BABYMETALとCover of the Year

Kawaiiプリンセスたちが、今年の表紙の中のトップに選ばれた

Metal Hammerによれば、「今年のクリスマスの期間、Metal Hammerの読者により、2015年の最も好きな表紙を選ぶ投票が行われ、Babymetalは、圧倒的な大差で勝利を得た*1」。

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ここで選ばれた表紙というのは、上の写真に示した273号の表紙である。それを記念して、273号のカバーストーリー「Babymetal: When Worlds Collide」の翻訳を紹介する。

273号は、今年のMetal Hammerの号のなかで、現時点で完売している2冊のうちの1冊である。ちなみに、もう1冊は、BABYMETALの巨大ポスターがついた275号である。

このカバーストーリーは6ヶ月前に出たもので、いくつか翻訳も既にあるので、まあ、自己満足みたいなものである。ただ、私の視点はかなり偏向しているので、はまった人には面白がってもらえるかも知れない。

この記事は、2015年6月の3日間、BABYMETALの行動をドキュメンタリー風に追ったものである。著者は、Eleanor GoodmanというMetal Hammerの女性記者だ。この記事が出たばっかりの時にざっと読んだ印象では*2、もうひとつだと思っていたのだが、改めて読みなおしてみると、結構良くできた記事だ。

Goodman記者は、かなり記事の形式に気をつかうタイプのようだ。変わっているのは、ドキュメンタリーらしさを出すためか、ほとんどの文に現在形を使っている。弁証法みたいなペダンチックなところもあるし、最後にきちっとオチをつけている。そして、一番肝心なところは、終始「ニ元論」を貫いているところだ。この二元論、言葉を換えて言えば、「対立」こそが、Metal HammerがBABYMETALを取り上げるときのテーマである。Metal Hammerは今後もこの方針を貫くつもりのようだ。「待ち望まれる13のアルバム」という記事の中で、「BABYMETALがメタルコミュニティーのど真ん中に線を引いて、それを真っ二つに分裂させるつもりであることだけは、唯一確かなことだ」などと、対立を煽っている。

本来は注釈にするべき部分が、かなり長くなったので、記事の末尾に「訳者あとがき」としてつけた。主にタイトルのこと、マーマイトなる形容詞、Slipknotと5 Seconds of Summerに関する説明である。辛気臭いと思われる方は飛ばしてもらったらよい。また、記事が長すぎるので、曜日を表す小見出しを私の責任でつけた。文中の画像などは、TeamRockのサイトの記事と同じ位置にそのままのリンクを置いている。なお、元記事には狐神についての説明がついているが、これは別の機会に、狐神の考察と共に紹介したい。

Babymetal: ふたつの世界が衝突するとき

Eleanor Goodman著 / 2015-07-17

彼女たちを愛していようが嫌っていようが*3、ただひとつ確かなことは、Babymetalが、我々の宇宙において、この何年かで最も議論を呼んだバンドだということだ。Metal Hammerは、混沌に満ちた72時間を同行取材した。

金曜日

金曜日の午後、Downloadフェステイバルのアーティストエリアに我々が忍び行ったとき、彼女たちはそこにいた。リードシンガーのSu-metalと、傍らのバッキングシンガーYuimetalとMoametalは、お決まりの赤と黒の衣装に身を包んでいる。とろけるようにカワイイ、メタルのマーマイトな*4バンド。彼女たちは、この2年間、我々の世界に沸き起こった最大のできごとだった。いまでも、彼女たちが我々の仲間かどうかについて、投票結果は分裂している。それら全てが、私たちをずっと待ってくれていた、このニコニコした3人の少女に降りかかっていたわけだ。挨拶の握手をして、調子を聞く*5

「とても元気です」、彼女たちは、顔を輝かせながら、大きな声のユニゾンで答える。そして、言葉を探すように間をおいた後、「The Golden Godsを楽しみにしています」。

Babymetalは今日、公式にはDownloadに出る予定でないのだが、Dragonforceの枠にサプライズ出演することになる。この男たちは、少女たちのいつものバックバンドである神バンドの替わりを務める予定だ。いわば、月曜日に行われるMetal Hammerの賞のセレモニーのために、公開リハーサルをやるわけだ。

