BABYMETALが止められない理由
もはやノベルティーではなく、現象という名でさえも既に足らず。我々は日本に飛び、Babymetalの世界奪取が、さらに早まりつつあることを知る
Paul Brannigan著 / 2016-03-01 / Metal Hamer 281号のカバーストーリー*1
(挿入した写真は、John McMautrie撮影。全てTeamRockサイトへのリンクである)
横浜アリーナ*2
横浜アリーナのステージ裏の廊下に並んでいる、額に入ったツアーポスターが、その語るべき歴史を証明している。この17000人収容のコンサートホールは、高名な東京の武道館に比するほどの文化的権威を持っていないとはいえ、人々の意識のなかでは確固たる地位を築いている。The Rolling Stones、The Who、AC/DC、Queen、そして、Kissが、ここでステージを飾り、日本のメタルの象徴である先駆者 X Japanは、ニューヨークの伝説的 Madison Square Gardenを模したこの会場で、ヘッドラインしたこと九度を越えた。2001年8月26日、Panteraが最後のショーを行ったのもここだった。それは、日本で初めての終日のメタルフェステイバルBeast Feastにおいて、Slayerとのコ・ヘッドラインだった。
2013年のある日、今ではBabymetalのメンバーであるSu-metal、Yuimetal、Moametalとしての方が、世界ではよく知られている中元すず香、水野由結、菊地最愛の3人は、その師であるKobametalこと小林啓に連れられ、あるJポップのコンサートを観に、この会場にやってきた。彼は彼女たちに約束した。いつの日か、君たちのグループは、このステージの上に立ち、何千もの熱烈なファンが君たちの歌を歌うのを、目の前で聴くことになるのだと。3人のティーンエイジャーは、プロデューサーが語る未来に耳を澄ましながらも、それぞれの心のうちでは、そんな途方もない夢がいったいどのようにしたら実現するのかと、訝しんでいた*3。
2年が過ぎ、その予言は現実になった。クリスマスの2週前の週末、3人は横浜アリーナに戻ってくる。無邪気な音楽ファンとしてではなく、二夜続きのコンサートの主役として。12月12日の昼下がり、何千人ものファンが、午後の小雨のなかで根気よく列を作っている。会場を取り囲む数えきれないほどの関連商品のボードには、至るところ「Sold Out」のステッカーがはられている。ショーが始まる何時間も前から、そこは既にパーティーの雰囲気だ。Lycra素材の骸骨の衣装を身につけた男が、小さなBabymetalの生霊と共に、写真のポーズをとっている。十代の女の子たちは、嬉々として、その友達や赤の他人のために、白と黒のフェイスペイントを施してやっている。これは、普通のギグではない。何かのイベントのようだ。
二夜のショー
横浜の2つのショーは、Babymetalの「三部作の最終章」と銘打たれており、このバンドの母国において、極めて重要な一年を締めくくることになる。この年、女の子たちは、さいたまスーパーアリーナ(30000人収容)と千葉の幕張メッセ(25000人収容)でもヘッドラインショーを公演した。彼女たちの母国では、統計分析企業オリコンがまとめた数字によると、2015年、3人は同名タイトルのデビューアルバムを47,241枚売った。加えて、強く印象に残るのは、「Live At Budokan, Red Night & Black Night Apocalypse」と「World Tour 2014, Live In London」を併せて、26,667枚のDVDと52,240枚のBlu-Rayを売り上げたことだ。Babymetalにとって日本以外では最大のマーケットであるイギリスでは、4月2日に12500人収容のSSE Arena Wembleyで、このバンドの次のヘッドラインギグが開催される。このような統計結果は、音楽産業以外にもさざ波を起こしている。影響力を持つ日本の雑誌、日経ビジネスでは最近、「次世代を創る100人」の中で、このグループを取り上げ、「彼女たちはアイドルではない、一流のアーティストだ」*4と言及した。
