梅雨のけだるさには濱口祐自がよく似合う

梅雨の時期はけだるさを感じることが多い。おまけに、昨日はCOVID-19のワクチンの2回目接種を受けたので、左肩にも筋肉痛のような痛みがある。

最近は、Raspberry Piに付けたDACボードから旧式のステレオセットにつないで、スピーカーから音を出している。かなり良い音がするので、生ギターの音色がとても綺麗に聴こえる。私の持っている音源でアコーステックギターが映えるブルースは、Lightnin' Hopkins や Clapton の Unplugged などだが、日本人では濱口祐自がいい。「Yuji Hamaguchi from Katsuura」はこの時期にぴったりだ。

濱口祐自という人はとても変わった人で、教員免許を持っているのに教職にはつかずマグロ船に乗っていた。船を降りると今度は生まれ故郷の那智勝浦でバーを開き、夜通し仲間と酒三昧。酒の席では得意のギターを披露していたのだが、あるときYoutubeにあげた彼の演奏を聴いたプロデューサーがその腕前に惚れ込んで、メジャーデビューとなった。

ところが、そのデビューのときになんと還暦を過ぎるかという歳だったので、超絶技巧のブルースギタリストが勝浦で「発見」されたと、ブルース界隈でいっとき話題になった。

From Katsuura ダイジェスト

濱口祐自には物欲がない。家も持っていなので祭りの道具小屋に住んでいる*1。唯一持っているのは自分で改造した安物のギター*2と大好きな音楽の音源だけ。生活費が底をつくと、街に出かけていってギター一本で必要なだけを稼ぐ。大阪辺りなら軽トラで出かけてしまう*3*4

ところで、このアルバムはブルースの範疇に入れられているが、純粋にブルースかというとちょっと違う。濱口祐自はブルースを愛しているが、ブルースだけを愛しているわけではない。彼の生き方と同様、音楽にもこだわりがない。だから、From Katuura をブルースアルバムとして聴くとものたりないと思う人も多いようだ。

勝浦をアメリカ合衆国のディープ・サウスに例えて煽った宣伝のためか、デルタブルースを期待するからだろう。だれもサティのグノシエンヌをブルースだとは思わない。しかし、濱口が使っているのは最上級のブルースギターテクニック。一度こだわりを捨て去れば、珠玉の音の流れに身を委ねることができる。

このアルバムは彼の人生だ。勝浦という遠洋漁業の基地でもある田舎町の風土なのだ。日当たりの良い内海の漁港にふきそよぐ心地よい風なのだ*5

*1:数年前の情報なのでいまはどうか分からない

*2:上の動画に出てくるようにそういうギターがいっぱいある

*3:「ギター一本」はただの比喩で、実際には何本も使う。ドブロも使うし(濱口のドブロは他に聴いたことがないほどの絶品)、とても凝ったチューニングもするらしい

*4:関西ローカルのテレビ番組に濱口祐自が突然、出てきたことがある。ロケに行った落語家は単なるおもろいおっさんとして接していたが、スタジオにいた円広志だけは「この人は凄い人なんやで」と言っていた。円広志もやはりミュージシャンだ

*5:実際には、勝浦のどこかにある狭い入江の漁港は、この時期はとても蒸し暑いのだろうけど

「ガールズバンド」はやめてくれ

山本彩はむかしガールズバンドでギターを弾いていた」などと聞くと、とても気持ちが悪い。

何が気持ち悪いかというと、「ガールズバンド」が英語のルールに合っていない。英語で綴ると "girls band" となるのだろうが、これは間違っている。

この場合、"girls" も "band" も名詞なのだが、前に置かれた名詞が後の名詞を修飾する形容詞的用法と言われるものだ。これについてはかなり厳格なルールがある。それは形容詞的用法の名詞は単数形になるというもの。例えば、"cats food" ではなく "cat food" になる。だから、正しくは "girl band" なのだ*1


さらに言えば、"girl band" という英語の使い方がおかしい。あまり使われないが、そういう用法があることはある。しかし「女の子ばかりの ”楽器を演奏する" バンド*2」という意味ではない。

その意味を考えるには、まず "boy band" の意味を知る必要がある。"girl band"と違って、"boy band" は頻繁に使われる。それどころか、"boy" と "band" をつなげて "boyband" というひとつの名詞になっている。

今なら "boyband" としてすぐ思い浮かぶのは、韓国のグループBTSだ。ジャニーズのグループも一部を除いてあてはまる。その特徴は、基本的に楽器を演奏しないこと。加えて、アイドル的なバンドであるという意味も含まれる。

"girl band"*3 は "boyband"からの派生でできた言葉だ。だから「楽器を演奏しないアイドル的な女の子のグループ」という意味になる。


英語の意味からすれば、山本彩が一昨年まで所属していたアイドルグループこそ「ガールバンド」と呼ぶべきであって、それ以前にやっていたロックバンドを「ガールバンド」と呼ぶのは正しい使い方ではないのだ。

まして「ガールズバンド」なんて、とんでもない。

*1:これに似た間違いはたくさんある。靴屋のことを「シューズストア」と呼ぶことがあるが、正しくは「シューストア」。野球中継で甲子園のことを「タイガーススタジアム」と呼んでいることがあるが「タイガースタジアム」でなければならない

