おめでとう、そして、さようなら

"The Future Queen of Rock"にあらせられましては、十九歳の御誕生日をお迎え遊ばされましたことを、お芽出たく忝なくお悦び申し上げます (2016年12月20日)


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どうやら、281号のこの表紙が、Metal Hammerにおける、BABYMETALの最後の表紙になりそうだ。なにも殿下*1の誕生日に発表することもないと思うのだが、TeamRock社の更生管財手続き(Administration)の開始が明らかになった。事実上の倒産である。

Metal Hammerは、編集長が代わってBABYMETALへの興味が薄れたとは言え、国外でBABYMETALを本格的に扱ってくれた初めての雑誌である。BABYMETALの長くはない歴史の中でさえ、ひとつの時代が終わってしまったことを感じさせる。

イギリスでは、企業の倒産は「1986年倒産法」*2に従って処理される。分類すると次の3種類がある*3

  1. Administration
  2. Administrative Receivership(破産に対応)
  3. Liquidation(清算に対応)

更生管財手続きは、日本で言えば会社更生法の手続きに対応するもので、他の2つと比べて、会社の更生を目指すという性格がある。そのため、更生管財手続きの開始が、即Metal Hammerの廃刊につながるわけではない。しかしながら、TeamRock社の従業員80人のうち73人が解雇されるということも同時に明らかになっているので、当面は雑誌の発行が出来ない状態になることは確実だ*4

下の図は、TeamRock社発行4誌のうち、Metal HammerとClassic Rockの、1号当りの平均販売部数の推移を示したものである。Classic Rockは、昨年度ほぼ横ばいを維持できたとは言え、非常に厳しい状況であったことが分かる。Kerrang!も比較のために示してあるが、雑誌業界全体が部数減に苦しんでいるようだ*5


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Daily Recordの記事から、数字を拾ってみたのが下の表である*6。2015年に急激に財務が悪化しているのが分かる。

2014年 2015年
売上高 10.9億円 9.5億円
一般管理費 13.5億円 18.1億円
負債 8.6億円 18.5億円

これでは、倒産も仕方ない数字だ。この後は、再建がなるかどうかだが、はたして雑誌を引き継いでくれるスポンサーが現れるだろうか。仮に負債をゼロにして引き継いだとしても、1年あたり10億円近い赤字が出るようでは、見通しが暗いと言うしかない。

*1:まだ、The Queen of Rockではないから、陛下ではない

*2:2002年に改正

*3:これ以外に、「1985年会社法」に基づく処理法(和議に対応する)もある

*4:瑣末なことだが、私の定期購読は今年いっぱいで終了する。2月号から送付が始まったので、まだ来年の1月号は送付されなければならない。だから、非常に少額とはいえ、私も債権者の一員である。思えば、少し妙だと思うことがあった。定期購読が切れる予定にも関わらず、TeamRockから購読延長要請の連絡がなかったのだ。数カ月前から、倒産は見込まれていたのだろう

*5:Kerrang!も安閑とは、していられない

*6:本日の為替レートで換算した

未来のメタル

読者諸兄、こんにちは、そして、今週号へようこそ。BABYMETALを初めて表紙の主役に迎えたことを嬉しく思っている。我々の雑誌が、その始まりから愛してきたひとつのバンド、その彼女たちがここに至るまでの歳月を思うと、感無量なのだ。思いかえせば2年と少し前、3人の女の子(それと、たぶん、薄い影のような狐神)が、見たこともないような大きなテレビクルー*1を引き連れて、我々のオフィスを訪ねてきた。とても興奮した感じで、3人の女の子は私に近づいてきた。そのとき、私は壁一面に貼られたKerrangの表紙の複製の前に立っていたのだ。彼女たちは壁を指差し、ユニゾンで声をあげた。「私たちも、ここに載りたい!」。何はともあれ、君たちはそれをやったんだよ、女の子たち!


