ。それがまた、彼女たちが嫌われる所以でもある。彼女たちの音楽を最初に聴いたときには、私も我慢できなかった。ブラストビートとブルース基盤のリフに慣れた耳にとっては、彼女たちのブレイクアウトシングル「Gimme Chocolate!!!」は、とても耐えられないものだった。メディアの媚びへつらったような反応も ー 出版界は一斉に、彼女たちをエキゾチックなものとみなして殺到した ー かなり私をうんざりさせた。だが、彼女たちのライブを見た時から、私は彼女たちのスキルに敬意を抱くようになった。ただ、彼女たちのライブショーにおける誇張と壮観を否定することはできないとは言え ー 生きている目玉をもっているなら誰でもそうだろう ー やはりバンドに会うまでは、その本当の魅力は分からないものなのだ。

男が支配する業界で*7、Babymetal ー 3人の若く、勤勉で、才能に溢れる、有色人種の女性 ー がスタジアムを一杯にし、船一杯の商品を売っても別にいいではないか。その業界は彼女たちの存在によって大混乱なのだが、彼女たちを中傷する連中は、メタルの長い歴史が実験とジャンルの混ぜあわせの繰り返しであったことを忘れているようだ。こう言えば十分だろう。私は、今Babymetalのアルバムを聴くためにここに座っているわけではないにしても、少なくともサイドラインから彼女たちに声援を送るようにはなったのだ。

先に言ったように、私たちは通訳を介して話をしたため、少しばかり靴の上から足を掻く感があるものの、それでも私は、幾度かは彼女たちのキャラクターを破ることができ、彼女たちの深層に迫れたのではないかと自負している。そこにいるのは、スタジアムときらめきに散りばめられ、問われるやいなや即座にIron Madenへの愛を語る、大冒険の中にある3人の若い女の子だった。彼女たちに初めて会ったときに私が書いたように、君たちは君たちの道を行けばいいんだよ、BABYMETAL。君たちは君たちの道を*8

Noisey: 初めてBABYMETALに参加したときは、どんな感じだった?このバンドの背後にあるアイデアの、どの当りに興味を引かれたの?あなた達に、何が「これに参加したい」と思わせたの?

たぶん、あなたが期待してる答えと違うとは思うけど、Moametalはこう言ったわ。彼女たちは狐神に選ばれてBabymetalになった。狐神はBabymetalを支配し、彼女たちがすることに啓示を与える。だから、彼女たちは特別の選ばれた存在であり、彼女たちの役目は、狐神が語り命令したことを実現することだと*9

OK。分かった。それじゃ、あなた達は今、BABYMETALでいて、メタル世界で数年を過ごしているのだけど... メタルヘッズやメタル世界について知ったことの中で、一番興味深かったことは何かしら?

Yumetalが言うには、彼女が初めてメタルに出会ったとき、本当に初めてのことだらけだった。だけど、メタルから学んだ一番大きいことは、音楽を通してなら、様々な場所から来た様々な人々と合い通ずることができるということ、つまり国境がないということ。それは何処までも、ずっと広がっている。だからこそ、彼女はメタルをもっともっと学んでいきたいと思っている。今まで考えたこともなかったような多くのことに出会えたのも、そして今も新しいものに次々に出会っているのも、メタルのお陰だと彼女は感じているから。Babymetalとして何をやって行きたいか、彼女には望みがある。彼女たちがそうであったように、まさかそんなことに興味をひかれることになるとは想像もできなかったようなものに出会える機会を、他の人にも分け与えて行きたいということだ。彼女たちは、それをメタルから学んだ。


私たちも、そう思う人が多いと思うよ。あなた達の新アルバムについてだけど、面白いと思ったことのひとつに、「The One」は初めて英語で歌ったよね。別の言葉で歌うというのは、どんな感じだったの?

