BABYMETALとGigwise
"The Future Queen of Rock"にあらせられましては、十八歳の御誕生日をお迎え遊ばされましたことを、お芽出たく忝なくお悦び申し上げます (2015年12月20日)
前記事では、KerrangによるBABYMETALの新アルバムと世界ツアーの告知記事が、スーパースターとして彼女たちを形容した最初の記事だろうと書いた。ところが、それより前にBABYMETALにスーパースターを使った記事があったようだ*1。それが、Gigwiseサイトの9月23日付けの記事の次の部分である、「Skrillexが東京の土曜日のショーで、日本のメタルアイドルスーパースターBABYMETALを、ステージに引っ張り上げた 」。
さて、Gigwiseというのは、NME.comと似たような音楽情報サイトである。Wikipediaには、2010年のランキングでNME.comを上回ったと書いてある*2。NME.comが雑誌から出発したのに対し、Gigwizeはコンサート情報サイトから出発して、総合音楽情報サイトに至った経由を持つ。私は、NME.comよりGigwiseの方がはるかに優れたサイトだと思うが、GiswiseがBABYMETALのことを良く分かっているという理由からだ。
そのGigwiseの、「2015年30ベストライブバンド」という記事にBABYMETALの名前が載っている。後で、この記事を紹介する。
不運なファーストアルバム
年の暮になると「ベストXX」というような記事がたくさん出る。Metal Hammerでも、スタッフが選んだ「Top 20 Albums of 2015」を発表していたが、これにBABYMETALのファーストアルバムが入っていないというので、「Metal HammerはBABYMETALをサポートしていたはずではなかったのか」などとRedditで文句を言っていた。しかし、これは無理からぬ所がある。
そもそもBABYMETALのファーストアルバムは、海外展開についてはたいへん中途半端になってしまった。今年、欧米で発売されたとは言え、それは去年の再リリースである。しかも既に輸入盤を手にいれているファンが多かったため、セールスはそれほどでもなかった。クオリティーが秀逸なだけに、たいへん可哀想なアルバムになってしまった。
しかし、これは誰が悪いのでもなく、YouTubeで急に人気が出過ぎたのである。こんなことは今までになかったから、契約その他全てが後手にまわってしまった。いくらダウンロードの時代とはいえ、人気が沸騰しようとするときにレコードショップに現物がないのだから盛り上がらない。特にBABYMETALは海外でもちょっとアイドル的だから、やはりグッズがないと。
そんなわけだから、全ての条件がそろって全世界同時発売となるセカンドアルバムの期待は大きい。ちょっとハードルが高くなりすぎたきらいさえある。マーケティングの方も、Wembley Arenaの前日に発売日を設定するなど*3、万事怠りなさそうである。
感傷旅行
アメリカ東海岸から中西部を11日間で巡る、アルバムの販促を兼ねたツアーも、コンパクトでこれ以上ないほど密度濃く設定されている。最初にニューヨーク公演を行い、次の2日間でメディア対応し、フィラデルフィアからCarolina Rebellionへ。後は西へ向かって、ほとんど休みなくNorthern Invasionまで突き進む。Northern Invasionは今年から始まったロックフェスティバルで、来年は2日制へ移行する。おそらく、再来年は3日制になるだろう。これで、Carolina Rebellion - Northern Invasion - Rock on the Rangeと3週連続となる巨大なロックフェステイバルシリーズが完成する。FRBがついに利上げに踏み切ったという、アメリカ景気の好調さを反映しているのかも知れない。
いずれにしても、著名バンドにとっては都合が良い。多くのバンドは3つとも出演するようだが、BABYMETALはこのうち始めの2つだけ出てさっさと日本へ帰る。最初のCarolina Rebellionは日曜日、後のNorthern Invasionは土曜日と、最も効率的な日程設定になっているが、おそらく、交渉の段階で出演日をリクエストしたのだろう。BABYMETALがフェスティバルアクトとしての地位を確立し、売手市場となっている証しだ。
このツアーの会場には「Fillmore」という名前が2箇所も出てくる。去年に続くHouse of Bluesといい、BABYMETALのプロデューサーの感傷旅行ではないだろうか。私にとっては、FillmoreとくればFillmore East。私の自動車用USBには、BABYMETALのファーストアルバムの次に、The Allman Brothers Bandの「At Fillmore East」が入っている*4。よくBABYMETALにはヘビーメタルのオマージュが含まれていると言われるが、私などは何も感じない。それよりも、音楽的には孫世代にあたるのかも知れないが、BABYMEALの中に昔のロックサウンドの片鱗が感じられるのである。「紅月」でツインリードギターがユニゾン風に弾く部分は、Duane AllmanとDickey Bettsを思い起こして、ちょっと涙が*5。
ところで、上で使った「フェステイバルアクト」という言葉は、BABYMETALにぴったりだと思ったので、次に紹介するGigwiseの記事から頂いた。この記事も年末恒例の「ベストXX」だが、なかなか書出しの文章が良い*6。コンサートの紹介サイトから出発したというGigwiseの特徴が出ている。なお、各バンドの紹介文は、BABYMETAL以外は省略して、最後にバンド名のリストを付けた。