Kerrang!1648号編集長短信より


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この記事を書いたのは、Nick Ruskell、去年のReadingのときにBABYMETALにインタビューした男だ。Kerrang!の副編集長らしい。YouTubeのビデオの中で、彼はギミチョコの振り付けを習っている。今度のインタビューで彼は、このときのことを3人にからかわれたらしい。記事中で恨み言を言っているのだが、なんだか仲の良さを自慢しているようだ。

BABYMETALの3人の恐ろしいところは、インタビューされた相手を骨の髄まで魅了してしまうところだ*2。あの強面の大女、Kim Kellyでさえ、すっかり骨抜きにされてしまった。彼女に比べれば、Ruskell君なんていたってチョロいもので、Readingの時から既に顔が赤かった。

(以下の記事中、記事が長いため、私の勝ってで小見出しをつけた)

「未来のメタル」 Kerrang! 1648号カバーストーリー

Nick Ruskell著 / 2016年12月3日

BABYMETALは、既にメタルの地図を塗り替えてしまった。しかし、2016年という想像を越えた大きな年を経た後においても、彼女たちの未来は謎に包まれたままである。Nick Ruskellは、狐神の次なる予言を求めて日本へと向かう。

東京ドームとWembley Arena

あなたが東京ドームへ行ったことが無いのなら、地球上のどの会場とも、それが似ても似つかないものであることを断言しよう。満員になると55000人を収容できるのだが、単なる数字以上のものが、そこにはある。音楽以外にも野球のために使用され、巨大な構造物の屋根は、金属ではなく強靭な布で出来ていて、それを空気で持ち上げている。つまり、内気圧を一定に保つことで、屋根が落ちるのを防いでいるのだ。梁の上から見下ろしたら、蟻の群れを見ているように感じるだろう。ステージの前から見たら、今度は自分が蟻になったように感じるだろう。ここは、現実とは思えない、とてつもない巨大さを感じるように設計された場所なのだ。

9月19日、ステージが始まるまであと何分かという時間になっても、BABYMETALのメンバーたちは、まだ、これから始まることがいったい何なのか、それを理解しようと努めていた。彼女たちはまもなく、二夜に渉るほとんど前代未聞の偉業を、全精力をかけて成し遂げるのだ。

「前の日に会場へ行って、それを見上げたら、とても緊張してしまったの。それが、ショーが始まるまでずっと」。YUIMETALが今日、つまり、K!が彼女と彼女のバンドに最後に会った日に、思い起こしている。「心臓がドキドキしてきて。その状態を緊張という言葉で表わすのどうか、よく分からないんだけど」。

MOAMETALの場合は、「そこで演るときのことばかり考えてしまって、時々眠れなかったの。気持ちを落ち着かせようとはしたんだけど、でも体が緊張してしまって」。MOAMETALは、Exileという日本のバンドを観に、そこへ行ったことがあるのだが、YUIMETALとSU-METALは、Perfumeというガールバンドをそこで観たことがあるだけだ。PerfumeはYUIMETALに、ステージに上がったら、会場に「吸い込まれ」てしまうかもと言った。その予言は、完全に正しかった。

「自分の存在がいかに小さいか、分かったの。飲み込まれてしまうかと思った」。

しかし、その夜は、会場に巻き込まれることも、飲み込まれることも、消化されることもなかった。BABYMETALは飛翔したのだ。大きな売上になったセカンドアルバムMetal Resistanceをリリースし、SSE Arena Wembleyでヘッドラインした初めての日本人バンド(東京版Guns N' Rosesともいえる伝説のX Japanでさえ成し得なかった)にもなったこの年、その運命の日について、3人が一致して認めた三つのポイントがある。第一に、今年やった他のことはみんな、そのための予習みたいだったこと。第二に、神経をすり減らし、眠れない夜を過ごしたもあったが、狐神はそこで演ることを予言していたから、成功することに疑いがなかったこと。だが、最も大きくコードを鳴らすのが三つ目だ。

「(公演が決まる)前にはそこで公演することなんか考えてもいなかったし、(決まってからは)それが自分の終着点かなとも思っていたのに」とMOAMETALが振り返る。「だけど、ショーが終わったら、BABYMETALはもっと出来ると思ってしまってたの。これは始まりに過ぎないんだって」。

狐には、BABYMETALの世界には、もっと大きなものがあることが分かっている。それを信じ始めたら、どんなことでも起こりうるのだ...


