BABYMETALとフィンランド

「もし君が本当にメタルでありたかったら、ルールなんか気にするな。君が本当に気にしなければならないのは、この宇宙で最も凶悪で、最もいけてる、くそ野郎のことだ。そう、それがBABYMETALだ」

Redditに、フィンランドの「The Magic of Metal」というメタルサイトで、BABYMETALのアルバムをレビューしたのが紹介されていた。

http://metalshockfinland.com/2015/07/27/review-babymetal-babymetal-2015/

レビュアーは、Teresa Hopkinsという人である。名前からすると女性だ。

これが、なかなか良くできている。さすが、ヘビーメタルが盛んな北欧の国らしい。私は冒頭にあげた部分が気にいっている。もちろん、これは最高のほめ言葉だ。これはEric Richardsという人物のコメントを引用したものらしい*1

この記事は既に日本語訳されていたのだが、明らかに急いで訳したとみえ*2、妙なところも多い。たとえば、著者は女性であるのに、地の文に男言葉を使っている。

そこで、自分で訳してみた。なお、曲目リストや演者リストなどは省略している。また、全体がかなり長いので、私のかってで、小見出しをつけた。

Review: BABYMETAL “Babymetal” (2015)

ヘビーメタルというものは、ルールを破るものだ。世の中の規範と敵対するものだ。私たちにとっては、反逆というジャンルが、とても馴染み深かったはずではなかったのか?ところが、随分長いことメタルミュージックのファンは、次に何が起きるのか予想できるようになってしまっていた。ほとんどのサブジャンルが同じものから生まれ、立ち居振る舞いにしても、生き方にしても、見かけにしても、もちろん音楽そのものにしても、すべてが同じ基盤をもっていたからだ。

ところがここに、そういうものを少し、いや、大きく揺り動かすものが現れてしまった。このコンセプト:BABYMETALに注目しよう。「kawaii」(日本語で可愛いことを表す)とメタルの融合に。元々2014年の2月26日にトイズファクトリーからリリースされていた、BABYMETALのデビューアルバムが、Ear Musicを含む複数のレーベルから再発売されることになった。「Road of Resistance」と「Gimme Chocolate」のO2ライブ版がボーナストラックとしてついている。

ご存知の通りBABYMETALは、音楽の世界における議論の中心になっている。去年に出た「Gimme Chocolate」のシングル盤とビデオが、すべての始まりだった。私もそれを最初に聴いたときには、一曲を聴き通すことができなかった。驚きで口がきけなくなってしまったのだ。

そして、メタル純粋主義者たちが一斉に腕を振り上げるだろうと思った。これは冒涜だ。これは誰かが、ヘビーメタルが築き上げてきた数々のものから、その上っ面だけを取って混ぜあわせ、それにピンクのキャンディーシュガーを振りかけ、大衆のマーケットに提供したものだ。というのが私の第一印象だった。私は腹を立てていた。私は怒りにまかせて怒鳴り散らそうとしたのだが、少し怒りが収まると、これは一時的な流行でいつもの通りすぐに消えてしまうはずだから、こんなものに関わりあっても仕方がないと考えるようになった。ところが一月前、このアルバムがMetal Shockのレビュー待ちリストにあげられたのだ。その時なぜか私は、こんなものには誰も手を出さないだろうから、そうだ、私がレビューしようか、別に私の考えを隠しておく必要もないし、という気になっていた。

ユーチューブでの議論

私は自分自身でこれを掘り下げる前に、音楽好きの大衆はこのバンドとそのスタイルをどう考えているのか、そこに興味がわいてきた。ユーチューブのコメンターである「miffed123」は、メタルの正確な捉え方という主題で「カワイイなんてものは、絶対にメタルには存在しない」と書いた。そうでしょうとも。ところが、別のユーチューブのユーザであるEric Richardsは、納得せざるを得ない比較対象を提示しながら、こう書いたのだ。「俺達は80年代にベイエリアで言っていたことと同じことを言っているんだよ。ピンクのスパンデックスと金髪の縮れ毛なんてものは、メタルではない。メタルでありたかったら、そこにはルールというものがある。。。問題は、そういう奴ら自身がルールに従わないことだ。そもそも、ルールに従わないことがメタルの一部なんだ。かわいかったらメタルでないなんてルールがどこにあるんだ?君が言っていることは、全く道理に合わないし、とても馬鹿げている。それがメタルでないとしたら、僕にはメタルが何であるのか全く分からない。。。もし君が本当にメタルでありたかったら、ルールなんか気にするな。君が本当に気にしなければならないのは、この宇宙で最も凶悪で、最もいけてる、くそ野郎のことだ。そう、それがBABYMETALだ」