Su-metalが言うには、英語で歌う理由のひとつは、世界中のファンと直接につながりたいと思ったこと。だから、「The One」の歌詞も、音楽を通じて皆がひとつになることを表している。もうひとつの理由は、彼女達は常に何か新しいことに挑戦したいと思っていること。彼女が言うには、このレコーディングはとても難しかった。正確に発音するのはとてもたいへんだった。簡単ではなかった。だけど、そんなときはいつも、彼女たちのショーの中で海外のファンが一緒に日本語で歌ってくれたことを思い起こす。彼らがみんな勉強してくれたんだから。それを思うたびに、頑張らなければという気力が起きる。英語の歌をしっかりと伝えられるように。いまになって(この歌に対する海外のファンの)反応をみると、悪くはなさそうだ。

スタジオではどんな風だった?ずっと閉じこもって、いろんなことをやったのかな、それともボーカルと歌詞だけに集中したのかな?

彼女たちが新アルバムをリリースすることを知ったのは、去年の年末12月の横浜アリーナでのコンサートだった。ショーの最後にアルバムを出すことが発表された、まさにそのときだった。そのときに初めて何もかもを知らされたので、「ええっ、時間があるかな?4月1日にリリースするんだから、もうあまり時間がないよね」のようだった。それで彼女たちは少し不安になって、どうしていいか分からなかった。それでも新しい曲を聴いて、アルバム作りを一緒にやり出して、出来上がってきたメロディーを聴いたら、Yuimetalは、どの曲もとてもすごくて、きっとみんなが楽しんでくれるだろうと思った。Babymetalの曲がこうやって出来ていくのだなと学んだ。だから、新アルバムを録音したことは、とても楽しい経験となった。

録音中で一番たいへんだった曲は何だった?「The One」がボーカル的には挑戦だったと言っていたけど、他にもたいへんだった曲はあるかしら?

Su-metalとしては、彼女が言うには、いちばん録音が難しかったのは「Tales of the Destinies」だった。と言うのも、テンポが通常の4ビートでも8ビートでもなく、半ビートとか1/4ビートみたいだったから。だから、曲の全体を通じて一定のテンポというものがなかった。だから、とてもハードで、クリックが鳴っていても、合ってるのか間違ってるのかがわからない。曲の感覚をつかむのに精一杯で、だからレコーディングは本当にたいへんで、心配で「ライブでは、どうなってしまうのかな?」と考えてしまった。いつかやってみたいけど、簡単ではなさそうだ。

今回、スタジオで何か新しく学んだことがあったかな?

Su-metalとしては、彼女がレコーディングの過程で思ったのは、歌というのは生き物だということ、それは常に形を変えていくから。今日はこういう風に歌っても、明日になると、突然、こっちの方が良いと思ってしまう。ほんとに生きているみたいに感じる。だから、単に技術的なことではなくて、そのことをレコーディングの過程から学んだ。つまり、日ごとに歌う度に歌が成長して、それは、常に運動し、変化する生き物のようだということ。


あなた達は先程、「The One」にふれたとき、アメリカのファンとシンガロングしたいと言っていたんだけど、こっちのファンと日本のファンでは、どんな違いがあるのかしら?

Moametalが言うには、時々とても面白いと思うことがある。ファンの人たちは、みんな日本語でシンガロングしてくれる。こっちの人たちはSu-metalとシンガロングするのだけど、日本ではそんなことがない。日本のファンは、YuimetalとMoametalのパートを一緒に歌う。それが大きな違いだと気づいた。だけど、そんな違いはあったとしても、どの場所でも観衆がいつもすごいので、コンサートがいつも楽しい。経験することが全て、私たちには驚きに満ちていて素晴らしい。

さて、アメリカ人はリードシンガーだけに注目することが多いのだけど、それは日本のポップではグループ全体なのとは違っているよね。それが、こっちでSu-metalが注目される理由だと思わない?

彼女たちは、そういう文化的な違いは分からない。そうかも知れないけど。(女の子たちは、驚いたように話し合っていて、こういう見方にびっくりしているようだ)。

あなた達は、たいへん論争の的になるバンドだよね。多くの人はあなた達が大好きだけど、受け入れてくれない人たちもいる。Babymetalを嫌いな人を振り向かさせたいとは思っていないの?。それとも、あなた達を擁護して愛してくれているファンに集中することの方が大事だと思っているの?

