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再びBABYMETALとRacism

あと2日で待ち望まれたセカンドアルバムが発表されるというのに*1、明るい話題ではない。BABYMETALが世界へ出て行くということは、このような悍ましきものに直面することでもある。

一年以上前に、「BABYMETALとRacism」という記事を書いた。これは、BABYMETALのヘイターの中に、人種差別的偏見から「白人ではない」BABYMETALを嫌っている連中がいるという話だった。私は、「Racism」はヘビーメタルの深層を流れる悍ましい伏流ではないかと思っている。それを思わせる事件が起きた。元PanteraのPhilip Anselmoが、元PanteraのギタリストDimebag Darrell*2の追悼イベントで、ナチ式の敬礼をやった後で、「White Power」と叫んだのだ。

「Racism」に詳しくない方は、「White Power」を、それがどうしたと思われるかもしれない。しかし、これこそが白人至上主義を象徴する言葉である。だから、公の場でこの言葉を発することは、自分が白人至上主義者、あるいは、人種差別主義者であることを宣言することに等しい。Philip Anselmoは、この後に「あれは冗談だった」と釈明したが、それは全く成立しない。たとえ冗談にでも、口にするべき言葉ではないのである。まして、ナチ式敬礼である。ナチスユダヤ人を虐殺した論理こそ、白人至上主義なのだ。現代でもやはり、Racismはネオナチとセットになっている。

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Metal Hammer 281号は、一週間ほど前にやっと届いたのだが、Alexander Milas編集長によるEditor's Commentは、BABYMETALの話ではなく、この話題から始まった。

Racismはメタルじゃない

これから私が何を話すのか、もう分かって頂いていると思う。報道されているPhilip Anselmoの行動は、苛立たしいと同時に残念だ。象徴であるべきものがやってしまった。彼のトラブルに満ちるも輝かしいキャリアは、25年間でどこの誰にでも知られる名前を作り上げたのだが、そのステージ上の伝説がやってしまった。メタル世界を停止させ、「W」「T」「F」の文字で発音しなければならないような非難すべきもの*3を仕出かしてしまったのだ。

それを受け入れられないのは、我々だけじゃないだろう?この後にやってくる大騒ぎの中では、我々のようにショックを受けて嫌悪を催すような人々ばかりでなく、彼の抗弁を受け入れる連中も多いだろう。それでも我々は、Philip Anselmoの言い訳できない愚かで誤った行為に対して、贖罪が行われるかどうかを見守っているのだ。それがメタルにおける広く深い問題として公(おおやけ)になっていくかどうかを、我々は心の内で問うているのだ。我々は、この後の何週間、何ヶ月に渉って雑誌上でもオンライン上でも、この問題に取り組んでいくつもりだ。そもそも、音楽というものは我々の文化を規定するものであり、偉大なメタルを実現するためのものだ。何が許されて何が許されないか、そして、我々のうちで起きた、こんな非道で取り返しのつかない失態を乗り越えて、我々がどう進んで行くべきか、そういう避けることの出来ない健康的な議論を引き起こすきっかけになれば、たいへん有り難い。

今月の表紙を見てもらえばわかるように、我々は論争の傍観者ではない*4。西洋では初めてだったであろう、前回のBabymetalの表紙に対する反応は、とても素晴らしいものだった。だが、中傷する連中も、やはりいた。Watainの隠しもしない憤怒、Slayerの4段マニュアル駆動的獰猛さ、Iron MaidenやMetallicaのほとばしる力強さ、これらに対して眉一つ動かさない人々が、日本から来た3人の類まれなるエンターテイナーがステージ上でホーンサインを掲げるのを、何故だかとても恐れるのだ。ひとつだけ確かなことは、好きにせよ嫌うにせよ、Babymetalが減速する気配は全くないことだ。そして、我々は、きっと忘れられなくなるに違いないそのショーを演るために、彼女たちが数週間後にWembleyのステージに立つのを待ちきれないでいる。これもまた、メタルが前に進むための、ひとつの道に違いない。あのピットで会おう、そして...