横浜での3人の週末において最も興味深いのは、このショーが単なる儀式ではないことだ。それはまた、この日本の3人組を世界で最も話題になった若手バンドとならしめた2年に渉るキャンペーンの、その成果に相応しいビクトリーラップでもない。それは、皆が待ち焦がれていた、Babymetalの未来を覗き見できる機会なのだ。
二夜とも、いつものように、Kobametal自身のプレイリストから取られた曲集で始まる。Bring Me The HorizonのThrone、Judas PriestのPainkiller、PanteraのCowboys From Hellが、椅子席と「HAPPY MOSH' SH PIT」と書いたプラカードで指示された立ち席エリアに押し込まれた観衆の上を響き渡る。Metal Hammerが去年の1月、さいたまスーパーアリーナにおけるBabymetalのショーに参加したとき、我々の記者Stephen Hillは、このグループの母国における観衆の多くが、ポップファンで占められていることを目撃した。それは、「アイドル」グループさくら学院から派生したという、彼女たちの起源からの帰結であった。しかし、この熱狂的で暴力的なボーカルと、輝くようなサウンドトラックに乗って宙に突き上げられる拳が示しているのは、この東京を本拠とするバンドが、昔ながらのメタルヘッズを次から次へと惹きつけていることだ。それはまた、彼女たちの観衆が、彼女たち自身と同様に、我々の世界に急速に同化しつつあることをも示している*5。
しかし、この時の騒音も、花火と閃光と飛び交うレーザーの雨のなか、Su-metal、YuimetalにMoametalが、狐神のサイン(あるいはキツネ)を掲げてステージ上に現れたときに沸き起こった、突然の大混乱に比べれば、ものの数ではない。
純粋なエンターテインメントとして、この後に続く95分間は、他に比べるべきものを見出せない。この目も眩むようなステージには過去の模写も含まれている。ある程度の年齢のメタルヘッズなら、ステージの階段と花道の上に立つ3体のスフィンクスに擬した狐神のなかに、Iron MaidenのWorld Slaveryツアーに登場した大道具に向けた、心得顔の目くばせを見出すだろう*6。さらに、Rammstein風に花火も使われる。3人のあまりにも溌剌とした振付けと、神バンドの開いた口が塞がらないほどに巧みな演奏が綯い交ぜとなって、この上もなく独創的なマインドファック*7が続いていく。2日間でセットリストには微調整がある。土曜日の観衆は「紅月」と、YumetalとMoametalの「4の歌」を聴くのだが、日曜日には、「悪夢のロンド」と圧倒的に伝染的な「おねだり大作戦」が、その替りに演奏される。それでも、エネルギーレベルが赤の状態から落ちることはない。観衆は女の子たちのダンスを忠実に真似し、それらが一体となって作品の一部になっている。「ギミチョコ!」と「ヘドバンギャー」の時には、アリーナ全体にサークルピットが沸き起こり、それはまるで喜びの爆発だ。Dragonforce作の「Road Of Resistance」の前に流される、Ozzy OsbourneやJames HetfieldやCorey Taylorらが侍に扮したアニメは、悪魔的な楽しさだ。
新曲
しかし、次に出るMetal Resistanceアルバムに入いることが決まっているBabymetalの新曲の披露こそが、この夜で最も興味ある瞬間だ。全部で3つの新曲が演奏される。そこには、テンポがよくて、将来、多くの人々に好かれることが確実なKARATEも含まれる。この曲は、アップビートでジャンルごちゃまぜのバンガー*8の典型だ。さらには、暫定的に「The One」と曲名がつけられた(プロダクションノートでは「La La La」とされている)、感情に訴えるパワーバラード風の曲。この曲は、Su-metalの魅惑的なボーカルが遺憾なく発揮されたもので、明らかに、今後のBabymetalのライブショーで、ドラマチックな中心点となるべく用意されたものだ。この曲は、土曜日にはショーの開幕を担い、日曜日はセットの最後にまわる。3人の少女が、スポットライトを浴びる真っ赤なピラミッド状の「ゴンドラ」の中で、「We are The One. Together we’re the only one..」と、アンセム風のコーラスをする。ゴンドラは、ステージから滑り出し、アリーナの中、興奮する観衆の頭上20フィートをゆっくりと移動する。これは、この魅惑的なショーにふさわしい、息を呑むように見事な劇場的クライマックスだ。その場にいた全ての人々の記憶に長く残ることだろう。