もちろん、これがBabymetalのイギリスのフェスティバルへの初登場ではない。去年の6月5日、彼女たちはSonisphereのメインステージでデビューした。それはなんと、音に聞くテックメタラーTesseractより、出演者表で上位になっていたのだ*6。2日後、彼女たちはロンドンのフォーラムを売り切り、そして11月にはあのBrixton Academyも満員にしてしまった。皆さんがこれを読んでいるころには、彼女たちは日本で過去最大となるショーを25000人収容の千葉幕張メッセで行い、8月にはReading and Leedsを狙い撃ちする。それに加えて、数々のロックスターとの記念写真がある。Limp BizkitやKissにMetallicaその他数えきれないスターたちが、彼女たちとのスナップをTwitterに貼り付けた。好き嫌いはともかく*7、Babymetalは我々の惑星*8に起きた地震みたいな現象なのだ。リフで核を揺るがし、回し蹴りと笑顔で固い殻にひび割れを起こしたわけだ。この週末、Metal Hammerは、このバンドに72時間の密着取材を行った初めての雑誌になる。世界征服の旅を続ける彼女たちを通して、Babymetal現象を間近で観察するのだ。

はじめに、彼女たちに今日、誰と会いたいか聞く。その答えはメタルのように揺るぎない、「Judas Priest」。彼女たちの創設者でありマネージャーのKobametalは調子に乗って、1990年のアルバムPankillerの表紙をパロった、3人の少女がバイクに載っているTシャツを作ってしまった。3人がそれを持って、狐神のホーンサイン(普通のホーンサインに似ているが、中指と薬指を前に伸ばして狐の顔を作る)を作りながらポースを取るものだから、私たちはありがたくiPhoneでスナップさせて頂く。

名声の匂いは、そこかしこから漂ってくる。 Corey Taylor*9が笑顔で傍をうろついているし、こっちを見て見ない振りをしながらも、私たちの背後から離れない集団がいる。バンドのテレビ出演のため、閉ざされたアーティストエリアから制限の緩いメディアエリアに出ていくときの反応は、まるで、Kardashians*10がLAの街を歩いているかのようだ。カメラマンと自撮り写真ハンターが、彼女たちの目線を奪おうと、髪の毛を逆立てて肘突き合っている。Dragonforceの親分Herman Liが、押し合いへし合いの中から現れる。「僕たちは一度も一緒に演ったことないんだよ」と彼が明かす。責任感と時差ボケで、彼の顔が重苦しい。「昨日の晩は寝られなかったんだ...」。

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DragonforceはBabymetalとの共演にワクワクしているけれども、彼女たちを「作り物」であるとして批判するメタラーも多い。熱狂的なメタルファンであり、当時はメディア対応の部署で働いていたKobametalが、彼のヘビーな世界観を実現するために3人のシンガーを招集した。そのとき彼女たちは、Sakura Gakuin(「桜花アカデミー」)という、小中学生のポップアイドルグループの一員であった。彼女たちを支える神バンドは、「狐神に呼び集められた」ミュージシャンから順繰りに選ばれ、その音楽は、様々な秘密のコンポーザーによって書かれている。その一人が匿名を条件に語ったことには、メタルで育った彼は、Doki Doki * Morning*11に「強い印象を受けて」Babymetal作曲コンテストを受けた結果、合格したそうだ。

「僕は何か新しいことをしたかったんだ。人々に日本を振り向かせる何か、そして、メタルと結びつけられる何か。こうして、ポップと僕の愛するメタルを融合させることを思いついたんだ」とKobametalが説明する。

確かにBabymetallerたちは、自分たちがこのバンドから選ばれたのだという喜びを隠さない、ちょっとDisney Clubみたいな、十代の少年少女のような感性にあふれている。私たちが話をしようと座り込むと、たちまちにして彼女たちのお付きに囲まれる。カメラマン、セキュリティーガード、メイクアップアーティスト、団扇で仰ぐ女性たち、そして、Kobametal。彼は華奢で何処にでもいるようなポニーテールの男で、パーカーに身を包みながら、彼の預かり物を始終、監視している。