Su-metalとしては、人はみんな何を考えようと、それは自由だと思っている。だからそういうこと、彼女たちのやり方を受け入れられない人たちや、彼女たちをメタルではないと考える人たちがいることも、彼女たちは十分に分かっている。だけど、彼女はそれでいいと言っている。彼女には彼女の考えたいように考える自由があるから、彼らも彼らの考えたいように考えることができる。それはそれとして、こういう人たちが居るのも大事なことだと感じている、それも勉強だから。こういう人たちが居て、そういう音楽に対する見方を受け入れるのも大事なことだと教えてくれている。やっていることをみんなに愛してもらう必要はない。みんなをBabymetalのファンやサポーターにしてやろうなんてことはしない。Babymetalの音楽が好きな人だけで十分だ。誰かに彼女たちの音楽を強制することはしない。

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メタルヘッズの中に、あなた達を恐れる人たちがいるのは何故だと思う?

Su-metalは、彼女たちが最初にメタルに対して抱いた反応と、これは全く同じだと言っている。彼女たちは最初にメタルを聴いたとき、「神さま、これは何?」みたいで、恐ろしくて、暗くて、大きな音で、それはエイリアンみたいだった。メタルファンがBabymetalに抱くのも、たぶん同じことなんだ。彼らにとってはエイリアンなんだ。ステージでダンスするメタルバンドなんていないし、私たちがステージで着るような衣装を着ているメタルバンドもいないし、Babymetalみたいな音楽を作るメタルバンドもいない。だから、それは彼女たちの反応と全く同じことなんだ。彼女たちにとっては、新しいもの、他とは違ったもの、類をみないものに出会ったんだから。彼女たちがメタルを全く知らないときに、彼女たちにメタルが与えたことと同じことなんだ。

あなた達の衣装についてだけど、ビジュアル的な要素は、どれだけ重要なんだろう。

それは、とても大事なことだ。Yuimetalが言うには、彼女たちは特有の外見をしているけれど、ビジュアル的な表現の背後に特有のテーマがある。彼女たちの衣装も同じことで、見たように黒と赤だけど、これは可愛らしくてきれいなものと、メタルみたいなヘビーでハードなものの融合を表している。黒はそういうものを、赤はグループとしての彼女たちのような、より女性らしいことの表現だ。だから、彼女たちにとってビジュアルは大事なことで、Babymetalとしての彼女たちのメッセージなんだ。

まるでメタル戦士がゴシックロリータに出会ったみたいな見かけだからね。着るもので表現することがあるの?

そう、将来どのような衣装を着たいか、彼女たちが話し合うこともある。今回の彼女たちの衣装は黒が多くて、前は赤が多かったんだけど、これは彼女たちが成長して大人になってきたことの表現なんだ。少しずつだけどね*10。だから、これもBabymetalの要素なんだ、彼女たちが前のアルバムから2年間で、どれだけ成長したかを見てほしいということなんだ。ツアーを経験して、彼女たちはとても多くのことを学んだ。Bebymetalの外見も含めて、彼女たちはいろんな面で成長したということなんだ。

あなたたちはこの数年、ツアーでたくさんのクールな人たちと出会ってきたよね、Lady GagaとかMetallicaとか、次には誰と会いたいの?

(女の子たちみんな) Iron Maiden!

私は彼らと会ったばかりだよ

どこで?

マジソンスクエアガーデン

(女の子たちみんな)ええーーー! (呆然として)あー、見逃した!

彼らは長いツアーの途中だから、どこかで会えるよ!

そうね、彼らは日本へもたぶん来るから、日本で会えるよね*11。Yuimetalの答えに戻ると、彼女が言うには、あなたが言うように、MetallicaからLady Gagaまで、たくさんの人々に会ってきた。その人々と話したり、一緒に写真を取ったり、ステージ裏から観たりした。それらは全て素敵な出来事だった。だけど、彼女にとっての一番は、Ariana Grandeと会ったときだった。彼女はずっと前からAriana Grandeのファンで、テレビ画面でもパソコンの画面でもなく、生で彼女に会えたのは素晴らしいことだった。彼女が言うには、Ariana GrandeがBabymetalの存在を知っていたと分かったときには、それはびっくりした。あの瞬間はけっして忘れることはない。それはそれとして、彼女たちが会いたいと思っているのは、いま言ったんだけど、Iron Maiden。

