解散できない少女たち

様々な法律が18歳成人制に向けて改正されようという昨今、もうすぐ19歳になろうかという女性に対して「少女」というのも失礼な話なのだが、単に語呂が良かったという理由で、この表題にしてしまった。

f:id:onigashima:20160916013850j:plain

東京ドームが両日ともソールドアウト。おめでたいことではあるのだが、一番喜んでいるのがだれかというと、株式会社アミューズの経営陣だろう。

BABYMETALは、よくメタル純粋主義者のヘイターから「manufactured」だと非難される。だが、2010年に元の所属グループのスピンオフとしてスタートしたころの話を聞くと、「handmade」がせいぜいな所で、アミューズの経営陣などは、その存在さえ知らなかったのではないか。それが、時代変わればなんとやらで、今や会社の命運を握っていると言っても過言ではない。

両日の売上を勝手に予想すると、入場料関係が8億から10億円。関係商品の売上と放送権料等で、5億円から8億円。ほぼ15億円の売上になると見る。営業利益については、2日連続というのが大きく、営業利益率は少なくとも2割は越えるだろうから、3億円から5億円。アミューズの2017年3月期第二四半期(7月〜9月)に限ると、売上高110億円、営業利益10億円程度を予想していると思われるので、売上高で14%、営業利益では何と四半期の4割近くを、たった2日間で稼ぐことになる。

これはアミューズにとっては、BABYMETALの人気が急に上がったことによる望外の喜びなのだろうか。いや、違うね。やつらは最初から計画していたのだ。鍵は4月1日にある。

4月1日

4月1日というのは、官公庁や学校関係では新年度の初日なのだが、3月決算を採用している株式会社にとっても、やはり新年度の初日にあたる。何を言いたいか、もうお分かりだろう。株式会社アミューズの2017年3月期の初日にあたるその日は、Metal Resistanceの発売日であった。

これはたいへん象徴的な出来事であって、偶然であるとは考えられない。それは、今期よりBABYMETALを稼ぎの柱にするという株主に向けての宣言だったのだ。「狐の日」というのは、その思惑を一般には目立たなくする方便にすぎない。

アミューズが普通のタレント事務所と違うのは、それが上場企業であることだ。上場企業であるからには、多くのメリットもあるかわりに、様々な束縛もある。そのひとつが、株価水準に経営が左右されてしまうことだ。

全ての問題は株式会社アミューズが、2016年3月期に最高益を記録したことに始まる。これにはサザンや福山の働きがあったわけだが、上場企業、特に株価重視経営の気味がある企業に取っては、最高益と言っても両手を挙げて万々歳というわけには行かない。アミューズの場合、昨年の9月ごろには2016年3月期が最高益を記録することが予想されていた。株価はそれをすぐに織り込んで高騰し、後は下がるだけということになる。アミューズの株価は、2016年11月24日に最高値3080円*1を記録した後、現在は6割程度まで下がってしまっている*2

コンサートというのは、何ヶ月も前から計画しているから、2016年3月期が最高益になることは、社内的には昨年の7月か8月ぐらいには分かっていたはずだ*3。そんな時、経営陣だったら何を考えるだろうか。

サザンも福山も来期(昨年から見て)に大型ツアーの予定がないとすれば、2017年3月期が売上、利益とも落ち込むのは確実だ。その落ち込みを出来るだけカバーしたい。期待できるタレントは誰だ? PerfumeflumpoolSEKAI NO OWARI*4? いや、一番期待できるのはBABYMETALだろう。

Wembley Arenaが4月2日だったのには理由があったわけだ。Wembleyの開催発表は8月末だったから、小林が2016年の2月か3月ごろにWembleyでやりたいと打診したとき、経営陣は「それはいいね。でも、4月に延ばすことはできないのかい。4月の初めならベストなんだけど」とでも言ったのではないか。それなら、経費支出の多くを今期に経常して、収入は来期に経常できる*5

そうなれば、後は、毒を食らわば皿までだ*6

「新アルバムも出さないか? Wembleyが4月2日なら、アルバム発売は4月1日しかないよね。来期の初日だから、縁起がいい。来期はBABYMETALで行こうというわけだ、ハハハ。小林くん、頼むよ。何とか、頑張ってくれないか」。

「東京ドームはどうだい? 今年の株主総会で気の早い株主の連中が、何故ドームツアーをやらないのかと言っていたぐらいだから、来期中にはドームコンサートをやらないと、また文句を言われそうなんだ。BABYMETALファンの株主って、ちょっと面倒だよね」。

「9月19日の次の日なんだけど、一応、仮押さえしておいたから。19日がソールドアウトしそうなら、20日もやってよね。ドームの設営費用は結構かかるけど、2日続きなら利益率を上げられるからね。君も役員になったら僕の気持ちが分かるだろうけど、来期はたいへんなんだよ」

「それから、東京オリンピックなんだけど、開会式はBABYMETALということで根回しを始めようと思ってるんだ。そんなことをしなくても、他にライバルはいなさそうだけど、なにせ、話を決めるのは爺さんばっかりだから。念の為にね」

解散

一年のほど前に「BABYMETALと解散」という記事を書いて、BABYMETALの解散の可能性について論じたのだが、また、東京ドーム後に解散するという話が出ていたらしい。だが、現状は当時よりさらに進行している。株式会社アミューズの事情からすると、解散の可能性など、どこをどう探しても見当たらない。

唯一、考えられるのは、女の子たちが仲間割れして、どうしても一緒にやるのが嫌だとなるか、あるいは、メンバーの誰かが、私は別の道を歩きたいと言い出すぐらいか。しかし、彼女たちはとても仲が良さそうだし、辞めたいというのがSu-metalでなければ*7、メンバーを補充してでも続けるということになるだろう。

仮に3人が解散すると言い出したら、経営陣は土下座してでも止めようとする。「さくら学院の子供たちも、君たちが稼いでくれているおかげで活動できるんだよ。それに、君たちは彼女たちの夢なんだ。後輩たちのためにも、何とか続けてくれないか」などと情に訴えられたら、若い子たちがそれを押し切るのは難しいだろう。

*1:アミューズは今年の4月に株式分割をしている。3080円という株価は、株式分割後の水準に修正したもの

*2:確認しておくが、株式会社アミューズの経営が苦しいわけでは全くない。それどころか、減収減益予想の今期でさえ、売上高400億円と1割程度の営業利益率を見込んでいるから、世間的に言えば、たいへんな優良企業なのだ。それでも、株価は許してくれないのが怖いところだ

*3:公式には、アミューズは10月30日に業績予想の修正を開示し、通期の売上予想が417億円から465億円、営業利益が43億円から56億円に上方修正した。最終的な決算では、営業収入489億円、営業利益60億円ということで、その予想をさらに上回った

*4:これらのバンドのことはよく知りません。株式会社アミューズの決算報告書等から情報を得ています。だから、経営陣の見方を表しているのでしょう

*5:ちょっとセコすぎるかな?

*6:BABYMETALが毒というわけじゃない。これと決めたら一気に行くのも経営だ

*7:さすがに彼女が辞めたいということになれば、どうしようもない