BABYMETALとヨーク大学

BMは最早、風変わりな無名バンドではない、世界メタル事典に名前が載るようになってしまったのだ。 (後述の記事を読んだReddit上の発言)

特にニュースも無いので(このブログに関して言えば、はてなダイアリーからはてなブログに移行しました)、また翻訳を紹介する。

Nouseサイトの「ロックの復興」という記事だ。と言っても、この記事には、BABYMETALの名前がたった一箇所しか登場しない。しかし、一定の意味はある。冒頭にあげたRedditの発言の通りである。

もちろん「世界メタル事典」などというものは、実際には存在しない。原文は「the global metal lexicon」である。要するに、メタルファンなら誰もが知るバンドになったという意味だ。

前の記事でも述べたが、Reading & Leedsに関する情報を見聞きして感じるのは、BABYMETALが普通のメタルバンド*1として捉えられるようになってしまったということだ。それは次のステージに上がったということではあるが、良いことばかりではない。期待されるハードルが上がったということでもある。それに見合った活躍をしなければ批判されるような存在になったということだ*2

Nouseサイトの記事も、そのことを感じさせる。

ヨーク大学

Nouseは、ヨーク大学の学生が運営する学生新聞である。1学期*3に3回づつ発行されていて、発行部数は4000部。彼らによれば、読者数は11000人だそうだ*4。nouse.co.ukは、彼らのニュースサイトである。

編集・発行に関係しているのは40人ほどの学生だ。しかし、学生だからといって馬鹿にはできない。Nouseサイトは、最初に学生新聞と知っていなければ、よくあるプロのニュースサイトとしか思えない*5。世界の政治情勢から音楽まで、様々な分野について専門の担当者が記事を書く。将来のための経験を積むべく、可能な限り本物を目指しているのだろう。

今年の卒業生たちは既に、Financial TimesやTelegraphやTimesで働いているらしい。だから、この記事を書いた記者も、来年はKerrangあたりで記事を書いているかも知れないのだ。

なお、ヨーク大学はノース・ヨークシャー州の中心都市ヨーク市にあり、学部数約30*6、学生が15000人の総合大学である。1963年設立の新しい大学であるが、大規模研究型大学としてイギリスでも有数の公立大学である。

記事の意味

この記事で一番重要な点は、学生が書いたということにある。つまり、若い世代の音楽観が反映されているということだ。

最初に歴然とした事実が示される。去年のGlastonburyのMetallicaは、ヘッドライナーに値しないバンドだというのだ。若い世代にとっては、ロックとメタルは既に懐メロに過ぎない。ところが、そこに若い芽が出てきている。その若い才能のために、実はロックとメタルは今、最高に盛り上がりつつあるという。

BABYMETALは、新しい風を吹き込む6つのバンドのひとつとして挙げられている。メンバーが十代の女の子であるとか、日本のバンドであるとか、アイドルであるとか、そんな注釈は一切ない*7。Bring Me The Horizonらと並んで、ロックとメタルの未来を担うべき、才能にあふれたバンドのひとつでしかないのである。たった一箇所しか登場しないけれども、少なくとも音楽にくわしい若い世代は、BABYMETALをこのように見ているのである。

私は「BABYMETALと解散」という記事の中で、BABYMETALが沈滞するメタルの救世主のひとつとして期待されていると書いた。その点については、将来のミュージックライターたるべきEleanor Langfordという女子学生も、ほとんど同じ考え方に立っているようだ。

BABYMETALの3人の少女は、いよいよ、のっぴきならない立場に立たされつつある*8

以下、翻訳をどうぞ。

ロックの復興

注意して見てみよう。ヘビーロックは大きく復活しつつある。Eleanor Langford著。2015-10-13

MetallicaがGlastonburyでヘッドライナーを務めてから一年たった。しかしそれは、彼らがトリを取ることに多くの批判があったことを忘れてしまうほどには、長い時間ではない。批判の中には、彼らがクマ打ちに賛同していることに対する反発もあったろう。しかし、その多くは、Metallicaが時代遅れの力の無いメタルバンドであり、イギリス最大のフェスのステージに立つような資格はないとする批判であった。

現在では、ロックとメタルはビール腹のオッサンが若いころを懐かしむためのものであるというのが、支配的な受け止め方である。それを若者文化のひとつであるとみなす人はほとんどいない。それは、はるか昔に全盛期を過ぎてしまったコミュニティーであって、今では、いつまでも同窓会ツアーを続けているような年老いたスターたちが、そこにいるだけだ。門外漢にとっては、ロックとメタルは既に死んでいるのだ。