あとがき

Kim Kellyがタイトルに込めた意味はふたつある。そのひとつは、Kim Kellyaは最初、BABYMETALを恐れていたのだが*12、ついにはBABYMETALを愛するにいたったということ。これは、誰の目にも明らかだ。

そして、もうひとつは私の邪推なのだが、Kim KellyのBABYMETALに対する愛情が「異常」であるということだ。もちろん、「異常」というのは日本語版のタイトルであって、本来は「奇妙」とするべきなのだろうが。

そのことを表わすのは、原題では"Dr. Strangelove or:"の部分だ。だが、Kim Kellyはそれを省いている。それは、わざとやったのだ。

おそらく、Kim KellyはLGBTなんだと思う。だが、今どきアメリカでLGBTを異常などというのは、キリスト教関係者に支持された保守派の共和党議員ぐらいのもので、まして本人がそう思うわけがない。彼女が異常、あるいは、奇妙だと感じたのは「ペドファイル」ということだ。

以前の記事でも扱ったが、アメリカではBABYMETALのファンのことをペドフィリアと罵ることがあるらしい。ペドフィリアは、精神的疾患のひとつで幼児性愛症のことだ。ペドフィリア(pedophilia)は症例としての呼び方で、その患者はペドファイル(pedophile)である*13

冒頭のBABYMETALと一緒の写真を観ると、Kim Kellyは明らかに顔が赤い。正確に言うと、顔が赤いと表現されるような、恥ずかしそうな笑顔をしている。とても、コワモテのヘビーメタルライターの印象ではない、思春期の少女のような顔だ。

Kim KellyのBABYMETAL(の誰か)への愛情は、一目惚れのようなものだった。そして、それに気づいたとき、アメリカ人の目からすると子供のように見える女の子を愛する自分をペドファイルだと思ったというわけだ。その対象がYuimetalなのかMoametalなのかについては、しかとは分からないのだが。

*1:あまりに通訳がひどいので。通訳というより要約だ。しかも同じことを繰り返したり、接続詞が反対の意味だったり。BABYMETALの喋った日本語の雰囲気は、100%消失していると断言できる。意地悪なKim Kellyは、それを会話らしい文章に戻すことをせず、通訳の言葉をそのまま載せたようだ。通訳が3人と仲の良いことに嫉妬したのかも知れない

*2:原題にある「Worlds」は「2つの惑星」という意味なのだが、Eleanor Goodman記者は、これを文字通り「2つの世界」として使っている。この「2つの世界」は、記事中で「BABYMETALファンとへイター」、「ポップとヘビーメタル」、「メタル改革派と純粋主義者」、「東洋と西洋」など様々な意味で使われている。Eleanor Goodmanは、様々なニ元論あるいは対立を持ち出して、BABYMETALがヘビーメタルの世界に与えた衝撃を表現しようとしたのだ。だから、この記事を翻訳するなら、そのタイトルは「地球最後の日」ではなく「2つの世界が衝突するとき」でなければならなかった

*3:Twitter

*4:小林は、Kim Kellyを怖がっていたのだろう

*5:後で出てくる#Behiveをもじったシャレ。Twitter上のBABYMETALのファン組織のことを指しているのだろう

*6:BeyonceのファンによるTwitterアカウント。https://twitter.com/beyhive

*7:本来は「白人の男が支配する業界」としたかったのだろう。その証拠に、後の文でこれと対になる「有色人種の女性」という表現を使っている

*8:「You do you, Babymetal. You do you」。以前のなかば批判的記事なら、「君たちは君たちの勝手にすればいいさ」などと訳するのだろうが

*9:この辺りの答えは本当につまらない。いい加減にしないと、メディアにも愛想をつかされる

*10:適切なことではないが、通訳が自分の考えを述べている。通訳からすると、彼女たちはずいぶん子供に見えるらしい

*11:通訳の言葉なんだろう

*12:ヘビーメタルの脅威として

*13:このごろ、アメリカのテレビドラマで「ペドファイル」というのを何回か聞いた。それは、精神的疾患というより、ちょっとからかったような言い方だった。つまり、日本語の「ロリコン」に近いような言い方だったのだ。ちなみに、ロリータ・コンプレックスは、ほぼ和製英語