「私は子供のころから、いつも歌手になりたいと思っていたんです。だから、いまこうして歌って踊っていられることを、本当に夢が実現したのかなと思うんです」と17歳のSu-metalが、ツアーマネージャー兼通訳のNoraを通して、熱く語る。その間も、カメラクルーは撮影を欠かさない。16歳のMoametalは「私は、ほんの小さいころから、いつも誰かを幸せにしたい、笑顔にしたいと思っていたんです。いまBabymetalの一員として、それが叶えられているように感じています」と言う。やはり16歳のYuimetalは、彼女の進路選択にはちょっとした英雄崇拝があったことを告白する。「子供のときはー『もちろん彼女たちは今でも子供だけど』とNoraが付け加える*12ーべつに歌手になりたいとは思っていなかったんです。だけど、前のグループにいたときのSu-metalを見て、もう大好きになって、それでやりたくなったんです」と顔を輝かせる。

このグループの見た目やサウンドは、人々には日本のゲームや漫画や映画を連想させるかも知れない。ところが、Kobametalがオタクとも思えるようなやり方を採用したために、日出づる国においても、彼女たちはかなり特異な存在になっている。

「日本ではアイドルグループは大きな市場を持っているが、メタルの市場は小さい」と、Umeこと梅沢直幸が言う。彼はこのバンドを発掘したがために、メタル雑誌ヘドバンを創ってしまったのだ。「Babymetalはその真ん中にいるんだよ。そもそも、その2つの混ぜあわせだからね。人々は彼女たちをアイドルとして見るが、彼女たちがやっているのはメタルなんだ。だから、人々はそれを奇妙だと感じる。この子たちはこんなに可愛いのに、なんでヘドバンするんだ、とね」

そう言えば、Kobametalも同じような文化的混交を証言していた。「皆が皆、そうだとは言えないだろうけど、僕が母にCDをあげたとき、もちろん母はメタルを聴いたことがないのに、その第一印象は『これはとっても面白いね...』だったんだ」と彼は笑う。

Umeはさらに、普通のアイドルグループがひとつの製品だけを作る工場の機械みたいに活動しているのに比べて、このバンドが口コミで広がっていった過程をつぶさに見てきたのだと言う。

「アイドルファンも馬鹿じゃない。彼らは金の匂いを嗅ぎ分けるし、少女や少年たちの背後にどんな企業が控えているかを見分けることができる」と彼が言う。「だけど、Babymetalの場合は、それとは正反対なんだ。彼女たちが始めたときのやり方を見たら、そこには大金の匂いなんて一切感じられない。彼女たちは確かにアイドルグループだけど、ちょっとオーガニックな感じがあるんだ」

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Downloadに戻るとしよう。午後7時、Maverickステージの後方、そこには初めてのコラボライブを控えたBabymetalがいる。一緒にやるのは正真正銘のメタルバンド。Dragonforceが楽器から生まれる生命をシュレッドしている間も、雨が外部から吹き込み、それがフェステイバルのムードを陰鬱にしている。チームBabymetalは円陣を組み、勝利を前にしたように両手を上にあげる。そしてステージ上に飛び出すと、ブレークスルー曲ギミチョコ!!(Mad Calsule Marketsの上田剛作)を繰り出す。たちまち聴衆の興奮はマックスを越え、耳に付いて離れないコーラスが沸き起こる。電話*13が取り出される。何百何千も。40台ほどのプロ用カメラがピットに雪崩れ込む。3人が「Thank you」と叫んだときには、ベーシストのFred Leclercqは手でハート型を作り、額に押し当て、うやうやしくお辞儀する。

ショーが終わって、Babymetalは興奮が冷めやらない様子だが、それでも、優雅でプロフェッショナルな礼儀正しさが、それを幾分和らげている。

「今日聞いたんですが、Dragonforceはステージの感触をつかむために、私たちのツアーのビデオを研究していたんです。本当に『ああ、何て私たちのことを考えていてくれるの』という感じで、とっても感謝しています」とMoametalが頷く。「それに、私たちのサポートバンドの音に、出来るだけ近づけようとしてくれているのが、よく分かりました。それがとても嬉しかったし、この機会を作って頂いてたいへん感謝しています」。