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BABYMETALでなかったら

11月の東京。 BABYMETALが東京ドームで大勝利を収めてから6週間、このバンドがRed Hot Chili Pepperesのサポートのために、イギリスに戻ってくるまであと1ヶ月だ。数ヶ月に渉る緊張と重圧が消えさり、のんびりと朗らかな気分に入れ替わっている。東京のウルトラクールな渋谷(K!が見たことを報告するよ。なんと、マリオカートが通りを走ってたんだ)から、ほど近い写真スタジオで、もう5時間ほども過ごしているのだが、そこはまだ、楽しいくつろいだ雰囲気に満ちている。メンバーが、ひとりずつ、座ってKerrang!と話をする。質問が日本語に訳され、バンドが答え、そこから選択された答えが英語に訳されるという、このちょっとクソ面倒臭いやりかたさえ、そよ風のように感じられる。このバンドとこんな風に ー 長時間、くだけた雰囲気で ー 話をするというのは、ジャーナリストにとっては滅多に与えられない機会だ。YUIMETAL、MOAMETAL、そして、SU-METALのことを、もう少し知るためには絶好の場である。

影響力があって、みんなに注目されるバンドにとって(正直な所、ヨーロッパやアメリカでは大きなカルト教団のように見られているが、日本ではBABYMETALは一面を張れる、第一級のスターで、キリストより大きい存在だ*3)、3人が外に出て行くなんてことは、ある訳がない。そこへ、MOAMETALが、とんでもないことを言い出した。

「私は人前に出ても、絶対に気づかれないわ」と彼女がにっこりする。「本当は、時々気づいてほしいと思うこともあるわ。そうなったらクールだと思うんだけど、その反面、気付かれない方がクールだとも思うの。外でお腹いっぱい食べているところを誰かに見られて、私がMOAMETALだとバレたりしたら、たぶん、とても恥ずかしい!」*4

ステージ上でMOAMETALとしての私を披露すること、つまり、このバンドを通じて公的な私を持てるということは、とてもクールなの。それは、人にどう見られるかを自分でコントロールできるということだがら、と彼女が言う。といっても、BABYMETALモードに入るのは、そんなに難しくはないんだよ。お面を被るより、顔の表情を変えるほうが*5

「ちょっと複雑なんだけど、だって、ステージ上のMOAMETALとふつうの私は、同じ人間なんだから」と彼女は説明する。「だから、どっちがどっちと言うのは難しいんだけど、ひとつだけ私にも分かることは、BABYMETALは3人が一緒にいるから特別なんだってこと。もし私ひとりでやったら、こんなことは起こらなかったし、私たちがこんなことを出来るようになることもなかった。SU-METALとYUIMETALに出会ったことは、とてもたくさんのことを私にもたらしてくれたし、いろんな人に出会う機会を与えてくれたんだ」。

狐神が彼女をロックスター(杓子定規に言えば、この言葉はBABYMETALの多彩な活動を表すには適当な言葉ではない)に選ばなかったら、彼女は何をしてるのだろうかと尋ねたら、たぶん「公園で走り回って、子供のように遊んでいる」と彼女は答える。同じ仮想的世界では、SU-METALは歌っている(「私は歌うことが大好きだから、やはり街のどこかで歌っているでしょう」と彼女は言う)。YUMIETALの場合は、たぶん普通の高校に通っていて「演劇に興味を持っているかも」と言う。

しかし、それはやはり、仮想的世界のことに過ぎないのだ。BABYMETALの3人は、狐神にこれを成すべく選ばれてしまったのだから。ああ、狐神。このBABYMETALの物語に不可欠なものをご存知ない人たちのために言うと、狐神は、このバンドを作り、彼女たちの音楽を世界に広めるためにメンバーを選んだ。彼は、SU-METAL、YUMETAL、MOAMETALに(表にでないKOBAMETALにも ー 後述)、予言の形で指示を与える。彼はKerrang!の訪問に際しても、姿を見せず、正体を現すことがなかったのだが、BABYMETALをさらなる成功へと駆り立てているのは、他ならぬ彼なのだ。


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狐神の予言

「狐神の予言はいつもぶっ飛んでいて、想像を超えてるの」とSU-METALが言う。彼女はいま18歳だが、ホグワーツのフクロウのBABYMETAL版を受け取ったのは、彼女が12歳のとき*6だった。「目標が大きければ大きいほど、努力を重ねなければならないのだけど、結局はその目標を達成できる。だから、狐神がとんでもない予言と大きな目標を与えてくれることには、とっても感謝してる」。