この夜は、まだ終わらない。Kobametalが、2つのサプライズを用意している。ステージ横のビデオスクリーンが再びちらつきだすと、Metal Resistanceが「狐の日」と名付けられた4月1日にリリースされる、というニュースの中継が始まる。女の子たちのWembleyショーの前日だ。2つ目のお告げは、女の子たちにも驚きを与えているようだ。群衆から息を呑む声が聴こえる。Babymetalの2016年のワールドツアーが、55000人収容の東京ドームのヘッドラインショーで締めくくられることが、発表される。Babymetalが単なる一発屋だったころを思うと、それが今では、メタルの悽惨で空想に満ちた歴史の、楽しい脚注になっているではないか*9。過ちては則ち改むるに憚ること勿れ*10...
「東京ドームのことがアナウンスされたとき、私たち、落ち着いているように見えました?」と無邪気なYuimetalが尋ねる。「ほんとにびっくりして、今でも信じられません。東京ドームなんて夢にさえ出てこなかったので、そこで演るなんて現実離れしすぎ。だから、普段と変わらないように見えたんでしょう。いまは、それを本当だと思い込むのに必死です」。
写真スタジオ
二日目の横浜アリーナショーの翌朝、Babymetalは東京のある写真スタジオにいる。恥ずかしそうな笑顔と礼儀正しいお辞儀で、Hammerと、彼女たちのために待機していたお付きのメークアップアーティスト、スタイリスト、マネージャーに挨拶する。普段着だと、女の子たちはステージ上よりも、ずいぶん若く見える。由結はミッキーマウスのトレーナーだ。彼女たちの、この朝の誰にでも礼儀正しい態度は、さわやかなプロ根性から来るものだ。それは、若きエンターテイナーたちを次から次へと募集し、訓練し、そして、首にするという、この情け容赦のない業界で、スー、由結、最愛が併せて20年も生きてきたという事実を、はからずも表している。
チームBabymetalは、彼らの預かりものを鷹のような注意力で監視している。それも無理からぬことだ。Kobametalは静かだが、メディア対応が行われているときには油断ならない目つきになる。Hammerの写真家John McMurtrieが撮影した画像は慎重に検査され、ときどき、ポーズが似合わなかったり、年齢不相応だったりしたときには刎ねられる。同様に、インタビューの際には、iPhoneが録音モードでテーブルに置かれ、会話がモニターされる。たぶん、いつもの通訳Noraを通して伝えられる、このティーンエイジャーたちの返答が、間違って引用されたり歪められたりしないようにするための、安全装置なのだろう。バンドのメンバーの個人生活についての質問は、早々に記録から消される。それは、一見、無害に思えるような、例えば、女の子たちの友達がBabymetalのライブをどう思っているか、というようなものでも、「我々は、彼女たちの家族や友人を巻き込みたくないので、その質問には答えられない」という返答が、即座に返ってくるのだ。女の子たちも、また、そういうやり方を飲み込んでいる。Su-metalのバンド以外での趣味に関する質問は、若い女性が興味を持つようなものに私も興味があります、という実際には何も言っていないのと変わらない、極めてあいまいな答えに迎えられる*11。こういう用心は、女の子たちのプライバシーを守るためだけではない。Kobametalが、Babymetalのコンセプトの基盤であり、特別な意味があると考えている、その神秘性を維持するためでもある。