そして私たちは、彼女たちをそこに残して、Judas PriestSlipknotを観に行く。

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日曜日

次に私たちがBabymetalをつかまえたのは日曜日、ロンドンのIndigO2会場で行われたThe Golden Godsのリハーサル中だった。聴衆はいないし、写真を狙う連中も閉めだされていて、とてもリラックスした雰囲気だ。昨日、彼女たちはCamden Marketでショッピングして、友達へのおみやげを買った。そのあと、Wembley Arenaヘ向かい、ええと、オーストラリアのポップグループFive Seconds Of Summerを観に行った...*14

「彼らのファンはメタルファンよりもハードコアだ!」Kobametalが大きな声で、叫ぶように言う*15。Babymetalの反応は、かなり野心的だ。

「彼女たちは何でもかんでも見てまわって、『いつかここで演りたいな』という感じだった」、Noraが通訳する。

女の子たちは、Five Seconds Of SummerとSlipknotのどっちが好きなの?*16

彼女たちは笑い転げ、しきりに話し合っている。「どっちも!」だって、Noraが言う。

今日は全て、Dragonforceとの練習だ。彼らがどのようにからみ、どのようにRoad Of Resistanceを仕上げるか ー この曲は去年、彼らが書いたもので、Herman Liが言うには、ひたすら「速く」、ギターヒーローとして知られたThrough The Fire And The Flames*17のレベルだそうだ。

「俺たちがこの曲を書いた時には、『いいか?演奏できないほど複雑にクレイジーに作ろうぜ』てな感じだった。まさか自分たちがライブで演るとは思わなかったからね」と彼は笑う。「幸いなことに俺たちもツアー中で、それもだいぶ長いから、はやく修得できたけど、普通に選ぶ曲ではないな...」*18

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Babymetalが、ショーの舞台裏の秘密の何かをおさらいするために楽屋に戻る*19。その間、私たちはステージ裏のラウンジエリアで、残されたチームの連中と、パッケージに笑顔のチップが描かれた日本製のポテトスナックをかじる。赤いドアの向こうから、Doki Doki * Morningが、ガンガン響いてくる。全くミスがない。あの子たちは、歌えるのだ。女の子たちは、出てくると、水をガブガブ飲み干す。

この週末を通して、数えきれないほどの人々が、Babymetalを「かわいい」と評した。そのわけは、誰にでもわかる。楽しいスナック菓子。ポップなサビ。今日の普段着のユニフォーム*20である、Tシャツとパジャマズボン。ステージ上でもなく、カメラもないときの、その行動でさえも。そう、夕方遅く会場を後にするときには、Yuimetalがスケートボード付きのスーツケースに乗って、楽屋から飛び出してくるだろう。しかし、Babymetalであるためには、重労働と献身が求められる。午前中は家庭教師がつく勉強、午後はバンドの一員。彼女たちの日々は、精神的にも肉体的にもきつい。

「女の子たちはツアーを楽しんでるよ」、Babymetalのどんな部分に気をつけているのか聞いたとき、Kobametalが言う。「あの子たちにとっては、たぶん、そんなにたいへんなことじゃないんだよ。大人にとってはきついことでもね、ハハハ!これは、日本では経験できないことだからね。あの子たちは、海外の文化にとっても興味をもっている。日本で教室に座って勉強している同級生たちより、ずっと英語だって覚えるだろうしね」

あなたは父親代わりなの?

「そうだよ。僕はお父さんと呼ばれているし、『ツアーママ』だっている。家族旅行のようなものなんだ」

女の子たちがスケジュールがきついと思っていたとしても、それを伺い知ることはできない。彼女たちはいつもニコニコしているし、バンドについてどんな質問をしても、演劇学校のような注意深さで、それが返されるからだ。彼女たちは、その年齢にしては賢明すぎるような受け答えをする。それでも、見かけは幼くみえるだけに、彼女たちを動揺させてしまうことを恐れて、あまり深い質問をすることは憚られてしまう。