「予言は想像を絶しているわ」とYUIMETALも認める。「とっても大きくて、いつもビックリするんだけど、やらなくちゃという気になるの」。

「狐神はいつも、ビックリするような時に予言を与えるんだけど、ある意味、楽しみにしているところもあるんだ」とMOAMETALが付け加える。彼女はYUIMETALと同じ17歳で、狐神に選ばれたのは13歳のときだった。「狐神はBABYMETALのことを何でも知っているし、私は、狐神が私たちの辿るべき道を分かっているんだと思う。私は狐神のことを信頼しているし、逆に狐神はBABYMETALのことを信頼してくれているとも思う。だから、やれないことなんて何もない。私たちは何でもやれるんだ」。

彼女がちょっと間を置く。

「だけど、もし狐神がお化けと一緒にライブをやれと言ってきたら、私は全力でいやだと言うわ」。

何で?

「だって、お化けが大嫌いなんだもの!」と彼女は笑う。「絶対いやだ!」。

SU-METAL、狐神にいやだと言わないの?

「言わない! ハハハ!」と彼女は答える。

この信仰は良く出来ている。BABYMETALの3人が、口をそろえて言うのは、狐神の予言はとんでも無い要求であることも多いが、彼の命令によって自信を植え付けられるのだということ。例えそれが、YUMETALの言う「想像を絶する」ように見えたとしても、彼は、このバンドが達成可能な挑戦を与えているだけなのだ。何故なら、それによって成長し、そこから学べる試練だけを、彼は与えているのだから。

「狐神はBABYMETALを信頼してくれていると思うんだ。だから、いつもやりがいのある高い目標を予言するんだよ」とSU-METALが説明する。「BABYMETALのファンもまた、狐神の次の予言を楽しみにしていると思うの。私たちが予言を与えられたとき、ファンも同時にそれを聞くんだもの。この前、東京ドームで公演することが予言されたときには、ファンと一緒だったの。だから、予言を聴いた後、その会場*7から次のステップへ進むことを、ファンも祝ってくれたんだ。狐神だけが私たちを前に押し、挑戦をさせているわけじゃなくて、ファンも私たちを支えてくれていると思うの」。

だが、狐神がBABYMETALを大きく変えようとしたら?彼は、そもそも、このバンドを産みだした神聖なる神なのだ ー 彼女たちは、彼があまりにも先へ行き過ぎることを心配しないのだろうか?例えば、ヒップホップのBABYMETALとか?例えば、Cannibal Corpseと一緒に7インチ*8のスプリットシングル*9を出すとか?

「大きく変えてしまうような予言を受けたら、面白いだろうな」とMOAMETALが考える。「どっちにしても、私たちが大きくなればなるほど、狐神の予言は大きな努力を要求することになるんだから。狐神が求めるなら、私は何でもやるよ。彼のことは信頼しているから」。

「予言として与えられたものは、何でも実現できると思うんだ。だって、メタルをやること自体が、私には初めてだったんだもの」とYUIMETALが説明する。最初は何でも初めてだったから、狐神が言ってくることには、いつも驚いていたの。今は分かるわ。彼が何かをやれと言うのなら、それをYUIMETALが出来るということなんだと」。

「全ては狐神次第なんだよ ー 全てね」とSU-METALが言う。「狐神がやれと言うのなら、私は何でもやるわよ。だけど、私は、狐神が信じていることは、私たちが信じていることなのだと思う。同じことなの。だから、私たちは彼が予言したことをやるだけなの。だけど、同時に、私には心のうちで大事にしていることがたくさんある。だから、狐神が私たちに本当に変われと言ってきたら、それは大きな問題になるわね!」

BABYMETALは、まだ誰も狐神に会ったことがない。もちろん、私たちもそうだ(会えるように頼んでみたが、無理だと言われた)。だが彼の信奉者であり、狐とメタルに関係することは何でもやる者としては、狐神がどんなものなのか尋ねざるを得ない。

「もちろん彼は狐みたいに決まってる」とMOAMETALが笑う。「だけど、思いやりのある狐、優しい狐なの。だって、彼のことを信頼してるんだもの。いつも難しくてやりがいのある予言と目標を与えてくれるところに、彼の愛を感じるの。日本では、狐は意地悪そうな目をしているんだけど、私は、彼が素敵な、美しい、優しい目をしていると思う。だけど、本当は彼に会いたいとは思わない。彼にはいつも神様であってほしいし、私の想像の世界にいてほしい」。

