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BABYMETALの進む道

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ビルボードの39位だそうだ。私の買った分もその1枚に含まれているのだろうか

一週間ほど前にセカンドアルバムが届いた。Metal Hammerを始めとする英米の雑誌やサイトを主たる情報源としているので、整合性を確保するためにUS版を予約していたのだが、それがやっと届いたわけだ。それ以来、かなりの頻度で聴いている*1。デビューアルバムとは随分、違うように感じる。

もちろん、BABYMETALのファンにとっては、最高のアルバムであることは疑いない。だが、今までBABYMETALを知らなかった人、あるいは、ファンではなかった人にとっては、評価が別れるのではないだろうか。ある人はきらびやかな音楽的多様性に富む珠玉のアルバムだと言うだろうし、別の人は何をやりたいのか分からない駄作だと言うだろう。レビューの評価が割れているのも当然だと思う。

次に紹介するMetalSucksのレビューも、そのひとつである*2。もちろん、酷評しているようなレビューなんか読みたくもないから、そんなものではない*3。しかし、前に紹介したStephan Daltonが書いたTeamRock(Classic Rock)のレビューとは違った視点を持っている。面白いのは、彼はMetal Resistanceをポップアルバムだと言っていることだ。メタルアルバムとして許されない部分があるらしい。それはおそらく、最後の3曲に関係しているのではないか。他でも言われていることだが、メタルファンであればあるほど、アルバムとしては最初の9曲だけで良いと言う。最後の3曲は不要だと言うのだ。

だが、著者のJeff Treppel*4は、それでも良いアルバムだと言う。最後の3曲は「BABYMETALの進む道」を表す展開として理解している*5。3曲が、BABYMETALのアメリカ進出計画とSu-metalのソロキャリアを示唆していると言うのだ。

ロック寄りのDaltonのレビューと、メタル寄りのTreppelのレビューで共通している部分がある。それは、このアルバムが企業的に作られていると確信しているところだ。小林プロデューサーが集めた音楽チームがアルバムを作っているのであって、女の子たちは、与えられたものを歌っているだけだと思っているのだ。

だが、本当にそうなのだろうか。昨年のセカンドアルバムの製作発表以来、女の子たちの言いようが変わったように、私は思う。「全力でアルバム作りをする」とか、「私たちの音楽を聴いてほしい」などと、彼女たちの言い方に主体性が感じられるのだ。根拠と言うほどのものではないが、Skrillexと共演して本当に楽しそうにしている3人を見たとき、彼女たちがもしセカンドアルバムで主導権を発揮するのなら、おそらくこんな曲が入るだろうと思っていた曲が、まさにUS版の第7トラックに入っている。Treppelのレビューの紹介の後で、これに言及する。

Review: ヘイターよ、くそくらえ ー BabymetalのMetal Resistanceは偉大だ

Jeff Treppel著 / 2016-03-25 / MetalSucksのレビュー

引き籠もりなどと呼ばれる真のメタル戦士たちにとっては、シャンプーより恐れるものがひとつあるとすれば、それはポップミュージックに違いない。顕な商業的欲望と幅広い顧客層は、アングラメタルのアウトサイダー的哲学とは全く相容れない。ほんの少しの裏切りでも狂乱が巻き起こる ー Watain(商業的ラジオでは一度も演奏したことのないバンド)が、最近作のアルバムでクリーンなボーカルを使ったというだけで、インターネットに苦悩のうめき声が満ち溢れているのを見れば、それが分かるだろう。

これが、Babymetalに対する極端な反応の原因だ(メタルシーンに潜む女性蔑視と人種差別は、この際、置いといて*6)。彼女たちは、Perfumeや桃色クローバーZを生んだアイドル産業複合体の産物だ*7。信じられないほどの才能に溢れるスタジオ・ミュージシャンとソングライターとプロデューサーたちが、完璧に砂糖漬けされた曲片を、選りすぐられたkawaii顔に歌わせる。こんなことは別に新しいことではない。録音というものがこの世に現れてから、十代の少女は、いつも音楽を売り歩いてきた(これを題材にしたら、インクがいくらでも必要だ)。だが、R&Bやエレクトロニカや、その他メタルでないものの替わりに、メタルがベースとして使われるのは始めてのことだ。それが、メタルヘッズを怒らせる。

