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Baby Priestが示すもの

そして、未来はここにある  ー (Rob Halfordが、APMAのインタビューで、BABYMETALを指しながら言った言葉。UWS氏翻訳より)

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ものごとには必ず、裏と表、陰と陽がある。この両者は、必ず対でなければならない。「解散できない少女たち」という表題をつけた前の記事では、あくまでも株式会社アミューズの側から、株価や決算報告書などのデータを使って話を作ったのだが、そのため、BABYMETALの3人がショービジネスに翻弄される悲劇の主人公のように捉えられた部分もあったかも知れない。しかし、BABYMETALの3人の女性*1の側に視点をおくと、話は180度違ってくる。

例えば、仮にBABYMETALがアミューズから独立したいとする*2。その場合、アミューズは対抗できるのだろうか。日本の興行界の慣習では、所属事務所ともめると回状がまわって仕事がなくなるとか言っているが、BABYMETALの場合は事情が違う。

すぐにアメリカ資本、例えば、Live Nationなんかが乗り出してくる。BABYMETALが興行界の巨大コングロマリットである彼らと契約してしまえば、アミューズは逆立ちしてもかなわない。例えば、今年のBABYMETALのアメリカ公演の会場の多くは彼らの所有だし、チケットも傘下のTicketmasterを通じて販売された。また、今年出演したDownload Festivalは、子会社のLive Nation UKが主催している*3。日本にも、Live Nation Japanという、いつでもドームツアーを仕切れる子会社がある。だから、彼らとまともに張り合ったら、PerfumeONE OK ROCKの海外活動にも差し支えが出てしまう。アミューズとBABYMETALの力関係は、客観的にみれば、既に逆転しているとも言えるのだ*4

このような話になるのも、BABYMETALに対する評価が、業界内*5で大きく高まっているからだ。これは、日本で伝えられている「BABYMETALがXXと写真を取ったよ、すごいね」というレベルを、はるかに越えている。業界のメインストリームが、ビジネスの対象として注目しているのだ。

例えば、BABYMETALを愛するフェスティバル・プロデューサーDanny Wimmerがいる*6。彼は、独立系の興行師としては世界で最も大きい売上高を誇る人物だ。そのWimmerがBABYMETALを次のように評している。

「12歳のときに5 Seconds of Summerを見た子供たちは、いま15歳になって、もっと過激なものを探している。こいつは何かが起きるな」。

APMAの主催者インタビュー

そんな若い観客たちを前にした、おそらく初めてのライブが、APMAのアワードショーだった。残念ながら結果は、彼女たちと同世代が主流の観客に関する限り、健闘はしたがアウェーでの初めての敗戦となったようだ*7。もっとも、観客の大半が知る由もないRob Halfordをゲストにするぐらいだから、最初から勝つつもりはなかったとしか思えない。

しかし、こと音楽業界向けとしては大勝利だった。前の記事で紹介したように、Best Live Bandに選出されたバンドのフロントマンが「(BABYMETALではなく)何で俺達がこの賞をもらったんだ?」なんてことを言い出すぐらい*8、業界人には強烈な印象を与えたようだ。グラミー賞ノミネートへの道も、かなり視界が開けたようだ。

なによりも、世界中のBABYMTEALファンたちは大喜びだったのだが、一番に楽しんでいたのがBaby Priest本人たちだったことは、言うまでもない。

その本人たちに、パーフォーマンスの直後、主催者サイドからのインタビューが行われた。そのビデオがAPMAサイトに公開されたのは、かなり前だった。これはかなり重要なインタビューで、本来なら取り上げたいやつだ。しかし、私が翻訳を試みたのではとても時間がかかりそうだったのと、もうひとつ、Su-metalがスカタンなことをやった(と最初は思っていた)こともあって*9、私としてはできれば放っておきたかった。

そこへ現れたのが、UWS氏だった。

UWS氏は、当ブログのコメント欄によく書き込んでくれる人である*10。ニューヨーク在住で、おそらく英語関係の仕事をしているのだろうと思うのだが、とにかく、発音にとても詳しい。これについては、また別の機会にでも紹介したいと思っていることがある*11

さて、そのUWS氏が、インタビューの翻訳を「Baby Priestの余韻」のコメント欄に書き込んでくれた*12。彼は、このインタビューの意味を高く評価していて、どうしても紹介したいということだった。転載の許可をもらったので、以下に紹介する*13。一部の注釈を取り除いた以外は、名前の表記*14も含め、ほぼ原文のままだ。

UWS氏の言いたいことは良く分かる。Judas Priestを神のごとく崇めた人たちにとっては、驚くべき内容だろう。そして、BABYMETALの現在地について、多くの示唆がある。

インタビュー翻訳

リポーター: やあどうも。こちら2016APMAsオルタナティヴ・プレスのライアン・J・ダウニー、PRSギター・バックステージ・ラウンジに来ています。一緒にいるのはBABYMETAL、そしてメタルゴッドこと、ジューダス・プリーストロブ・ハルフォード。でっち上げなんかじゃない、文字通りのメタルゴッドです。ご覧の通り。今夜は神々揃っての御出ましですね、狐の神様、そしてメタルの神様。

ハルフォード: ああ、狐の神にメタルの神だ。[SU-METALの方を向く]

SU-METAL: ヘヘーイ… [笑]

リポーター: おや![笑]

ハルフォード: クレイジーだったね、一瞬で終わって、今なお、熱が冷めやらないのだから。いかにもインテンシヴな(徹底的に集中した)ステージだった。

リポーター: でしたね!