SU-METALは、もっと日常的な答えを持っている。

「狐神は絶対神のようなもので、上から見ていると思うの。だけど、同時に、彼がとても近くにいるようにも感じている。マスコットみたいにね。もしマスコット人形だったら、いつも持っていけるのにね。それなら、もっとお話できるのに」。

Rob Harlfordとの共演

BABYMETALに注目しているのは、決して狐神だけではない。このバンドは、2012年、Gimme Chocolate!!のバイラルなビデオで爆発してから、世間が認める正真正銘の著名人のファンを掴んできた。MadonnaからMetallica、さらにデスメタルの伝説Carcassに至るまで、皆がBABYMETALに「いいね!」を与えた。Lady Gagaに至っては、彼女たちをアメリカへ招待して、一緒に公演までやってしまった。

だが、我々は、ここでスターを取り上げるわけではない ー 神を取り上げるのだ。おそらく狐神と並んでも対等にやっていける唯ひとりの男、Judas PriestのフロントマンRob Halfordが、アメリカのあるアワードショーでバンドと同じステージに立ち、Priestの古典、PaikillerとBreaking The Lawを演ってしまった。狐神が君たちを信頼しているように、世界で最も偉大なメタルマンが、君たちを「いいね!」にふさわしいと見なしてくれたことが分かったのだ。これ以上ない後押しだ。

「Rob Halfordと共演すると聞かされたとき、一瞬、信じられなかった」とSU-METALが思い出す。彼女とビッグマンによるPaikillerのデュエットは、札付きのメタル戦士に嫉妬の涙を流させるのだ。「それに怖かったのは、演ろうとするのがJudas Priestの曲で、英語の曲だったこと。初めてのことが多すぎた。だけど、Robに会ったら、リラックスして楽しむように言ってくれたの」。

「メタルの神は、本当は優しくて思いやりのある人だと分かったの」、これはMOAMETALの回想だ。「Robと共演する前に、彼がブレスレットをプレゼントしてくれたの。何て暖かい人だと思ったわ。そんな風に彼が周りの人を気にかけているのが、とても印象に残った。私たちも彼に何かできたらなあ、そんな機会があればと思う*10」。

SU-METAL、MOAMETAL、YUIMETALを感動させたように、Halfordは、BABYMETALチームの一人の男にも衝撃を与えた。KOBAMETAL、すなわち、全ての背後にいる中枢部、狐神の予言を形にする者、音楽を作り、全てを前へ前へと進める男に。あるヨーロッパのフェスティバルのステージ裏で会ったとき、RobのKOBAMETALへのアドバイスは、ただ「Stay Metal」。彼はステージに上がることはなく、写真に撮られることもなく、普段は影で差配するのだが、このアドバイスは彼の心に刻まれた。抗う余地の無いものとして。それは、まるで狐神の指示のように。

「私は狐神と話したことは無いんだよ」と彼は認める。「みんなと同じように予言を受けるんだ。狐神の言に沿って動くことに重圧が無いのかって?無いね。実のところ、それは彼の提案であって、君たちが思うほど大きな重圧があるわけじゃない。予言は僕が次にどんなステップに進むのか、それにどうアプローチするか、 その見通しを啓示しているんだ。だから、彼は次に何が起こるかを見ているわけではない。時々はそういうこともあるが、基本的にはそうじゃない。全てのことは起こるべくして起こるんだから。物事は往々にして驚きだ。例えば、メタルの神とコラボするなんてのも、このひとつだね。海外でMetallicaとかIron Maidenと共演するとか。夢みたいだけどね。分かるだろう、だけどそれを実現するのは簡単じゃない」。

しかし、それは、KOBAMETALがやらなければならないことなのだ。BABYMETALの成功には、もちろんSU-METAL、YUIMETAL、MOAMETALの寄与が大きいのだが、ほとんど表に現れないとはいえ、音楽を作り、バンドが実現するべき展望と予言を与えるのは彼なのだ。彼は謙虚ではあるが、BABYMETALの成功に大きな誇りを抱いている。ちょっと、驚いてもいるのだが。