2015年の30ベストライブバンド - 良かった順
ポップ、メタル、ラップ、その他 - あなたの今年一番のギグは?*7
今年の終わりも近づいて来たのだが、僕たちはもうボロボロだ。本当にたくさんのギグに出かけて行って、5.5ポンドの生ぬるいビールをどれだけ飲んだか、サウンドチェックの間どれだけ待ち続けたか、つまらないサポートバンドをどれだけ聞かされたか(たまにはイケてるのもあったけど)ーだけど、もう飽き飽きだというわけじゃないよ。僕らはライブミュージックのために生きてるんだから、まあ、ちょっとしたドライブみたいなものだね。MuseからMadonnaまで、間にWolf Aliceなどなど、これが、僕たちが2015年に見た30ベストライブアクトだー良かった順に並べた。
フェスティバルアクトにアリーナキングから、じめじめしたトイレみたいな会場から這い上がってきた連中*8まで、今年も素晴らしいショーをいくつも見た。僕たちが経験した本当にたくさんの素晴らしい夜について語り出したら、優に2016年までかかりそうだから、残念ながらそれは出来ない。だから、この連中だけに絞りこんだ。
これが、2015年の30グレイテストライブバンドだ。
13位. BABYMETAL:何か?マジだよ。Reading Leedsは、Metallicaとか、Mumford & Sonsとか、The Libertinesがヘッドラインしたわけだが、今でも*9皆んなの口に上る言葉はただひとつ、「BABYMETAL」。スラッシュメタルと振付つきのアイドルポップという狂気、それらが綯い交ぜとなった恍惚感でメインステージの口開けを担い、彼女たちの去ったあとには歓喜が満ち溢れていた。Wembleyにも敵はいないだろう。
1. Father John Misty 2. Muse 3. Kendrick Lamar 4. Chvrches 5. Blur 6. Enter Shikari 7. Slipknot 8. Portishead 9. Beck 10. New Order | 11. The Twilight Sad 12. The Maccabees 13. BABYMETAL 14. Marilyn Manson 15. Wolf Alice 16. Kanye West 17. Foals 18. Ryan Adams 19. Laura Marling 20. Interpol | 21. Hot Chip 22. Run The Jewels 23. Taylor Swift 24. Brandon Flowers 25. The Libertines 26. Fall Out Boy 27. Madonna 28. Foo Fighters 29. Courtney Barnett 30. Noel Gallagher |
Glastonbury?
BABYMETALが13位だからと言って、軽く扱われているわけではない。そもそも、BABYMETALは2015年、イギリス国内でたった1時間半*10ほどしか演奏していないのである。そんなバンドが、MadonnaやReading & LeedsのヘッドライナーだったThe Libertinesより評価されていること自体が驚きである*11。もともと、BABYMETALが究極のライブアクトだという声は、去年の一回目のイギリス公演の頃からあがっていたが、この記事もそれを裏付けている。ちなみに、MetallicaとMumford & Sonsは影も形もない。全体的に旬のバンドが上位に並んでいる。BABYMETALのライバルたち、ということになるだろう。
MadonnaがBABYMETALの真似をしてると言った奴がRedditにいた。まあ冗談だろうが、下の写真は「メギツネ」を思わせなくもない。
ところで、アメリカツアーを5月14日で切り上げたのは、学校のためと、もうひとつはGlastonbury(6月22-26日)へ出演するためだと思うのだが、どうだろうか?イギリス最大(あるいは世界最大)の音楽フェスティバルだから、アルバムセールスのためには、これ以上ない舞台である。
*1:いずれにしても、まだ形容詞付きのスーパースターではあるが
*2:当該記事は既に削除されているので真相は分からない
*3:雑誌やWebサイトに大きく扱えと言わんばかりだ
*4:2つのアルバムには43年という時間間隔があるが、違和感は全くない
*5:様々な世代に追憶を感じさせながらも、最新のサウンドを封入するという、考えてみれば、ファーストアルバムの秀逸さは歴史的かも知れない
*6:段落の内容が被っているが、2人が別々に書いたようだ
*7:「ギグ(Gig)」という言葉は、今まではコンサートと翻訳していたのだが、もう諦めて、そのまま使うことにする。この言葉は、もともと、ジャズの世界において「一夜限りのセッション契約」を表していたらしい。それがいつのまにかコンサートを指すようになった。日本のWikipediaには、ギグは「小さなライブハウスなどでの短いセッション(大きな会場でのコンサートの際には使用しない)」と書いてあるが、これは明らかに間違っている。前記事で紹介したKerrangの記事でも、東京ドーム公演を「巨大ヘッドラインギグ」と表現している
*8:The Libertinesのことらしい
*9:これには元記事があって、その記事は9月2日付になっている。「今でも」は当初の記事では、3日ほど後のことだった
*10:Reading & Leeds + Download + The Golden Gods Awards
*11:もちろん、こんな記事には雑誌やサイトに払う宣伝費などもからんでくるのだが、それは全てのバンドがそうなので、言うだけ野暮になる