会場のステージ上では、BabymetalがGimme Chocolate!!の負荷の高いルーチンを、プログラムされたロボットのような正確さでこなす。Dragonforceは、遠慮気味に距離をおいている。2回目には、みんなが打ち解ける。もう何年も一緒にやっているみたいだ。Kobametalが拍手して、満足そうに親指を突き上げる。その次にRoad Of Resitanceにとりかかる。うまく行って、Dragonforceがほっとしたような様子を見せる。そのあと何回か通しをやった後で、皆んな一緒の、お辞儀とジャンプの練習をする。大きな笑いがおきる。「See you!」、架空の聴衆に向けて女の子たちが甲高い声で叫ぶ。「See you!」、Doragonforceが戯けたような低音で真似をする。

3人が行ってしまうと、KobametalとHermanが出来栄えを話し合う時間だ。そのあとは街に出てミーティング。少なくとも大人たちにとっては、Babymetalが活動を停止することはないようだ。かつてのメタルファンには、いま起きていることが至上の瞬間だ。

「Dragonforceと同じ部屋に座っているなんて信じられないよ」、そのバンドを両手で指し示しながら、彼は語る。

混沌と混乱のなか、Kobametalは、彼の夢を満喫しているように見える。彼の長年のアイドル*21と、会話とステージと音楽を共にしているのだ。Babymetalも、やはり、彼女たち自身の夢を生きている。これは象徴的な関係だ。

月曜日

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Golden Godsの日が来た。それは、Babymetalのイギリス(日本とアメリカの次に、最も訪れた国である)における5回目のショーの日でもある。そして、私たちの彼女たちに対する現在進行中の執着が、試されるときでもある*22。Kobametalは、彼のバンドが海外で成功したことに驚いている。彼女たちは、イタリア、スイス、フランス、ドイツ、カナダ、メキシコでも、熱狂的な観衆の前で演奏した。Kobametalは、彼女たちが日本人として、ここまでたどり着いた初めてのメタルチームであることを分かってはいるが、彼女たちが普通の存在ではないという事実は、思いもしない。

「こっちの市場を狙って、数多のバンドが日本からやってきたが、こんなに年少の、女の子の、芸能一座でもないグループなんて、全く例がない」と彼は驚く。

彼女たちの成功が音楽そのものによるものか、それとも、彼女たちの目新しさによるものかについては、それは別の問題である。そのどちらであっても、ヘドバン誌のUmeが指摘するように、海外での注目によって、Babymetalが自国でも注目を浴びるようになったことは事実だ。クリスマスにNHK(日本のBBCにあたる)のテレビチャンネルで、Babymetalのドキュメンタリーが放送され、ロンドンのBrixtonのショーの映像が流された。「日本の人々はBabymetalのことをあまり気にしていない。というのも、彼女たちは日本よりも日本の外の方が有名だからね」と、Umeが説明する。「彼女たちがSonisphereで演ったり、Lady Gagaのサポートをつとめたりしても、そのニュースが日本に伝わって、初めて皆んながそれを知ることになるんだ」。

Umeは日本のメタルファンは2つに分かれていると言う。Babymetalが「素晴らしい」と思う人々と、「最悪だ」と思う人々だ。それでも、時間と共に、次から次へと乗り換える人が増えている。その一方では、ポップファンがヘビーな音楽に注目し始めている。

「Babymetalはアイドルユニットとして始めたから、当時のファンは明らかにアイドルファンだった。しかし今は、彼女たちが日本の外で、正真正銘のメタルフェステイバルでやることも多いから、正真正銘のメタルファンがBabymetalのファンになる。それに対してアイドルファンの方も、『Babymetalがメタルでやっていくのなら、それもいいかな』と、メタルを聴き始めているんだ」、Umeが解説する。「それは必ずしもBabymetalファンだけではなくて、アイドルファンから始めたメタルファンが増えているんだ」。

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イギリスでも、反応は錯綜している。Babymetalが、メタルの用法をぶりっこ風*23に利用することに対して、オンライン上で多くの批判があがっている。今日はメタルのカレンダーで最も重要な日だ。Babymetalは、ここでもやはりポップアイドルのスタイルで、ヘビーと交叉する。メタルの遺産を、彼女たちの未来に持っていくのだ。彼女たちのトレーラーが、Braian Mayのと向い合わせになっている。Napalm Deathのメンバーが傍をうろついている。Babymetalの有名人との記念写真に、新しいページが加えられる。Gene Simmons、Dave Mustaine、Duff McKagan、Butcher Babies、Killing Joke、Bring Me The Horizon、そして、Scott Ian。

