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馬に関する誤訳

本・小説

この記事は、書いてから半年ほどたってから間違いに気づいた。菊池光は、stallionを「繁殖牡馬」と誤訳したのではなく、broodmareを「種牝馬」と訳してしまったのだった。そのため、一部修正した(2015-09-29)

数日前、BABYMETALの新曲の振り付けに対する考察に対して、馬に鞭を入れるのは「whip」であって「thrash」は使わないと文句をつけた。だが、このような馬に関する誤解や誤訳はたくさんある。

イギリスでは乗馬や競馬としての馬の文化的伝統が非常に深い。そのため、普通の日本人が使わないような使い分けが多々ある。もちろん日本語にも乗馬や競馬関係者が使う専門用語は存在するが、一般には知られていない。

競馬ミステリーで有名なディック・フランシスは、菊池光という人が全シリーズを翻訳している。この人にも誤訳が多かった。ただし菊池光はヘボな翻訳家ではない。むしろ名翻訳家として知られ、なくなった時にはディック・フランシスが追悼文を寄せたそうだ。ただ、明らかに馬のことはご存知でない。

ディック・フランシスの初期の傑作「血統」は、優秀な血統を持つ種牡馬が主たるモチーフである。その種牡馬の相手となる牝馬のことを、競馬用語では「繁殖牝馬」と呼ぶ。ところが若いころ読んだときには、「繁殖牝馬」ではなく「種牝馬」という単語が使われていた。おそらくstallionを「種牡馬」と呼ぶので、その相手であるbroodmareのことを種牝馬と訳したのだと想像はできるのだが、そんな用語は聞いたことがない。頭の中で翻訳しながら読まなければならず、興ざめなことはなはだしかった。

その後、競馬関係者や競馬ファンから誤訳リスト(相当数あった)が出版社に寄せられたため、最近では多くが修正されているのだが、一時期の競馬関係雑誌では、「菊池光」という名が無知の代名詞のようにあげつらわれていた。ディック・フランシスの読者と競馬ファンの層はかなり重なっている。競馬ファンの気持ちとしては当然のことではある。

今でも誤訳は残っている。例えば「colt」や「filly」を若駒や子馬などと訳すこと。ダービーやオークスなどはまだ若駒でも分かるが、春の天皇賞に出るような馬は若駒とは言わない。日本語では古馬と呼ばなければならない。これは日本では4歳以上を古馬と呼ぶのに対し、英語では「colt」と「filly」が4歳以下を指し、分類が重なっているからである。

もし菊池光が競馬ファンなら、このような場合にはあえて「colt」(4歳以下の牡馬)と「horse」(5歳以上の牡馬)の使い分けをせずに、単に牡馬と訳したはずである。ファンにとっては細かいところが気になるのだ。

BABYMETALの3人は馬に例えれば明らかに「filly」だが、「mare」になっても「baby」なのかな?