それは、見る角度の問題だ。メタルアルバムとしてなら、Metal Resistanceは今までの裏切りの中でも最も不誠実な裏切りを犯している*8。しかし、これをポップのレコードとして見るならば、One Directionや、Beyoncéや、いま人気の誰よりも、ヘッシャー*9に受け入れられる音楽的要素を、はるかにたくさん備えているのだ。同名タイトルのデビューアルバムを出してから2年あまり ー フェステイバルへの出演やLady Gagaの前座で世界を席巻したのに、その割には早く、女の子たちをスタジオへ連れ戻すことが出来た ー Babymetalのセカンドアルバムでは、うまく嵌った前のやり方を続けている。それは、仕掛けの上にも仕掛けを重ねることなのだ。

アクトの背後に控える顔の無いソングライター(彼らの顔は文字通り狐面で隠されている)の集団は、デビューアルバムでは、5年を掛けて非の打ち所の無い数々のシングルを作り上げた。驚くべきことに、今回、彼らはその半分以下の時間で、同じように強力な一連の曲を ー それ以上に強力ではないにしても ー 間に合わせてしまった。ちくしょう、奴らは5番トラック*10とかそんなものだけで、GagaやKe$shのようなアメリカの普通のポップアルバムを、震え上がらせるのだ。Metal Resistanceは、最初から最後まで勢いが止まらない。それは主に、その多様性のおかげだ。「KARATE」や「Sis. Anger」のようなメタルの炸裂に加え、「From Dusk till Dawn」ではトリップホップと戯れて、Eluveitie*11みたいな「Meta Taro」ではハーディー・ガーディー*12まで持ちだして、「YAVA!」には小さなSKAを投入する。締め切り時点では、まだ作曲のクレジットが来ていないのだが、「Awadama Fever」は、Mad Capsule Marketsのディジタルハードコアに、とてもよく似ている。ほぼ間違いなく、デビューアルバムで「GIMME CHOCOLATE!」を書いた、上田剛士によるものだ*13

このアルバムで最大の展開が3つ、最後に現れる。「No Rain, No Rainbow」は、Su-metalが、Brian Bayがアニメに凝ったようなギターソロ*14を背景に、初めて本格的パワーバラードを力強く歌い上げたものだ。「Tales of the Destinies」では、スタジオミュージシャンが光り輝く場を与えられる。Dream Theaterが恥じいるほどに、インストルメンタルの妙技を見せつける、プログレッシブメタルのトラックだ。そして最後、US版のボーナストラックとして入っている「THE ONE」では、女の子たちが初めて英語で歌っている。この(メタル要素がない)叙事詩的な作品は、明らかに、女の子たちをアメリカ市場に投入することを狙っている。このグループの進む道が、ここで明確に示唆される。Su-metalにソロキャリアを積ませること、Babymetalをさらに多様な道に進ませること、そして、合衆国制覇を目指すことだ。

これらのゴールが達成できるかどうかは、いずれ分かるだろう。それはともかく、Babymetalのデビューアルバムが一作だけで終わるものではなかったことを、Metal Resistanceは証明した。如何なるジャンルと見るにせよ、二作目の呪いを見事に乗り越えてみせたのだ。

解決されない、あるいは、解決するつもりのない謎

このアルバムには、いくつもの謎がある。その中でも最も明らかな謎は、上で述べた最後の3曲である。もちろん、ロックアルバムあるいはポップアルバムであるというのなら、それは全く問題にならない。しかし「Metal Resistance」という名前を負っている限りにおいては、どうだろう。やはり、これはジャンルの壁を破壊しようとする意志なのか。

私自身は、最後の3曲よりも、US版にしか収録されていない第7トラック「From Dusk till Dawn」の方に、より大きな謎を感じる。とても優れた曲だと思う。Su-metalのファルセットのハイトーンが、夜空に突き抜ける*15。だが、構成の中ではとても違和感がある*16。多くの人が、この曲はトリップホップだと言うが、私はPink Froydの「原子心母」を感じる*17。この曲は本来、20分を超えるようなプログレッシブの大作であるべきなのだ*18。この素晴らしいハイトーン*19は、3分50秒では到底、飽きたらない。

このアルバムは多様性に満ちている。ベクトルは720度の全空間に向かって広がり、収束することはない。その結果、解決されない謎が残されたのだ。誰がこんな方向性を決めた?40代のold school metalheadが考えることなのか?