「僕は、Babymetalがメタルだなんて、あんまり思ってないよ」、彼が言う。ちょっと、驚きだ。「Babymetalは、Babymetalなんだ。もしBabymetalが10年前に現れたなら、僕だって、メタルを台無しにするなと言って、彼女たちを攻撃する連中のひとりだっただろう。だけど、僕がBabymetalを作りたかったのは、全ての音楽ジャンルのうちでメタルだけが、他の多くの音楽に開かれているからなんだ。ラップメタル、メロディックメタル、パワーメタルにブラックメタル。メタルシーンはとても内向き志向だけれど、その分、他の音楽に開かれているんだ。それこそが、Babymetalが今ここにいる理由なんだ」

Kobametalも、Yuimetalも、Umeも、そして匿名の作曲家も、このグループについて何か言う時には必ず、「新しいジャンルを作る」という言葉を使う。それはマーケティング向けの言葉とも聞こえるが、もし、Babymetalがメタルにもポップにも軸足をおけないのだとしたら、それは何とも微妙な目標に見える。

「それをポップと呼んでもらっても、ヘビーミュージックと呼んでもらってもいいんだ。だけど、実のところ、そのどちらでもない。それらが混じりあったものだからね」、Kobametalが言う。

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それはさておき、あのリハーサルが役に立ったかどうか、結果が判明するときがきた。IndigO2の中では、観衆が前に押し寄せる。女の子たちがRoad Of Resistanceの旗を持って出てくる。奇妙なジャンルのジンテーゼ*24のテンションが高い、たちまち、Gimme Chocolate!!のシンガロングに雪崩れ込む。こっちでは、Babymetalのシンプルなショーしか見られない。しかし日本では、棺桶とか、寺とか、神社とかいったハイコンセプトな大道具をスモークや炎でつつみ、それに加えて、ヘビーメタルの熱狂的なファンに向けた仕掛けも用意される。

「一回のショーのために、女神の大きな胸像を作る。ショーの終わりに、それが破壊される」、Umeが振り返る。「Metallicaの..And Justice For All*25のツアーを見たことがあるのなら、Kobametalがそこからアイデアをもらったことが分かるだろう。多くの人々が、始まりの段階から『こいつは最後に爆発するぞ!』と期待するわけだ。メタルファンは、次はどのバンドがモチーフになるのか、ワクワクしながら見守る。次はDioなのか、Manowarなのか、...と」。

このマジパイみたいな借用の仕方は、ショーと関連商品だけにとどまらない。音楽も同様だ。Kobametalは、このジャンルの歴史を、愚直にひとつひとつ引用していく。

「彼は、Metallicaや、Sabbathや、その他の有名バンドの音楽から頂いたフレーズを、彼女たちの曲に潜り込ませる」、Umeが注釈する。「例えば、Onedari Daisakusenでは、Limp Bizkitのサンプルを使っている。それは、ビーチで宝さがしをするのに似ている。だから、Babymetalが曲をリリースするたびに、ファンたちは聴いて、聴いて、聴きまくって、小さな欠片を探す。ヒップホップ(のサンプリング)みたいにね」。

BabyDragonがGolden Godsの出番を終えたとき、彼らのパフォーマンスに対して、狐神の角*26を掲げた大歓声が沸き起こる。それは、いまだに反対者がいることなど忘れさせてくれるものだ。彼女たちは、その行く所どこにでも、歓喜に満ちた高揚を残していく。

「私は、彼女たちが好まれるのは、メタルだって楽しさを求めているからだと思うよ」、Max Vaccaroが言う。彼は、Babymetalのヨーロッパにおけるレーベルであり、StratovariusGamma Rayのホームである、earMusicの総支配人だ。彼らは、Babymetalのセルフタイトルのデビューアルバムを、ヨーロッパ向けに再リリースしたところだ。そのアルバムは、彼らのレーベルのアーティストが一年かかる売上を、数日間で売り上げた。「メタルのサブジャンルが全てというわけではないが、KissやMötley Crüeなどは、今でもツアーで大成功を収めている。だから、人々はちょっとした楽しさを求めていると同時に、純粋で過激なメタル音楽をも楽しんでいるというわけだ。これは秘密だけどね」。