(Editor's Comment / Alexander Milas)

メタル社会の倫理観

姓名ともにギリシャ風である編集長Alexander Milasは、やはりギリシャ系移民の子孫なのだろうか。今日のギリシャは悲しいことに沈滞の底に沈んでいるが、その遠因がナチスドイツによるギリシャ侵攻にあるのは歴史的事実である*5。そのためかどうかは分からないが、彼はRacismにたいへん厳しい。

文脈からすると、彼もメタル社会にRacismが潜んでいること、それが根深い問題であることを認識しているようだ。メタルの将来に対する議論を呼びかけ、それをメタル社会から駆逐しようとしている。だが、このように考えているのはMilasだけではない。

SlipknotのリードシンガーCorey Taylorは、TheGardian.comの質問コーナーで「メタルからRacismを根絶するために、我々はどうしたらいいだろうか?」という問いに対して、次のように答えている。

Slipknotは結成当時から、人々と共にあろうと心がけ、Racismと闘い、憎悪と闘ってきた。僕には、人を肌の色で判断するような連中のために割く時間はない。たとえそれが僕のファンであっても、残念だが君は間違っている、と正さなければならない。肌の色や、宗教や、文化や、生まれ育ちなどで、我々が人を判断していると思われたくはない。我々はどんな人々も歓迎する。昔から常にそうだったし、これからもそうあり続けるのだ」*6

キリスト教を否定して悪魔崇拝に走っているはずのメタル社会が、何か宗教的ともいえるような倫理観を求めている。

BABYMETALが闘っているもの

Philip Anselmoのおかげで、Editor's Commentの冒頭で取り上げられなかったBABYMETALだが、結果的には、「闇夜に光る一筋の灯火」のような扱われ方になった。注釈でも触れたが、BABYMETALを反Racismの象徴であるかのように扱っている*7、と思えなくはないのだ。

そこでやっと気付いた。

私は、小林啓が「私は、今年のツアーに世界中から来てくれた人々を見ながら、BABYMETALを通して全ての人がひとつになれるのだという、奇跡的な瞬間を感じることができた。我々の新曲『THE ONE』には、世界をひとつにすることを唄っている歌詞があり、コンサートの聴衆が大好きな『Road of Resistance』には、ファン同士を一体化する力がある。BABYMETALの曲は、全てがこの壮大な物語の一部なのだ」と語るのを読んで、何を大袈裟なと思っていた。

それはファンなんだから、BABYMETALだけを見ているわけで、ひとつにはなっているだろう。だが、それで現実の世界がひとつになれるわけはない。イスラム原理主義に根ざしたテロリズムと、それに反応したイスラム教徒への迫害というような現実社会の様々な問題が解決できるはずもない、という余りにもありきたりな違和感を持っていたのだ。

だが、待てよ。BABYMETALが闘っているのは、そんな大それたものじゃなく、もっと身近なものじゃないか。メタル世界の底に潜む「Racism」ではないのか、と気付いたのだ。

小林が長年のメタルファンであるならば、Racismを意識していて不思議ではない。そして、白人ではない日本人の少女が、メタル社会に受け入れられるための最大の敵は、言われるようなメタル純粋主義者ではなく、まさにRacistなんだと考えているのではないか。

そう考えれば、全てが納得できる。

「Road of Resistance」ではRacistと闘っているのだし、「THE ONE」はRacismを乗り越えてひとつになろうと歌っているわけだ。

Mの悪魔的な笑顔*8が、何人かのRacistを改心させるとすれば、それは確かによりよい社会への一歩になるし、Milasの言う「メタルが前に進むための、ひとつの道」につながるのかも知れない。

*1:もうレコードショップには並んでいるが

*2:彼の実兄であるPanteraのドラマーVinnie Paulは、BABYMETALと写真を撮っている

*3:WTF=What the fuck。なんたることだ

*4:この「論争」は、単にBABYMETALの好き嫌いにまつわる論争だけを指しているのか?ひょっとしたら彼は、Racismに反対する象徴として、今月号の表紙を捉えているのかも知れない

*5:だから、他のEU諸国から怠け者と蔑まれる現代のギリシャ人が、EUの盟主であるドイツの厳しい処置に文句をつけるのも、あながち八つ当たりであるとばかりは言い切れない。彼らの先祖はナチスドイツと英雄的な戦いを貫徹し、そして、敗れた

*6:Corey Taylorは、こんなに良いやつだから、Chicago Open Airで会った時には、今度こそ素顔のTaylorと写真を撮ってやってね。彼の子供たちのために

*7:281号の表紙がBABYMETALになることは昨年の暮れには決まっていたはずで、Anselmoの騒動は1月末だから、時間的経過からすると、これは計画されたものではない

*8:最近のこの人は、小悪魔というより大魔王というしかない