しかし良く知ってる人間からすると、この分野は今、かつてないほど盛り上がりつつあるのだ。メインストリームの端っこに湧きだしたロックとメタルのビッグスターたちは、今まさに猛烈な勢いで弾けようとしている。

Bring Me The Horizonの話から始めよう。彼らの新しいサウンドは、彼らのルーツであるデスメタルから大きく逸脱してはいるが、彼らのスタイルとエネルギーは、彼らを生み出したそのジャンルに特有のものだ。彼らは耳馴染みのいいメタルサウンドを生み出したことで、イギリスのアルバムチャートの2位を掴み取った。

とはいえ彼らの成功は、ロックとメタルの音楽が進む道を切り開くべき新しい才能の、波の始まりでしかない。Enter Shikariはロックミュージックの政治的側面を開いたし、Babymetalは独特の劇場的なやり方でモッシュウォーシーな*9メタルを実現した。Young GunsとかPVRISは抵抗できないほど魅力的なスタイルを生み出し、Royal Bloodは、かつてないほどヘビーなロックアンセムでチャートを支配した。

彼らのような連中のキャリアは、Radio 1*10によって育まれてきた。Radio 1は、この何年か、ロックとメタルを受け入れているのだ。Daniel P Carterが司会するThe Radio 1 Rock Showは、ごく最近まで公式チャートの後に組まれていたのだが、今では日曜の3時間枠を持っている。プライムタイムの番組も、朝の番組で懸かっていたArchitectsやOf Mice and Menのようなメタルコアのシングルを懸けるようになってきた。前にはポップしかやらなかったラジオが、昔はニッチとされていたジャンルの新しい顔に、扉を開いてきたのだ。

多くの古いロックアクトは未だに過去に拘泥していけれども、中には時代と共に変わっていく連中もいる。The Foo Fightersは、常に変化を求めるアルバムと革新的な世界観の故に、スポットライトを浴び続けている。それは最近のテレビショーやアルバムSonic Highwaysでも明らかだ。The LibertinesQueens Of The Stone Ageのような昔の連中も、新しい音楽と世界ツアーを引っさげて復活した。つい最近、70年代から音楽をやってきたIron Maidenが、ニューアルバムBook of Soulsで1位を獲得した。これら嘗ての勝者が戻ってきたことは、ヘビーな音楽が元々のファン以外にも、広い層から求められていることを示している。

もはやロックとメタルは、時代遅れの少数派ではない。メインストリームの中に新鮮で若々しい華を咲かそうとしている。ちょっとはずれた音楽シーンが産みだした優れた才能とエキサイティングなサウンドは、大音量であるが故に誰にでもすぐ分かる。いずれ、みなさんの生活の中にも、多くのへビーな音楽が聞こえてくることだろう。

これからどうなって行くのだろう。この流れがずっと続くのだろうか、それとも、ブレークスルーを成し遂げたスターたちが名声を失うとともに、これらのジャンルも沈滞の底に戻っていくのだろうか。来年のフェスティバルのヘッドライナーについての噂が、これについての解答を与えているのかも知れない。Royal BloodとBring Me The Horizonの両者には、Reading and Leedsでトリを取るという情報が流れている。誰が未来をつかむにせよ、ロック界がかつてないほど盛り上がりつつあるのは確かなようだ。

*1:もちろん一流の

*2:フロントウーマンが十代の少女であるから、などとという言い訳は最早、成り立たない

*3:1年に3学期ある

*4:まわし読みするのだろう

*5:Nouseという名前が奇妙なので、何かあるとは思うが。学寮のひとつでボヤが出たというような極めてローカルな記事もあるにはある

*6:日本の学部より細分化されているので、日本でいう学科に近い

*7:そのような情報は、既に必要なくなった

*8:解散している場合じゃないよ

*9:mosh-worthy。辞書に載っていない単語。文字通り解釈すれば「モッシュするに値する」。モッシュしたくなるほど熱狂させる音楽を表す形容詞で、メタルミュージックに対しては、おそらく最高のほめ言葉になるのだろう

*10:BBCのラジオチャンネル。Radio 1にはBABYMETAL好きのDJもいる。彼はReadingのBABYMETALのステージで、興奮して飛び回っていたらしい