例えばGhostとか、Kobametalの大好きなKissとか、あるいは、Steel Pantherでさえも、作られたものの背後にある生身の人間をさらけ出すことは、大事なコンセプトを散逸させてしまうのだ。これは神バンドについてもあてはまる。神バンドのメンバーたちは日本では良く知られていて、彼らの個人情報もファンサイトには明かされているけれども、このミュージシャンたちも、バンドを代表してメディアインタビューを受けることは許されていない。同様に、Su-metal、Yuimetal、Moametalが次のアルバムで果たしている役割を聞いた質問は無視され、女の子は全能の神である狐神の使者であり、この神こそが彼女たちの役割を指示するのだという、公式見解が守り続けられる。
「ディスニーランドのミッキーマウスがファンを楽しませた後に、縫いぐるみを脱いで『疲れちゃったよ。この仕事は嫌になっちゃうな』なんて言ったらどう思う」、KobametalがNoraを通じて説明する。「みんなの夢が壊れ、おとぎの国は消滅するだろう」。
「あの女の子たちにとっては、それでやりやすくなる」と彼は、その立場に固執する、「彼女たちはBabymetalとしての仕事に専念できるから、他の何にも煩わされることなく、ステージ上での役割に集中できる。そういう意味で、彼女たちにとっては、返って自由なんだよ」*12。
インタビュー
あらかじめ言われていたことだが、今日のインタビューは別々に行われるので、彼女たちのグループ内での個性と、それぞれの思いが、より豊かに浮かび上がるだろう(今日の宣伝活動から解放されしだい、Su-metalは、新アルバムの仕事を再開するために、オーストラリアに飛ばなければならない。このために生じた、珍しい対応*13)。
このグループにまつわる想像上の神話はともかくとして、Babymetal物語のルーツは、10年前、広島の小学生中元すず香が、姉の日芽香の後に続いて、アクターズスクール広島に入ったときに遡ることができる。ここは、1999年創立のタレント養成スクールで、モーニング娘やAKB48やPerfumeのような、アイドルポップグループを目指す生徒を訓練する。Su-metalは、Jポップの3人組Perfumeをみて、歌手になろうと思いついた。「私は子供の頃、いろんな楽器をやってたんですが、歌うこと以外は、何も続かなかったんです」。由結と最愛より2歳年上でもあり、Su-metalは自分がグループでの姉であると認め、リーダーとしての役割を懸命に果たしている。また、彼女は、ある種のロールモデルとしての役割を果たしていることを、しぶしぶ認めている(メジャーデビューシングル「イジメ、ダメ、ゼッタイ」が、いじめ反対のメッセージとして広く歓迎されているのに)*14。彼女のグループが与える良い影響について聞かれたとき、若干、質問の意味をそらしながらも、「Babymetalに触発されたファンの方がいらっしゃるのは、たいへん嬉しいです」と答えるのだ。
「Babymetalを始めるまで、メタル音楽のことは何も知らなかったんです」と彼女は言う、「それが、今のようになるなんて、ちょっと驚きです。Reading and Leedsで演ったときは、オープニングアクトだったんですが、最初は、観てくれている人があまり多くなかったのを、よく覚えています。だけど、私たちが始めるころには、フィールドが埋まり始めました。みなさん『この人たちは誰?』という感じに見えたのですが、誰もがショーに反応してくれたのは感激でした。外国まで出かけて行って、私たちのことを何も知らない人たちの前で、私たちのことを表現できるというのは、とても誇りに思えます」。
Yuimetalの場合は、彼女が歌手になりたいと思うようになった原因がSu-metalにあることを、嬉しそうに認める。9歳のとき、東京生まれのボーカリストは、スーが彼女にとっての初めてのプロのバンド、可憐ガールズで歌っているのを見て、すぐに「あの人のように成りたい!」と思った。2年後、さくら学院に入った由結は、彼女と親友の最愛が、スーと一緒にBabymetalをやると聞かされたとき、どこかへすっ飛んでいくように感じたと、笑いながら告白する。「そのとき、『これはトンデモナイことになるな』と思いました」と彼女は思い出す。