ハルフォード: 準備期間を何ヶ月も、何ヶ月も、何ヶ月も待って、いざ本番となるや「ドカーン!」だ。あまりに直ぐ終わってしまったが、信じられないような時を過ごしたよ。

リポーター: それを言うならファンの方です!我々にしても何ヶ月も、何ヶ月も、どんなステージでどんなサウンドになるのか思い巡らせながら待ったし、「えっ、もう終わり!?」みたいな感じまで同じ。でも、まさに最高の一撃を貰った気分ですよ。アメージングでした。

ハルフォード: 彼女達は本当に凄くてね。私も音楽シーンへの登場以来注目しているが、彼女達の人気は留まることなく高まり続けていて、・・・

リポーター: ええ。

ハルフォード:世界中に大勢の支持者がいる。言うまでもなく、本国の日本でも有名だよ。一晩に5万人の公演を行うのだから。

リポーター: うん。

ハルフォード: 彼女達の本当に、本当にハードな仕事ぶりは国外のツアー中でも変わらない。BABYMETALが何処へ行こうとビッグである所以だ。そして、それがまた効いているんだ・・・と言うのも、私はプリーストとBABYMETALが一緒に出るフェスティバルで見てるんだよ、彼女達が本当にその場を牛耳ってしまうのをね。彼女達は実に『大胆不敵』だ。

リポーター: ですね。

ハルフォード: 全くもって『恐れ知らずのフォックスゴッド達』だよ、うん。

リポーター: 先ほど、BABYMETALと共演するロブ・ハルフォードを見てとてもエキサイトした事、そしてどんな感じだったかをツイートしたんです。すると「BABYMETAL」という言葉だけで、世界中からこんなにも[ジェスチャーで表現]沢山のリツイートとコメントする人々が集まったんですよ。 [BMに対して] えっと、貴女方が最初にジューダス・プリーストの事を知ったのはいつの事でしょう。

SU-METAL: えっ・・・今日のステージの事ですか?ええと、とても、とてもエキサイティングでしたし、私達の夢が叶ったと思いました。[笑]

リポーター: [笑いながら]そうでしょう!と言うか、多くのファンの夢が叶ったという事・・・

SU-METAL: うん、うん。

リポーター:[続き] ではないかと。こんなのが観れた訳ですから。えっと、是非お聞きしたいのですが、貴人方は今夜の曲目をどんな風に選んだのですか。『Painkiller』と・・・

ハルフォード:[SU-METALにマイクを譲られ] ああ、えー、(BMチームは)皆丁重と云うか、私に「一曲お選び下さい」と言ってくれてね。それで一旦は『Breaking The Law』だけを演る事になったのだが、二週間ほど経って「『Painkiller』も演りましょう」と言われたんだ。[SU-METALを見る]

SU-METAL: ハハハハ・・・ [笑顔で静かに笑う]

リポーター:[小声で] おおおお・・・

ハルフォード: BABYMETALとしてはまた初経験の上積みみたいな事になったわけだ。我々のマッシュアップは初めてだし、『Painkiller』に『Breaking The Law』だからね。とてもじゃないが上手く行くとは思えない。ところがこの人達ときたら・・・それはもう手際が良いし、筋金入りの徹底振りで何でも実現してしまう。特にあのバンド、BABYMETALに付いているバンドだが、最上級レベルのミュージシャン達だ。本当にクールだよ。

リポーター: ですね!私は今日の早い時間にサウンドチェックをちょっとばかり、こっそり覗いてしまったのですが、こんな感じでした[密かな喜びをジェスチャーで表現]。(まだBABYMETALは)いなかった・・・と言うか、貴女方はまだBABYMETALではありませんでした。でもそれでかえってサウンドの良さや手抜かりの無さが良く分かったし、彼女の変身振りときたら、それはもう「有り得ない」ほど凄かった。本当に凄かった。そうだ、世界のジューダス・プリーストのファン・コミュニティーを代弁して言いますが、『Painkiller』は(メタルの)神髄を極めた楽曲の一つです。

ハルフォード: ここにいる素敵な『ヘヴィメタル・モンスター・レディー達』が、ヘヴィメタルのルーツを正しく理解し、認識してくれているのは本当に素晴らしい事だと思っている。誠に有難い事に、彼女達は2016年のジューダスプリーストが、今彼女達自らの為に取り組んでいる事柄に合致すると捉えてくれる。手を差し伸べて「一緒に演りましょう」と言ってくれる。連中、ジューダス・プリーストの他の連中も、(彼女達が)ジューダスプリーストをヘヴィメタルのルーツと認識している事にとても心踊らせているよ。そして [BABYMETALの三人を手で示しながら] 未来はここにある。

