BABYMETALと大きなお世話

Su-metalにとっては、彼女が17年の人生で思い描いてきたであろうことのそれ以上を、既にやり遂げてしまったことになるのだ。(Metal Hammer 278号の記事より)

BABYMETALが、来年のCarolina Rebellionに出演することが発表された。5月8日の日曜日である。このロックフェステイバルは、大成功した今年の結果を受けて来年から3日制に移行する。これでCarolina Rebellionから2週間後のRock on the Rangeへ続くシリーズが確立されたことになる。そのため、ほとんどのバンドが両方のフェステイバルに出演するのに対し、BABYMETALだけがRock on the Rangeをパスしている。Rock on the Rangeの2016年の出演者予想に、今年に続いて出演が期待されるバンドとしてBABYMETALが挙げられていたにも関わらずである。

これはやはり、彼女たちの学校のためではないか。4月2日にWembley Arenaがあるので、いつものように肩慣らしを兼ねたような公演を含めると、2ヶ月ほどの間にその半分以上を演奏旅行に取られることになる*1。これは、さすがに辛いのだろう。そもそも、一介の高校生が大きなロックフェステイバルの常連であるという事実が、相当に奇妙なことである。BABYMETALのアイドル風のスタイルより、この年齢的なミスマッチの方がよっぽど変わっている。

大きなお世話

高校生といえば、BABYMETALのリードシンガーはもう、この時点では高校を卒業していることになる。彼女は将来、自分で曲を書きたいらしい。

何ヶ月か前、2chか何かで、彼女が大学へ進学するべきかどうか議論していたのを目にしたことがある。いくらファンでも、そこまで他人の個人生活を話題にするというのは、「大きなお世話」ではないかと思う。その場で、曲作りのためにも大学へ行った方が良いという意見が出ていた。私は、それに対するあまりにもスカタンな反論が妙に気になった。それは「音大で専門教育を受けた連中でもうまくいかないことが多いのだから、大学へ行っても意味がない」というのだ。

Metal Hammerが言うように、彼女は17歳で既に、少女時代の夢の全て以上のものを実現してしまっているのだ。ピンクレディーにしても、松田聖子にしても、宇多田ヒカルにしても日本で頂点を極めはしたが、海外で成功したいという夢を実現することはできなかったのに。これから彼女がどんな夢を持つにしても、それは本当の「夢」ではなく実現可能な目標でしかなくなってしまったのだ。

そんな彼女にとって、大学へ行く意味はただひとつ、普通の生活をするためだ。高校生と社会人の間にある奇妙なモラトリアムを、同世代の人たちと一緒に過ごすためだ*2。学食で友達と他愛のない話をしたり、面白くもない講義のために徹夜でレポートを書いたり、コンパで酔っ払ったりするためだ*3。高校時代に既にプロのソングライターだった荒井由美松任谷)にしても、初期の名作「いちご白書をもう一度」や「卒業写真*4」や「中央フリーウェイ」は、多摩美日本画科の学生生活の中から生まれたものだ。

彼女のインタビューが、Metal Hammerの278号に載っている。例によってPBOTC-TIS*5なのだが、写真も273号のものを使いまわししているし、メールでインタビューしたものだろう*6

以下、翻訳です。

http://i.imgur.com/nJLzo6Y.jpg

2015: メタルでの一年 狐神の巫女から強かな女へ*7

獣神は、Su-metalをBABYMETAL最高の年に導いた

2015年のBABYMETALの興隆については賞賛や論争の種に尽きることがないのだが、ともすれば、3人のティーンエイジャーは自分たちが本当に好きなことをやっているだけなんだということが、忘れられがちである*8。そのひとりSu-metalにとっては、彼女が17年の人生で思い描いてきたであろうことのそれ以上を、既にやり遂げてしまったことになる。この12ヶ月における彼女自身のハイライトは、彼女の相棒であるMoametalとYuimetalを従え、たくさんの支持者を前にしてReading and Leedsフェスティバルのステージに立ったことだった。

「私たちは最初の出番だったんですが、オープニングアクトを聴きにくる人なんて誰もいないと聞かされていたので、ほとんど人が居ない前で演ることを覚悟していたんです」と彼女は思い起こす。「だけど、そうじゃなかったんです。本当にたくさんの人が私たちを観に来てくれて、最初は斜に構えていたような人も、ある時から笑顔になって、そして最後にはキツネサインを掲げてくれたんです。それが私には自信になって、本当にやったんだなと信じることができたんです」

Su-metalは誰もがBabymetalのファンだとは思っていないようだ。それでも、今年多くの人が狐神に改宗したことで、たとえ反対している連中が何と言おうと、何がなんでも成功するのだという決意を彼女に抱かせたようだ。

「私たちは今年、2度目の世界ツアーをやりましたが、前よりも多くの人が私達のことを知ってくれていることを感じました。フェスティバルでもたくさんの人が会いに来てくれました*9」と彼女は続ける。「今年やったショーとフェスティバルを通して、自分たちが成長したなと感じることは、3人が一緒でさえあれば、何が起ころうとそれを乗り越えることが出来るのだという、確信を持てるようになったことです」。

*1:Wembleyの後、一度日本に戻るにしても

*2:もちろん、彼女にとってはモラトリアムではない

*3:残念ながら、就活だけは一緒にできない

*4:つい最近、「卒業写真のあの人」が、高校時代の恋人ではなく、彼女の才能に期待をかけてくれていた美術の女性教師だったことを知った。大スターへの道を駆け上がる彼女が、絵の道を棄てざるを得ない葛藤を描いたらしい

*5:"Put Babymetal On The Cover To Inflate Sales"。Redditで誰かが使っていた言葉だが、面白いので気に入っている。省略形にしたのは私の責任です

*6:オッサンやオバサンである他のロックスターたちに比べて、17歳の少女が気のきいたことを言える訳もないのだが、何となく変わりつつあるような雰囲気がある

*7:後述のlive-love問題を確認しているときに、この記事がteamrockサイトにあがっていることを見つけたのだが、題名も変わっていた。"2015: A Year In Metal - The Fox Priestess to The Survivor"というのだが、この「The Survivor」というのが分かりにくかった。文中の内容から類推すると、おそらくこういう意味になると思うのだが。狐神に庇護されていた存在から、自分たちの力で道を切り開くことが出来る女性へ成長したということかと

*8:この部分、ご指摘を受けて修正した。コメント欄を見ていただいたら分かるように、loveとなるべき所をliveと読んでいた。別にat the heart of itの意味を教えてもらったのだが、liveならしっくり来なかったがloveだったらうまくはまる。著者が言いたいのは、彼女たちはプロデューサー(=狐神)の操り人形ではない、自分たちの道を自分たちで選択しているのだということか

*9:観客のことではなく、彼女たちと一緒に写真を撮ろうとつめかけた共演者たちのことを言っているのだろう