あとの二人からBabymetalの不断の太陽光だとみられているMoametalは、最初、このバンドに入るということが、よく飲み込めていなかったことを、よく覚えている。
「このグループは『ヘビー』ミュージックを中心にすると言われたんですが、『ヘビー』ミュージックが何なのか、分からなかったんです」と彼女が認める。「何か重たいもののことを歌うのかしら、なんてね。そして、Babymetalが始まったとき、分かったんです。『へえ〜、これがヘビーミュージックなんだ!びっくりした!』」。
由結と最愛のどちらも、いま一番好きなメタルバンドは、Bring Me The Horizonだそうだ。最愛は、Limp Bizkitをいつも聴いているという。一方、由結とスーは、Metallicaに憧れていて、Slipknotを見習いたいそうだ。4月のWembley Arenaでの公演に話が移ると ー Babymetalは彼女たちのヒーローの辿った道をまた、もう一歩進むことになるのだが ー 女の子は3人とも、文字通り興奮で紅潮してくる。Moametalはこう叫ぶ、「みんな、来てくれるのかな!」。
「まだ、現実だと感じられないんです」と、Su-metalは認める。「Wembley Arenaが伝説的な会場だということは十分、分かっていますから、私たちがそこで公演するなんて、ちょっと恐ろしくもあります。私たちがこのショーを演るということは、そこで何か伝説となるようなものを披露しなければなりません。イギリスは、私たちにとって特別な場所です。そこは、いつも何か新しいものを学ぶ場所であり、Babymetalのためになる何かを見つける場所です。だから、何か特別なものをWembleyで生み出さなければ、と考えています。失敗はできません!」。
「Babymetalをやっていて、いちばん学んだことは、3人が一緒になれば何でもやれるし、何でも乗り越えられるということです」とMoametalが言う。「ファンの人たちが私たちひとりひとりのことを、どれだけ知ってくれているのかは分かりませんが、それよりも、いちばん大事なことは、私たちの音楽を知ってもらうことです」。
2016年の進む道
話が2016年の具体的な計画に及ぶと、3人の女の子全員が、想像されるよりも自信に満ち泰然としている。ひとり、始終謎めいているKobametalのみが、口を閉ざし、安全装置である「Only the Fox God knows」の返答をする。このバンドは既に、彼女たち自身がポップビニールフィギュアとなって、永遠に残る存在になっている ー これは、まもなくForbidden Planetを通じて頒布されるのだが、女の子たちはまだ、自分たちの分を持っていない ー このバンドのブランドをアニメや漫画のスピンオフとして広げていくのかと尋ねられると、このプロデューサーは「多くの人々から異なったアイデア」でアプローチされているとまでは認めるのだが、依然、まだ何の契約もまとまってはいないと言い張る。
「ここにいるのは、ひとつの特別なグループだ」と彼は言う、「しかし、Babymetalには、現実とフィクションの間に明確な線が引かれている。Su-metal、Yuimetal、Moametalは、それ自身がキャラクターなんだ。その意味では、Babymetalは、もう既に現実世界のアニメショーだ。だから、それをフィクションにするには、特有の困難がある。グループ内でのそれぞれの個性を正確にとらえるには、とても精密にやっていかなければならない」。
今からWembleyまでの間、もうライブショーの予定は組まれていない。Kobametalは、グループの焦点はMetal Resistannceに置かれている、これこそが、このバンドの将来にとっての究極の鍵であると強調する。
「デビューアルバムは、一種の『ベスト盤』だった。アルバムを出す前にシングルをたくさんリリースしていたので、その時点までに書かれた曲をまとめたものになったんだ」と、Kobametalは言う。
「しかし、今度のアルバムは、そうじゃない。正真正銘のスタジオアルバムなんだ。そのテーマは、この輪、この円、The One、みんながひとつになること、そして、その円をさらに大きくすることだ」。