Richards氏は、否定論者に反駁して、こう続けた。「メタルバンドがギミックであることに、何か問題があるか?GWARとかKISSとか。ヘアメタルなんてギミックそのものだったじゃないか。このジャンルを支配する中年男たちも、昔はメタルとかスラッシュなんて何も知らない十代の男たちだったんだ。そもそも奴らがそれを作ったんだから。楽しくて、創造性があって、エネルギーに満ちて、断固とした姿勢を貫くもの、BABYMETALはそういうものを、いっぱい持っているんだ。彼女たちの立ち位置が「kawaii」であることを問題にする奴は多いと思うが、彼女たちは、かわいいふりをしているわけではない。そもそもミュージシャンにふりをする奴なんていないし、Yngwieに何かを教えようとする奴なんているわけがない*3。君たちの前にいるのは、メタルにエネルギーと興奮と斬新さと楽しさをもたらす、とても「genki」でエネルギーに満ちた3人の少女と、ワールドクラスの4人のミュージシャンなんだ。それを愛せないなんて法があるか?」

人気のユーチューバーが集められて、このバンドとコンセプトについて、どう思うか尋ねられた。最初、彼らは突拍子もないジャンルの組み合わせに、呆気に取られるだけだった。「こいつは風船ガムが悪魔に出会ったようなものだね」というScott Hoyingの言い分が、代表的な見方だったろう。だがそのうちに彼らはだんだん引き込まれて行って、SourceFedのSteve Zaragozaなんかはこう言ったものだ。「メタルを全く新しい人たちに紹介するとしたら、こいつはメタルにとっての、一種のthe Little Golden Books*4のようなものじゃないか。こんなにあっという間に、ひとつのバンドに魅了されてしまったのは、僕の人生で初めてのことだよ」。

BABYMETALとは

統計は嘘をつかない。元のアルバムは、ビルボードのHard Rockアルバムチャートで24位、同じくHeatseekersアルバムチャートで16位まで上り詰めた。2014年3月1日、彼女たちは日本武道館ライブコンサートを開いた、最年少の女性アーティストになった。そして、ビルボードのワールドアルバムチャートで58週連続チャートインとした2015年7月2日には、2週連続の1位になった。明らかに彼女たちのファンは確固たる基盤を持っている(BABYMETALの支持層は、巨大といっていいだろう)。

興行会社アミューズの謎に満ちたプロデユーサーであり、熱狂的な音楽好きであるKOBAMETAL(小林啓)は、メタルにはまだまだ支持層が残っているとはいえ、歴史が長い割にはそれほど大きくなってもいない、と見ていた。メタルミュージックが新たなファンを獲得して生き続けるためには、他とは異なる斬新な何かが絶対に必要だと、ひとりのメタル純粋主義者としての彼は考えていた。

小林はバンドのために、日本における最高の才能を招集した。BABYMETALの前列、SU-METAL(中元すず香)、MOAMETAL(菊池最愛)、YUIMETAL(水野由結)は、日本の少女ポップグループであるさくら学院の元メンバーである(さくら学院は、中学校を卒業するときにグループをも「卒業する」という特別なシステムを取っている)。小林のヴィジョンを形作る助けとなるのが、後列の神バンドである。

彼らはエネルギーに満ち溢れ、その曲がどんなものであっても、ハードコアな音楽基盤を提供する。バンドのメンバーは固定していない:彼らは別のプロジェクトをたくさん抱えており、彼らが賞賛を浴びれば浴びるほど、彼らの能力に対する需要も大きくなる。現在(私が可能な限り調べた結果では)、彼らのラインナップは大村孝佳と藤岡幹大(ギター)、BOH(ベース)、それに青山英樹(ドラムス)である。他に知られているメンバーには、Leda Cygnus(ギター)、前田遊野(ドラムス)、IKUO(ベース)がいる。