「初の日本人アーティストとしてWembleyで公演したことは、ひとつの到達点だと決めていたことなんだ。それに到達したら、次は何を起こすかを考え始める」と彼は説明する。「東京ドームの場合もそうだ。いまの時代の日本で、メタルアーティストがここで2日間を売り切るなんてことは滅多にないことなんだ。新アルバムのMetal Resistanceは、UKチャートでトップ15に入ったが、それは日本人アーティストとしては初めてのことだった。僕は、いつも、新しい歴史を作ること、そのための展望を考えている。展望を持って、それを実行する、そのために注力する、それが全てなんだ」。

希望の未来、伝説

去年のReadingフェスティバルのとき、BABYMETALがKerrang!の記者*11にダンスルーチンを教えたことがあって、彼女たちがそれを思い出して笑うのには困りものだが、多くの人が知っているのとは違った面を、そこに見出すことが出来る。もっと言えば、彼女たちのようなバンドは他には無い。複雑さが高じると裏と表が似通ってくるようなもので ー なんと言っても狐に啓示を受けているバンドなんだから ー 彼女たちの望みも、詰まるところ単純で世界共通なものに帰着する。つまり成功すること。狐神が次に用意しているものが何であれ、それがKOBAMETALの最大の夢をさえ超えてしまうかも知れない。

「初めての日本人アーティストとしてWembleyで公演したことは、大きな出来事だったわ」とSU-METALが言う。「東京ドームの公演の後で思ったのは、日本のバンドがやっていない新しいことをやらなければならないということ」。

「BABYMETALにとって大事なことは、挑戦し続けること」とKOBAMETALが言う。「多くの伝説がある。例えば、Iron Maiden。だけど、彼らは踊れない。大事なことは、常にオンリーワンであることだ」。

「東京ドームで演ったとき思ったの。これは終わりじゃない、始まりなんだって」とYUMETALがまとめる。「私たちはまだ新しい予言を受け取ってないけど、もっと前へ進む自信がある。次には、もっと大きなことがやりたいな」。

それが果たして何なのか、狐神だけが確かに知っている。それが起きるとき、皆さんもそこに居たいと思うだろう。

あとがき

雑誌のカバーストーリーの翻訳を紹介するのは、結構、気を使う。それによって何の収入も得ていないとは言え、許諾を受けているわけではないから、気持ちは良くない。だから、せめて、雑誌の売上に貢献しようかと、イギリスのNEWSSTANDという雑誌販売サイトにおける、KERRANG!1648号の案内ページを10日間ほど掲載していた(BABYMETAL号が今週号でなくなったので、現在は削除した)。

Metal Hammerの例からして、KERRANGも届くまでに1ヶ月はかかるだろうと思っていたら、なんと10日ほどで着いてしまった。だから、当初は、BABYMETAL Newswireの転載記事をテクストに使おうかと思っていたのだが、雑誌から直接、文字を拾うことができた。

ところで、この記事は会話が多いのだが、訳文中の女の子たちの会話にいつもの「ですます調」を使っていない。それには2つの理由がある。ひとつは、来日記念盤を出した洒落に便乗したこと。30年ほど前の、女の子のロックバンドの来日インタビューのようなつもり*12。Ruskell君と友達同士のような会話にした。彼にしたら、BABYMETALと友達になりたい、あるいは既に友達だと思っているだろうから、彼の気持ちからしても、この方が似つかわしい。

もうひとつは、記事中にもあるが、彼女たちの発言が、「通訳」によってそのまま英語に訳されているのではないこと。あれでは、元の日本語の雰囲気がほとんど残っていないと思う。そのことを初めて知ったのは、Kim Kellyのインタビューを翻訳しようとしたときだ。あれは通訳というより要約だ。Kim Kellyは意地悪だから、通訳の言葉をそのまま載せてしまったのだ。おかげで、地の文の時は快調だったのに、会話になって急に嫌になってしまった。

Metal Resistanceの録音技師が言うには、彼女は5ヶ国語を喋れるそうだが、そのことと通訳の能力は違う。通訳には専門の技術がなければならない。素人のツアーコンダクターに通訳させるのは早く止めたほうが良いと思うのだが。

とは言え、通訳自体が要らなくなる方が早いかもしれない。RHCPのツアーでの、Su-metalの英語の流暢なこと。あの人は「t」をとても言いにくそうに発音するので、すぐに彼女だと分かったのだが、全然違っていた。9月あたりから英語圏の国で生活しているのではないか*13。私はボストンに留学中だと睨んでいるんだけどね。