そのコンセプトは、女の子たちの心にも届いている。「この週末のショーで、こんなことは初めてかも知れませんが、Babymetalは私たちだけではない、私たちと神バンドだけでもない、私たちと神バンド、そして、ここにいるみんなで出来ているのだということが、良く分かりました」と、Su-metalが言う。
「2014年の暮れに、Brixton Academyで公演して、「Road of Resistance」を初めて演奏しました。あの曲は、地図にはない国境を探検することを歌っています。そして、2015年に私たちは、それをやりました。横浜アリーナの最後の曲は、The Oneです。この曲は、私たちが次の年、みんなと一緒にひとつになって、どこに向かうのか、それを狐神が示した新しいメッセージです」。
Su-metalは、カメラの前でダンスしている年下の友を見上げて、笑顔になる。
「昨日のショーの最後に、『三角形』(アリーナ中を飛びまわる)に乗ったとき、ファンの人たちにあれほど近づいたのは初めてのことだったんですが、みんなが笑顔でキツネサインを挙げてくれているのを見て、Babymetalの力が良く分かりました」と、彼女は静かに語る。「それこそが、来たるべき年に、私たちを前へ押し出してくれるのです。私たち皆にとって、大事な年になると感じています」。
Frock N' Roll Stars*15
Babymetalのkawaiiステージ衣装の背後には、フェミニスト的な思い*16があると、Kobametalが解説する。
女の子たちのルックスの背後には、どんな着想があるのかな?
「基本はゴスロリファッションだけど、ジャンヌダルクのイメージからもヒントを得ているんだ。Babymetalのコンサートやパフォーマンスは戦いのようなもので、そのコスチュームも、彼女たちの前に立ちはだかる者と対峙するためのユニフォームでなければならない。だから、ジャンヌダルクのようなヒロイン、あるいは、中世の騎士たちや昔の日本の武士から着想を得るのは、とても自然なことだね」。
横浜アリーナの女の子たちのコスチュームは、何が違っていたのだろう?
「あのギグは、Metal Resistance Episode 3の最後のショーなので、今までの全てのコスチュームの要素に、「三部作」を表現する三角形のモチーフを加えて作られているんだ。以前のSu-metalのトップは、鱗状の薄片が付いた鎧のようなものだったんだが、今回は鱗の替りに三角形に置き換えたんだ。三角形の辺がそれぞれBabymetalの物語 ー さいたま、幕張、横浜の3都市、ここに祝典とコンサートのためにファンを集めた ー を象徴している。もちろん、Babymetalの3人のメンバーをも表しているわけだけどね」。
Wembley Arenaでは、女の子たちは何を着るのかな?
「Metal Resistanceの次章において、進むべき道を切り開くために必要な、女性らしい靭やかさを象徴するような、クールかつ獰猛さを併せ持つコスチュームになるだろう」。
あとがき
Metal Hammerの281号のカバーストーリーである。その雑誌は、まだ私の所に届いていない*17。それもあって、翻訳の対象はTeamRock+サイトの記事である。TeamRock+の記事は、雑誌記事の転載ではあるが、微妙に転載元と違っている。特にタイトルが全く違っていて、雑誌記事では「Resistance is futile」である。
このタイトルは、スタートレックに登場するボーグという種族の常套句から取ったものだ。公式の日本語訳は「抵抗は無意味だ」となっている。普通は「無駄な抵抗はやめろ」などと訳しそうなものだが、こんな機械翻訳みたいな訳になっているのには理由がある。それは、ボーグという種族が半分サイボーグで、個性がほとんどないような奇妙な種族だからだ。そのために、機械翻訳風の訳がはまるというわけだ。