https://metalshockfinland.files.wordpress.com/2015/07/babymetal-kamiband.jpg

神バンドの男たちは、歌舞伎の隈取のように顔をくっきりと白と黒に塗り分けているが、本気のシュレッドをすることができる。すず香と最愛と由結は、あまりに可愛すぎて、じっと見ていることさえできない(母としてのバイアスが懸かっていると言われるかもしれないけれど、本当なのよ)。彼女たちのおそろいの赤と黒の衣装は、少女っぽさとメタルの要素が混じりあったもので、チュチュとおさげ髪も特徴である。すず香の声は力強く、確かな統率力で曲をリードする。彼女たちの声はピュアで愛らしく、ダンスもハーモニーもとてもよく調和が取れている。少女たちは、KOBAMETALがグループに招集する前には、ヘビーメタルについてほとんど何も知らなかった。しかし、今はもうメタルのど真ん中にいる(最愛はギターを学んでいるし、由結はアリアナ・グランデとカンニバル・コープスに夢中だ)。すず香は、Loudwireによる最近のインタビューの中で、次のように言っていた。「私たちの曲の歌詞のほとんどは、私たちぐらいの女の子に向けたメッセージなんです。...。メタルを知らない女の子たちに、私たちの音楽を聴いてもらえたらなと思います」。それは、いいね。PTAの会合や学校の行事では、私以外にPanteraのファンなんか絶対にいなかったから、いわゆるアカデミックな話題というやつ、つまり、しけったプレッツェルを齧って紙箱入りのジュースを飲みながら話せるような、面白い共通の話題を見つけることなんて、今まではあり得なかったからね。

私もついに

ひとりのヘビーメタルのファンであり、ひとりの(日本の文化と芸術に魅了されている十代の子供の)親であり、そして、ひとりの(かなり中立的な)ジャーナリストである私は、ついに屈服し、紆余曲折を経て、不本意ながらもBABYMETALを聴くようになった。そして、たいへんショックであり驚くべきことに、どうも私はそれを好きになってしまったようだ。

私は戸惑っていた。私は本来、ヘビーでダークな音楽にのめり込んでいたはずなのに、いつの間にか色鮮やかなペロペロキャンディーの渦巻に幻惑されてしまったように感じていた。そして私は何故か、Magic Bubble Wand*5(私はこの年になっても、いまだに持っている)を持ち出したいという、奇妙な衝動にかられていたのだ。

このアルバムについて

「Babymetal Death」でアルバムは始まる。1分16秒の長いシンセサイザーの後に、ドラムスとギターが始動し、機関銃のようなサウンドをくりかえすと、スラッシュ風の展開が訪れる。そして、デスメタルクッキーモンスターみたいに「B-A-B-Y-M-E-T-A-L」のスペルが綴られ、その後SU-METALの言葉に続けて「Death!」がチャントされる。私の11歳の子は、それがとてもクールなんだそうだ。

このアルバムは驚きに満ちている。次の2つのトラックは、メロディックパワーメタルの血脈を浮き上がらせる。「Megitsune(雌の狐)」は、長い間、自分に対する抑圧に目をそむけてきた女性たちが、力強く自分たちの立場を主張しはじめることを歌っている。「Akatsuki」では、失恋の痛みが剣のように心を切り裂く。

「Gimme Chocolate」には、説明はいらないだろう。だがチョコレート中毒がみんな、不摂生の報いを気にしているというのは間違っている(私を信じて。専門家なんだから)。この曲は私が世界で一番好きなものを歌っているのに、ちょっと頭にくるところもある*6。「Iine」では曲の中ほどに、ちょっと子供向けのラップみたいなエレクトロニックポップな部分が出現するが、歌詞にはその年齢特有の感覚が色濃く反映されている。その流れは「Doki Doki Morning」にも続く。シュレッドするバンドを背景に、3人の女の子が、学校に通う用意をしなければならない10代前半の少女の日々を歌っている。「Onedari Daisakusen」では、小さい女の子が、お小遣いをもらうために、お父さんに精一杯の誘惑をする。

「Song 4」は、このアルバム独特の奇妙な感じを保ちながらも(あるいは、それをさらに増幅しながら)、アルバム全体の中でも際立ったマッシュアップのひとつになっている。スラッシュの雰囲気が漂う中盤、突然、曲が一変する。どうなるかって?なんと、レゲエ!?由結と最愛がこの小さな数え歌を作って、周囲を困らせていたという逸話は良く知られている。「Song 4」は多重人格を強調したものだ(映画のシビルを思い出す)。だけど、何故だか説明できないのだが、私はこの狂った感じが大好きだ。