DragonforceのFredになると、もっと情熱的な反応を示す。「これはふたつの宇宙が衝突するようなものだよ。Slipknotのように荒々しく、低く、邪悪に満ちたところに、あの女の子たちが登場する、『Eeeeee!』。ワオ、なんて可愛い。Babymetalのファンはみんな、小さな金の心を持っている。そして、それが、Babymetalの女の子たちを見た瞬間に融けていくんだ」。

やがて、Babymetalは、全ての人の心を融かしてしまうのだろうか?Only the Fox God knows。「もっとたくさんの人がBabymetalを聴いてくれて、そして、それがメタルへの興味に繫がってくれたら、僕はそれで十分だ」、Kobametalは、まるで伝道者のような口をきく。だが、女の子たちは、二次会を楽しみにしているはずだ。当然の報酬としての、真夜中のお菓子を。

しかし、彼女たちは何がいちばん好きなのかな?その答えは、もちろん、「チョコ!」

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訳者あとがき

この記事のタイトルに使われている「When Worlds Collide」は、1951年製作の映画のタイトルであると推定される。著者である、Eleanor Goodman記者が何故、こんな昔の映画を知っているのか全く不明だが、彼女がDragonforceのベーシスト、Fred Leclercqの言葉「It’s like two universes colliding」から思いついたのは、確かだろう。

この映画の邦題は「地球最後の日」となっているが*27、私は「ふたつの世界が衝突するとき」とした。それは、著者が込めた意味がちゃんとあるからだ。ふたつと言う数字は原題にないが、日本語で「世界が衝突する」としたのでは「世界」が複数であることが分かりにくいので、あえて「ふたつ」をつけた。ちなみに、物理的には3体以上が同時に衝突するのは、よっぽどの偶然である。

「ふたつの世界」が示すものとして考えられるものには、以下の2元論的な概念がある。

  • ポップとメタル
  • 楽しさと陰鬱さ
  • BABYMETALのファンとヘイター
  • love it / hate it
  • 5 Seconds of Summer / Slipknot

この2つの概念を横糸にし、時間の流れを縦糸にしながら、記事は進行している。記者はかなり厳格に二元論、特にメタルとポップの区別を守っている。記事の中で、BABYMETALがメタルでもポップでもないというプロデューサーの発言に、やや批判的な見解を述べている箇所がある。

これに関連して、「Marmite」という奇妙な形容詞も登場する。最初はフランス製の鍋を意味するマルミットかと思ったのだが、形容詞なのに大文字から始まるこの言葉が、固有名詞から来たものであることを最近、知った。そのために、訳文では英語風のマーマイトとした。このマーマイトは、ビールを製造した後に残った酵母を使った食品で、現在は有名なUnilever社の所有ブランドである。独特の臭いがあるので、極端に好みが別れる。Unileverに吸収される前の会社は、1996年に「love it or hate it」という宣伝文句を使ったキャンペーンを行った。これがたいへん流行ったらしく、評価がまっぷたつに別れるものを表す形容詞として定着したらしい。記者は、Marmiteこそ、BABYMETALを表すのに最適な形容詞だと考えたようで、「love it or hate it」をもじった文句も、文中の2箇所で使っている。

最近出たRolling Stoneの記事の中で、Slipknotのリードシンガー、Corey TaylarがBABYMETALと5 Seconds of Summerについて発言している。彼は、最初、Justine Bieberについて聞かれたのだが、それを適当にスルーして、自分はポップミュージックを子供から聴かされるんだ、と答えている。そして、その「ポップミュージック」というのが、BABYMETALと5SOSだという。彼の家では、このふたつが始終、流れているらしい*28

彼は、最近、5SOSと会ったらしいのだが、彼らはとてもいいやつで、Slipknotの大ファンらしいといっている。だから、Goodman記者が二者択一の質問を迫ったのに反して、Slipknotと5SOSは、本人たちに関する限り、対立概念では全くない。5SOSの方は、よくOne Directionと一緒くたにされるのが不満なようで、自分たちはロックバンドだと主張している。音楽的にも普通のポップロックのように聴こえるし、彼らがポップの範疇かどうかは見方が別れるだろう。