とはいえ、新アルバムのタイトルが「Metal Resistance」であることを考えると、Resistanceが無意味だと言われてしまったのでは、とても切ない。たぶん、Babymetalに抵抗しても無駄だと言いたかったのだと思うが、「すべっている」ことは否めない。そういうわけで、TeamRock+サイトでは、「Why nobody can stop Babymetal」に換えられてしまった。この新らしいタイトルを日本語に直すと、BABYMETALから始まるため、私の表題に関するルールにぴったり合う。そこで、いつもとは違い、前置きなしで翻訳記事から始めることにしたわけだ。
ところで、281号のAsmartの予約販売が、まだ売り切れていない。アミューズが大量に買い取るという、私の予想があたったようだが、売れ残るのはよくない。Metal Hammerは、右のように友達がどんどん減っています。皆さん、是非、買ってください。そうでないと、BABYMETALを表紙に使ってくれる雑誌のひとつが、消えてしまうことになり、このブログの種もなくなってしまいます。
*1:実際に用いたテクストは、雑誌の記事ではなく、TeamRock+サイトに転載された記事。両者はタイトルが違っている
*2:本文が長いので、「横浜アリーナ」から「2016年の進む道」までの小見出しは、私の勝ってで付け加えた
*3:既に2013年といえば、かのプロデューサー以外でも、その未来を予想していた人は、かなり多かったのではないだろうか。彼女たち自身はともかくとして
*5:彼らの希望的観測かも知れないが、仲間の少ない(そしてどんどん減っている)彼らとしては、とても喜んでいる。KARATEの批評記事でも、彼らはKARATEがメタル色の濃い曲であったことを、とても喜んでいた
*6:3体の狐神が、Iron Maidenの3体のスフィンクスに対して、真似しちゃったよ、と目配せしている
*7:驚きが過ぎて、その印象が頭から離れなくなるような経験
*8:club bangerを縮めてbanger。anthemと対で使われることが多い単語らしい。一緒に歌いたくなる曲がanthemなら、踊りたくなる曲がbangerか。ここでも、anthemの「The One」とbangerの「KARATE」が対になっているのは偶然だろうか
*9:「2014年、Babymetalがメタルの世界に登場したとき、信じられないことだが、奇妙な一発屋と思われていた」(「血に彩られたメタル史」281ページの脚注より)
*10:あやまちてはすなわちあらたむるにはばかることなかれ。間違い(BABYMETALを一発屋とみなしたこと)は早く修正しよう
*11:このくだりは、ちょっと面白い。Hammerはこう言っているが、案外、これは彼女の正直なこころではないかとも思う。つまり、彼女の趣味はバンド活動そのものであって、歌ったり踊ったりアルバム作りすることが余りにも面白いので、それ以外のことが色あせて見える。そうは言っても、世間一般のことにも少しは興味があるのだと強がってみたかった
*12:かなり、苦しい言い訳にも聞こえる。記者がそう思わせるように書いているのだろうが
*13:オーストラリアで何をしていたのだろう? 追記:「BABYMETALとオーストラリア」の中で明らかになる
*14:謙遜という習慣は、イギリスにはないようだ
*15:この見出しだけは、オリジナルのもの。付録にあたる部分である。もちろん、このタイトルはRock 'n' Rollとかけたもの。Frockは、幼稚園児が作業着として着るような服を指すが、ひらひらのスカートが付いたワンピースのことも表す。Babymetalのコスチュームが形状としてはFrockに似ているので、Frockで踊るスターという意味でしゃれたのだろう。ちなみに、元のRockには縦揺れ、Rollには横揺れの意味があり、船の用語である
*16:20世紀前半まで、フェミニストという言葉は、女性にやさしい男性を表していた。しかし、女権拡張主義の高まりとともに、その意味が変化し、現在では女権拡張主義者、ないし、男女同権主義者を指す。そのため、男を指揮して戦いの先頭にたったジャンヌダルクは、その象徴とみなされている。日本では、いま話題の明治の実業家、広岡浅子が象徴となるだろう。小林も、ある種のフェミニストかも知れない
*17:定期購読だから早く届くはずなのに、少し遅れている