それでは、良いお年を。

*1:一昨年の年末に放送されたドキュメンタリー

*2:たぶん、こういう面の担当は、バックシンガーの2人なのだろう。これが、プロフェッショナルのアイドルというものか

*3:まさか。そんなに知られているのかな

*4:大食漢の女の子を見て、気づいている人もいると思うのだが、BABYMETALのファンは優しいのだよ

*5:彼女の素顔の写真が高校のホームページに載っているとは。でも、見つけるやつがすごい。しかし、どこにでもいる女の子みたいで、食事中でもない限り、分からないかも知れないね。彼女の言う通り、表情の変化のせいなのか

*6:他のふたりが13歳のときで、彼女が12歳なのはおかしいと思うのだが、彼女に対してだけ、12歳のときに何らかの約束(またはプロジェクトの企画)が出来ていたのか?

*7:横浜アリーナ

*8:昔でいうEP盤

*9:シングル盤のスプリット盤。共演ではなく、BABYMETALとCannibal Corpseの夫々の曲を収める

*10:それなら、メル友になってあげれば?きっと彼は喜ぶと思う

*11:この記者が著者本人だった。YouTube参照

*12:むかし、Go-Go'sというのがいたが、緩い感じが不思議によかった

*13:ときどき、来日するというわけだ

メタルからロック、そしてポップ

BABYMETALが掲載された次号については、ご注意ください。ご要望があまりにも多く、全てのご注文にお応えすることが出来かねる場合もあります (イギリスの雑誌販売サイトの、KERRANGのページに掲載された注釈)

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最近、BABYMETALがポップ化しているように感じている。ピーター・バラカンと同じくらい偏屈な、時代遅れの私たち*1だからそう思うのかも知れないが、RHCPなどというポップロックバンド*2の前座をやったり、アニメ化されたり。これで紅白歌合戦にまで出てしまったらどうしようかと思っていた*3

上の写真をよく見ていただきたい。「FACE TO FACE IN JAPAN WITH A ROCK PHENOMENON!」という文字がある。「A METAL PHENOMENON」ではない。

そう、メタルからロックに変わってしまったのだ。

もう売り切れ?

BABYMETALがKERRANG!12月3日号の表紙になった*4

この表紙は良い。とてもポップだ*5。ピンクの色調がBABYMETALにとても合っている。写真だけならアイドルと言われても否定できないぐらいだ*6

Redditに紹介されていたので、きのうNewsstandというサイトで注文した。今日になって、注文方法をこのブログで紹介しようかと思って、サイトを再び覗いてみたら、こんな表記が付加されていた。

「BABYMETALが掲載された次号については、ご注意ください。ご要望があまりにも多く、全てのご注文にお応えすることが出来かねる場合もあります ー 現在、入荷状況を確認中です。ご注文にお応えできない場合には、必ず返金いたします」

もう売り切れ? まだ発売されていないのに。そして、現在では、NewsstandのKERRANG販売ページは閉鎖されてしまった。次号の入荷の手配がつかなかったのかも知れない。今週号はまだ発売中だというのに。今週号の表紙であるAvenged Sevenfoldにとっては、いい迷惑だ。

BABYMETALがアイドルであるかどうかはともかくとして、少なくとも、アイドル並の人気であることは確かだ*7

蜜月の終わり

既報のように、Metal Hammerの編集長が変わった。Merlin Aldersladeは「僕はBABYMETALの音楽の大ファンではないが...」と言っている。「大ファン」というのは修辞的表現であって「BABYMETALの音楽には興味がない」という意味だ*8

雑誌というのは編集長のものだ。編集長の嗜好によって、雑誌は変わる。東京ドームをFrederic Leclercqの記事でお茶を濁したぐらいだから、今後、かつてのようにBABYMETALに入れ込むことはないだろう。蜜月は終わったのだ。

一購読者がどうこう言うことはない。Kim Kelly風に言うなら、「You do you」。Metal Hammerは君たちの道を行けば良い。私は定期購読を延長しないが、Metal Hammerの今後に注目しているよ*9

KERRANG!の戦略

KERRANG!の表紙が発表されて以来、「BABYMETALとメタルの危機」という過去の記事にアクセスする人が増えたようだ。当該記事は、Metal HammerがBABYMETALを重用することの裏にある戦略を分析したものだ。この記事の後、Metal Hammer 273号の表紙になることが判明したので、分析は結構、当たっていた。