*2:bandという単語は人の集団を表わす。だから「音楽バンド」には、楽器を演奏するのか、ボーカルブループなのかを区別する意味が含まれない

*3:"boyband"のように頻繁に使われるわけではないから、結合して一単語になってはいない

「春はもうすぐ」と山本彩の俠気

山本彩は多くの人が知る元アイドルだ。それ故、アーティストとしてやっている現在も、アイドル時代のファンダム*1が維持されているようだ。

残念なことだが、アイドルファンから移行した連中のなかには、とんでもない迷惑な連中がいる。全く音楽が分からないくせに、山本のアーティスト活動に対して、えらそうに文句をつける。

一月ほど前、山本彩CDTVのテレビ番組で「春はもうすぐ」を歌ったとき、彼女のファンの中の、いかにも自分は音楽のことが分かっているという風な連中が、彼女のパファオーマンスを批判していた。やれ、声が出ていないとか、音を外していたとか。

いや、もちろん、彼らの言うことが当たっていたら何も言うこともないのだが、全くスカタンなほど外れているから、他人事ながら恥ずかしい。

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「春はもうすぐ」に込めた思い

山本は、ツアーが延期になった直後、ファン向けに3人編成でライブ配信を行った。その中の1曲がいきものがかり水野良樹が提供した「春はもうすぐ」だ。この曲だけがいまでもYouTubeに残っているが、ツアーやCDとは全く違ったアレンジで、山本は歌っている。

山本は、この曲でコロナ禍の人々の気持ちを表現しようとしているのだ。


一番は、ひたすら声を絞り、出るか出ないかのぎりぎりの所で歌う。それは歌というより語りに近い。コロナ禍で打ちひしがれた状況を表現しているわけだ*2

それに対し、二番は正調に戻る。人々落ち着きを取り戻しつつあることを表している。そして、サビは思い切り声を張る。我々は負けずに立ち上がるんだという決意の表現だ。

サビには振りまでいれて、ちょっと芝居がかりすぎだと思わないでもない。これまでの彼女とは明らかに違う。


だが、この曲に込めた彼女の思いは容易に想像できる。

山本の所属事務所は吉本興行傘下とはいえ、それほど大きな事務所ではない。山本が一番の稼ぎ頭だ。その彼女のツアーが中止になってしまったら、その損失は莫大なものになる。会社の倒産も覚悟しなければならない。苦労してやっとアーティストに専念できる状況を手に入れたのに、それが消えてしまうかも知れない。

だが、滅入ってばかりも居られない。彼女の肩には、社員や所属アーティスト全員の生活がのしかかっている。何とかしなければならない。「春はもうすぐ」は、そんな彼女の気持ちでもあったのだ。

山本彩の俠気

CDTVの番組というのは、ナオト・インティライミほか、コロナの自粛期間中にネット上の音楽配信で話題になったアーティストを取り上げたものだった。山本にも、おそらく「春はもうすぐ」指名でオファーされたのだろう。山本は、それにサポートチームのフルメンバーで臨んだ。

この曲は(現在のアレンジはというべきだが)、明らかにアンプラグドな3人編成でやるべきものだ。自分の声だけで感情を表現できる山本なら、バイオリンやコーラスのサポートは必要ない。ましてやリズムセクションなんて、却って邪魔にしかならない。

実際、全体としての出来はあまり良くなかった。リハーサルが十分でないのが、ひとつの原因だ。asamiなどは張り切りすぎて、サビで山本の声を消してしまうところもあった*3

だが、それくらいの失敗は山本も予想していたに違いない。あえてフルメンバーでやったのだ。


コロナ禍で苦しんでいるのは、山本だけではない。むしろサポートチームの方が、ツアー中止の影響は大きい。テレビに出演したら、少なくともギャラを払ってあげられる。そして何よりも、アーティストというのは人前で(テレビの向こうかもしれないが)演奏するのが一番嬉しい連中なのだ。

山本は、どうしても彼らと一緒に出たかったのだ。バンドを率いる*4というのは、そういうことだ。


天性のリーダーシップなのか、経験から身につけたものなのか。弱冠27歳の女性にして、りっぱなものだ。

*1:ファンダムという語は、単なるファンの集団を指すだけではない。そのファンたちが作る文化、他とは違った特有の雰囲気を指す。英語の綴りはfandom。fanとkingdomを混ぜた造語というのは間違い。domは単なる接尾辞だ

*2:音楽の分からない連中は一番は声が出ていないと言うが、当たり前だ。そもそも声を出していないのだから

*3:二人の声は高音部がかなり似ている。だから、asamiの声が勝ってしまうと音を外したように聴こえる。だがasamiだって、Download UKの舞台に立ったほどのボーカリストだ(ゲスト出演だったが、あまりにも堂々としていたので、伊藤政則が驚いていた)。思わず頑張ってしまったのだろう

*4:山本は小名川高広のことをバンマスと呼んでいるが、本当のバンマスは雇用主である山本以外の誰でもない。パートタイムバンドとはいえ、彼女にはバンドメンバーの生活を支える責任の一端がある