ただ、少なくともCorey Taylorは、BABYMETALと5SOSをポップだと考えているらしい。BABYMETALのプロデューサーは、記事中で、どっちに入れてくれてもいいような発言をしているから、それでもいいのだろうが、5SOSの方は少し不満かも知れない。逆に、メタル純粋主義者らしいGoodman記者にとっては、BABYMETALはメタルで、5SOSはポップに分類したいようだ。音楽を分類することには、骨がおれる。

*1:インターネット投票をやったら、BABYMETALが勝つのは最初から分かっている。Redditですぐに投票が呼びかけられるし、クッキーを操作して複数回投票する連中も多い。それに比べて、TeamRockのサイトの構成は、システム担当者がいないのではというレベルなので、Babymetallerに対抗するのは難しい。彼らの情報リテラシーのレベルは、2位になったIron Madenのファンなんかを圧倒的に上回っているから、インターネット投票は公平なやり方とは言えない

*2:半年前の記事「Metal Hammer Issue 273 (BABYMETAL特集号)」でも、一部を紹介している

*3:Love them or loathe them。あとがき参照

*4:Marmite。あとがき参照

*5:ここまでの3文が抜けていました。Babymetaler#4さん、ありがとう

*6:ポスターでは、BABYMETALとTesseractが並んでいるが、BABYMETALの方が左側なので上位ということになる

*7:Like it or not。あとがき参照

*8:world。表題とも掛けている。前後から判断して「惑星」とした。あとがきで紹介する映画の題名でも、本来な惑星と訳すべきかも知れない

*9:この日のメインステージのヘッドライナー、Slipknotのリードシンガー。あとがきに紹介した記事から想像するに、このときの彼は、BABYMETALと素顔で写真を撮るつもりだったに違いない(素顔でないと、お父さんがBABYMETALと一緒のところを、子供に分かってもらえない)。しかし、BABYMETALの関係者が彼の素顔を知らなかったのか、それともお面をかぶっていないことに気をつかったのか分からないが、誰も声をかけなかった。だから、数多くの記念写真コレクションの中で、大物バンドとしてはSlipknotだけが欠けている(パートタイムのドラマーだか、との写真だけはある)。Metal Hammerの記者が紹介してくれたら良かったのに

*10:Kourtney、Kim、KhloéのKardashian姉妹

*11:原文のママ。英米の人は、UTF8のエンコーディングを使わないのが普通だから、「☆」が出力できない。こんな所にも、BABYMETALの海外進出が想定外であったことがわかる

*12:子供っぽく見える彼女たちに対する、冗談なのだろうが、16歳は明らかに子供じゃない

*13:原文にはsmartがついていないので、「電話」としか訳しようがない。最初は「ケータイ」としていたが、やっぱり違う

*14:記者がちょっと憮然としている。本来、5SOSの名前は、Fiveでなく数字で表記するようだが、彼女はわざと間違えているのか?

*15:この表現、やっぱり、彼女は苛ついている

*16:女性記者らしい。女の人は、すぐにこういう質問をする。「私とお母さんと、どっちが大事なのよ」などと。しかし、これがとても興味深い質問であったことが、5ヶ月後に判明する(あとがき参照)

*17:Dragonforceの4枚目のアルバムInhuman Rampageに収められた曲

*18:ははは

*19:受賞のあいさつの練習か?

*20:普段着もユニフォーム?

*21:もちろん、Dragonforceのことですよ

*22:BabyDragonのステージがうまく行かなかったら、折角の記事がボツになるかも知れない

*23:cutesy。可愛らしさを強調すること

*24:弁証法的発展。メタルをテーゼとし、ポップをアンチテーゼとし、それを止揚して生まれたジンテーゼ、すなわち、BABYMETAL

*25:Metallicaのアルバムタイトル

*26:本当は耳だけど

*27:Mission Impossible」を「スパイ大作戦」と訳すようなもの。これを知っている人は、年齢が分かる

*28:だから、彼はBABYMETALと素顔で写真を撮って、子供に見せたかった