リポーター: 全くその通り、"激しく"同意します。皆さん、BABYMETAL、そしてメタルゴッドことジューダス・プリーストロブ・ハルフォードでした。2016APMAsの期間中には信じられない事が起こるけれど、私はこれを少なくともあと二日間続けるつもりです。どうも有難う。

Heavy Metal Monster Ladies

驚くべきことに、Rob Halfordは、まるで彼女たちのファンであるかのように、BABYMETALをひたすら讃えている。パーフォーマンスが終わった後の興奮を差し引いても、これはちょっとやり過ぎかと思えてしまうほどだ。

だが、それはおそらく、彼の本音なのだ。彼はヘビーメタルの現状に満足していない。ヘビーメタルのルーツを自認するものとして、40年たっても*15大してメタルは変わっていないじゃないか。このままでは、俺のメタルは墜ちていくばかりだ。もちろん、年をとり過ぎた俺たちが、それを変えることはできない。だが、何が本物かは分かる。

この小さい女の子たちと彼女たちのチームは、間違いなく本物だ。おそらくロックの未来を担うだろう。その彼女たちが、Judas Priestの末裔を名乗ってくれるのなら、こんな嬉しいことはない。彼女たちがヘビーメタルをどのように変えてしまおうと、そんなことは重要ではない。音楽が変化するのは自然の摂理だ。そこに微かにでも俺たちの遺伝子が残っているのなら、それで十分だ。

嬉しいことに、彼女たちは俺のPainkillerを見事に演って見せてくれた。楽しかった。Priestの他の連中は羨ましがっているだろう。年寄りは欲張りだ。願わくば、また一緒にやってくれることを。

私は、Rob HalfordがBABYMETALを過大評価し過ぎている、ということではないと思う。おそらく、BABYMETALの業界での現在地は、日本で思っているよりもかなり高いところにある。業界の大物たちがBABYMETALを擁護するのは、彼女たちが可愛いからではない。彼らの研ぎ澄まされた音楽的嗅覚が、そこに未来があると感じさせるからだ。

RHCPは、BABYMETALにチャンスを与えてくれたのではない。やつらは、うまいことをやったのだ。イギリスの主だったアリーナで、次の自分たちのツアーのために心ゆくまでリハーサル出来る権利と交換に、BABYMETALを前座として使った最後のバンドという名誉を手にいれたのだ。

*1:少女ではなく。前の記事では語呂を優先して「少女」としたが、私は結構、フェミニスト(現代の意味での)なのだ。日本式の「アイドル」というような、何となく男がサポートしなければいけないような存在は好きではない。自立した女性として捉える方が好ましい。実際、彼女たちは既に立派な一流アーティストだ

*2:居心地よさそうだから、近い将来にそうなることは、ほとんど考えられないが

*3:例のAndy Coppingは、その子会社の役員だ

*4:彼女たちが、その事実に気づいているとは思えないけどね

*5:日本ではなく世界中の

*6:何故、BABYMETALは、Danny Wimmerという大物に愛されていると言えるのでしょうか? 分かった人はコメント欄に書いてください。ヒントは、去年と今年のアメリカツアーにあります

*7:ジャニーズファンのような観客は、さすがのBABYMETALでもなかなか難しい。メタル純粋主義者のヘイターなんか、それに比べればチョロいもので、青山が2・3発タムタムを叩いてバスドラムを入れれば、ほとんど勝負は決まる。BABYMETAL DEATHというのは、実に良くできている

*8:BABYMETALは別のカテゴリーだったから、この賞を取れるはずがないのだが、よっぽどBaby Preistのパーフォーマンスが印象的だったのだろう

*9:ご存知のように、彼女はこの日のステージで、いつにも増してハイテンションだったわけで、興奮さめやらない状態でのインタビューという最悪の条件だった。だから、最初は彼女が質問の意味を取り違えたのかと思ってしまった。だが、良く考えると、そうではない。むしろ彼女は一番聞かれたくなかったことを、うまく誤魔化したのではないかと思い直した

*10:ここ以外では、つい最近、本になった「BABYMETAL試論」というブログのコメント欄に登場する

*11:Su-metalの英語の家庭教師はイギリス人であると、UWS氏が証明したのだ。重要なことは、Su-metalは、言われているよりもずっと、ちゃんとした英語をしゃべるということだ

*12:このインタビューの翻訳は他にもあったが、たぶん意味が分からなかったところを飛ばしているのだろう、完全ではない

*13:英語の文字起こしなどの関連した内容は、「Baby Priestの余韻」のコメント欄にあるので、参照してもらいたい

*14:私は、ふつう、名前を原語表記する

*15:Judas Priestの初来日は1978年