あなた方が曲の中に絶対に出てきそうもないものを、ひとつだけ思い浮かべるとしたら、それは何でしょう?まあ、それがイカの足を食べることでないことだけは確かね。だけど、スイーツなら食べられるよね。「Uni Uki Midnight」は、日本の珍味と、祝宴と、その後に来る深い眠り、それらを歌う旋律のついた頌歌なのだ。

かくれんぼしたい?「Catch Me If You Can」は、そういうあなたのテーマソングにぴったりだ。キャッチーなメロディーと抵抗できないほど可愛い小さな声。でも、常軌を逸した楽しさは別にある。私が間違っているわけではないわよ。なんと初期のPanteraが、意図的に使われているのだ。思春期前の物語の背景に、とてつもなくヘビーな音楽があるというわけだ。

「Rondo of Nightmare」は、「kawaii」を少し逸脱する。暗黒と、陰に潜む謎のものを表現する「haiku」なのだ。宝物のような子供時代は過ぎ去った。喪失感。だが「Headbangeeeeerrrrr!!!!!」をやれば、それをすぐに忘れることができる。大人になり、首飾りをつけるときが来たのだ。「Ijime, Dame, Zettai」はイジメの問題を取り上げる。いじめる側もいじめられる側も、両者がいかに傷つくのかを。

アンセム風の「Road of Resistance」、ボーナストラックの一曲であり、このアルバムで最も力強い一曲である。これは、特に歌唱法において(歌詞は、より良い未来の統一を訴えている)、さらにメタルのジャンルに並べてもおかしくないという意味で、ある種の成熟さを示している。でもドラマーにとっては、Anthraxの「Gung Ho」さえ遅く感じられるほどのこの曲を叩いた後には、彼は意識を失ってしまうのではなかろうか。あなた自身でライブパーフォーマンスを確認してほしい。


BABYMETALがもたらすもの

さて、彼女たちの歌詞はスー、由結、最愛と同じ世代を対象にしてるというのに、BABYMETALのファン層は年齢の幅が広い。でも、少女たちはすぐに成長する。そして彼女たちが大人になったときには、それが曲に反映されるに違いない。そのことが良いことなのか悪いことなのか、私には判断できない。それは、彼女たちのその特有な主張ゆえに、彼女たちはメインストリームから隔絶され、それが彼女たちの存在を際立たせているからだ*7。BABYMETALが多くの人をメタルに惹きつけるなら、それはとてもすばらしい。そうなれば私たちは、ひとりぼっちで誰にも分かってもらえないことを、嘆かなくてもすむようになる。待てよ、そんな運動を始めるのもいいかも?

BABYMETALはルールを叩き壊し、慣れ合いを敵視し、ハードにロックする。Richards氏の言葉を借りるなら、それがメタルでないというなら、何がメタルだというのだ。メタルは音楽だけに留まらない。それは、世の中に対する姿勢であるとか、生き方であるとか、そういった本質的なものの集合なのだ。私のリトマス試験紙は、そのバンドがどんなジャンルに属するかではなく、それが本物かどうかである。このアルバムは本当にマインドトリップみたいだが(これでも控えめな表現だ)、これは冗談なんかでは決して無いと、私は結論する。とても優れた能力を持つミュージシャンとパーフォーマーが、ファンを喜ばせるために、真剣に、一生懸命に、創りあげた結果がこれなのだ。このことは、とてつもない数の熱狂的な群衆が、彼女たちのショーに集まることを見れば明らかだ。皆さん、これは本物だよ。

BABYMETALは、これからも議論の対象であり続けるに違いない。でも皆さんはいずれ、自分自身で聴き、自分なりの考えを持つようになるでしょう。だけど気をつけてね。彼女たちは、あなた方の中で、どんどん大きくなるわよ。

*1:Richards氏はとてもいいセンスをしている。80年代のベイエリアを話題にしていることからすると、彼は50代のアメリカ人と思われる。著者も彼のことが気に入っているらしい

*2:速く訳出することには意義がある。だから、訳者の貢献は否定しない

*3:Yngwie Malmsteenのこと。速弾きの権化。おそらく、釈迦に説法のような意味で使っているのだろう。ちなみに、どこかのギタリスト関係のサイトに、大村孝佳はMalmsteenの若いころに似ているというコメントがあった

*4:子供向けの絵本のシリーズ

*5:巨大シャボン玉が作れるリング状のこれ

*6:ひょっとしたら、彼女はかなり体重がある

*7:他のメタルの曲と歌詞の内容に違いがなくなって、BABYMETALらしさがなくなるのでは、という心配