これは、未来が永遠に続くと思っている人たちの仕業ではないのか。何にでも興味津々で、何をやっても楽しいと思える人たちの仕業ではないのか。その人たちにとっては、このアルバムで謎が解決される必要はないのだ。次の次のアルバムでも良いし、それがBABYMETALでなくても良いのかも知れない。

我々の若い頃を思い起こせば、12・13歳はハードロックやヘビーメタルを知るのに早すぎる歳ではない。それが2年もすれば、「McLaughlinは近頃シタールをやり出したが、あれはだめだ」などとイッパシのロック通を気取っていたものだ。その何百倍も濃密な体験をしてきた人たちが、世間から超一流アーティストと見なされる連中と隣のおじさんのように接してきた人たちが、自分たちの好きなようにアルバムを作りたいと思ったとしても、何の不思議もないではないか*20

このアルバムに統一された思想はない。しかし明確な意志がある。それは、これが私たちのやりたいことなのだという、若さ故の傲慢さだ。だが私たちは、その傲慢さでさえも、目を細めて受け入れるのだ。「BABYMETALの進む道」が何処を向いていたとしても。

追記

The Golden Gods Awardsに投票して頂いた方々、ありがとうございました。Redditもどうやら、落ち着きを取り戻したようです。おそらく、勝つでしょう。逆に、Kerrangで6部門を独占するなどと張り切っているのは、ちょっと困り者です。

*1:文章が冷静さを欠いているのは、それが原因です

*2:このレビューを紹介するひとつの理由は、どのサイトだか忘れたが、プロのライターと思われる人物がこのレビューの概要を紹介していて、それが明らかに意味を取り違えていたからだ。夕刊フジでBABYMETALの解説記事を書いて批判された「音楽評論家」と言い、最近、よく知らないのにBABYMETALについて書く連中が多すぎる。もうちょっと勉強してから書いてもらいたい

*3:評価は、4.5/5

*4:彼は、2014年のロサンゼルス公演についての記事を書いたことがある

*5:対照的に、Classic RockのStephan Daltonは、メタルかどうかなんて全く気にしない。ロックとメタルの違いが顕著に現れている

*6:置いとくな!! Racismはここにも登場した。もうひとつSexismもあったか。BABYMETALも闘う相手が多くてたいへんだ

*7:それは言い過ぎだろう。今でこそ株式会社アミューズは、BABYMETALへの依存度を高めているが、当初は誰も期待していなかった

*8:ここは、falseを動詞と名詞と形容詞で4回使っている凝った文なのだが、力及ばず再現できなかった。口を極めて非難しているように聞こえるが、凝ってるだけで大して意味はない

*9:hesher。メタルヘッドにほとんど同じだが、強いて言えば、より熱狂的。リーボックを履いて、マレットの髪型、Judas PriestのTシャツを着て、酸を入れて洗濯したジーンズを履いている。親と同居しているので暇があるため、BABYMETALの記事を見つけると、まめに悪口を書き込む。しかし一旦、改心すると熱狂的なファンになり、インターネット上のあらゆる投票で、BABYMETALをダントツの1位にしないと気がすまない

*10:「Amore」。彼はあまり評価していないようだ

*11:フォークメタルバンド。ガリア語で「スイスに住んでいたケルト人」を表すそうだ。いいね!!

*12:Eluveitieが使っている民族楽器

*13:鋭い。アメリカ人でもRedditの連中なら、ずっと前から知っていたけどね

*14:何のことだ?

*15:日暮れと夜明けの間だからね。本当に多才な人だ

*16:この曲のひとつ前に「Meta Taro」を置いた構成は秀逸だ。異端は隠すのではなく、強調する方が良い。だが、それでもやはり違う

*17:プログレッシブを形容詞として使うなら、半世紀近い昔のアルバムをプログレッシブと呼ぶのは馬鹿げているが、それをジャンルの名称とするならば、「原子心母」こそ正真正銘のプログレッシブなのである。このアルバムのタスキに、「ピンク・フロイドの道はプログレッシヴ・ロックの道なり!」と書かれたのが、「プログレッシブ」の始まりだという説がある

*18:「From Dusk till Dawn」などと大層な名前をつけているのだから、日暮れから夜明けまでの12時間を3時間ごとに区切れば、組曲のストーリーが出来るではないか。その後に、#6(Meta Taro)、#11、#12と続けば、これだけでシュールなプログレッシブアルバムだ

*19:全てがファルセットかどうかは分からない

*20:「次の曲はXX風にしたい」と言えば、「お父さん」がミュージシャンを集めてくれるし、「このリフは、あの曲のイメージで行きたい」といえば、一流のスタジオミュージシャンがそれを叶えてくれる。だがひょっとしたら、彼女たちは、それ以上のことをやっているのかも知れない。実は、次に書くつもりの記事で紹介するのだが、中元すず香(何故、Su-metalでないのか。その中で明らかになる)は、BABYMETALはこれからも多様な方向性を模索するつもりだと明言しているのだ。あたかも、それを自分たちが決めるのだと言わんばかりに