それでは、今回、KERRANG側に戦略はあるのだろうか。まず、考えなければならないのは表紙の重要度である。月刊誌であるMetal Hammerは、1年間に13冊しか発行されない。そのMetal Hammerで、BABYMETALが1年間に2回も表紙になったことは、異例の厚遇である。

それに対して、KERRANGは週刊誌だから、毎年、50以上のバンドが表紙になる。だから、明らかに厚遇ではない。むしろ、BABYMETALの現在の立場からすれば、当たり前のことなのだ*10。驚くのなら、何のこともなくふつうに表紙になるという、このBABYMETALのステータスの変化に目をみはるべきだろう。

そうは言っても、副編集長を東京ドームに合わせて派遣するぐらいだから、KERRANGが商売を全く考えなかったわけでもない。

Metal Hammerは、2015年の発行部数が2011年に比べて60%以下に落ち込んでいるが、KERRANGの方も、やはり66%に落ちているのだ。当然、BABYMETALの人気はありがたい。9月のインタビュー記事をここまで引っ張ったのも、RHCPのツアーに合わせてのことだろう。BABYMETALの人気がメタルファンを越えて広がることを、KERRANGとしても期待しているに違いない。

BABYMETALは?

ちょっと寂しい気はするが、冒頭に述べたごとく、BABYMETALはポップを志向している。その過程で、Metal Hammerから、KERRANG!、あるいは、Alternative Pressのような、よりポップな雑誌に乗り換えて行くのだろう。おそらく、最終目標はアメリカ市場だ。

とりあえずは12月のグラミー賞ノミネートの発表が注目されるのだが、それよりも、Lady Gagaに連れられてスーパーボウルのハーフタイムショーに出るという、とんでもない噂がある。来年2月の可能性はほとんど無いだろうが*11、いつの日か実現してしまったら、東京オリンピックよりも衝撃は大きい。

このところ、株式会社アミューズの経営陣は無能さをさらけ出している。しょうもない副業に手を出すぐらいなら、もっと本業のマネージメント業務に集中しろ、と株主たちは考えている。それに比べて、小林啓という一介のヘビーメタルおたくが、冷徹に環境を見定めて、目標に向けて着実に歩んでいることは、とても興味深い。

株主たちは思っている。早く役員を交替した方が良いのではないか。もうそろそろ、女の子たちも独り立ちできるよ。

*1:最近、同じような仲間が出来た

*2:これは悪口です。ピーター・バラカンと同じくらい偏屈な私たちにとっては、80年代以降のロックバンドの多くがポップロックに聴こえるのだが、このバンドについては、特にそう思う

*3:グラミー賞云々のバンドが、いまさらローカルに活躍しなくてもね

*4:日本の記事で「ついに世界で最も売れているロック週刊誌の表紙になった」というような見出しがあった。KERRANGの平均発行部数は2015年で27667だから、同じイギリスの雑誌MOJOの3分の1ぐらいだ。KERRANGより売れている雑誌はたくさんある。だから、何を大袈裟なと思ったのだが、よく見れば「ロック雑誌」ではなく「ロック週刊誌」と書いてある。イギリスのNewsstandというサイトで買えるロック関係の雑誌リストには22種類の雑誌が掲載されているが、このうち週刊誌はKERRANG!だけだ。週刊誌は1冊しかないのだから、確かに「世界で最も売れている」ことに間違いはなさそうだ

*5:これは褒め言葉です

*6:明らかに最近の写真だから、東京ドームの翌日あたりに撮ったのだろう

*7:アイドルと言っても、イギリスのアイドルバンドのこと

*8:上の写真は、BABYMETALが最初にMetal Hammerの表紙になった273号のときの、Metal Hammer編集室だ。真ん中で雑誌を持っているのが、前編集長のAxexander Milas、その右側で座っているのが新編集長

*9:281号を除く平均発行部数が、20000部以下に落ち込まなければ(2015年は20961部)、新編集長の勝ちにしてやろう。18000部を割り込めば君の負けだ

*10:だから、「ついにKERRANGの表紙になった」などと雀躍歓喜するほどのことはない

*11:でも、早い方がいいね。ミュージシャンは見飽きたから、今度はTom Bradyとの記念写真はどうだろう。早くしないと、彼が引退してしまう