Baby Priestの余韻

http://media.gettyimages.com/photos/sumetal-and-moametal-of-babymetal-perform-during-the-alternative-picture-id577570608

そこにいたのは、道端でいつもライブをしているような、本当に自分たちの楽しみのためだけにやっているような、ひとつのバンドだった (theGlimmerTwin氏によるRedditの投稿から)

Metal Resistanceが出た後のハイな状態も終わって*1、海外の記事も薄っぺらい内容ばかり。あまり書きたいことが無いなと思っていたところへ、強烈な一撃だった。それは、BABYMETALがメタル界の大立者と共演したというからではなく*2、冒頭にあげた言葉にあるように、本当にみんなが心から楽しんでいたからだ。

Baby Priest*3のパーフォーマンスがショックを与えたのは、必ずしもファンだけではなかったようで、APMAのBest Live Bandに輝いたNeck DeepのフロントマンBen Barlowは、受賞あいさつで、「Babymetalの後では、何で俺達がこの賞を取れたのか、全く分からない」と言った。それほどまでに、あのパーフォーマンスは、少なくとも業界人には大きな影響を与えたようだった*4

そのパーフォーマンスを一番楽しんでいたのは、他ならぬThe Future Queen of Rock*5、その人だった。「Death stare」とも「Evil stare」とも称される「睨み」は影もなく*6、笑顔だけが彼女を支配していた。ファンとしては、彼女が喜びに溢れ、ステージを熊のように*7、のし歩いているのを見ながら、その日*8が刻々と近づいているのを感じたのだった。

そうした所へ、先を越されてしまったと思ったのが、Redditのハンドル名theGlimmerTwin氏の投稿。私の書きたかったことをそのまま書かれてしまった。国は違っても、BABYMETALが好きな連中は同じように考えているものだと思う。theGlimmerTwin氏は、BABYMETALのアルバム収録曲を一曲づつ、丹念に分析した長文の投稿を続けているのだが、今回はMetal Resistanceの最終回で「The One」の順番に当たっていた。ところが、そこへAPMAのパーフォーマンスが飛び込んできたので、矢も盾もたまらず、記事の前半部をAPMAにあてたというわけだ。そこで、彼の投稿の前半部を紹介することにする。

Redditの投稿から

Resistance Review Series Finale (Part 12): The One (APMAs Special)

theGlimmerTwin / 2016-07-24

(冒頭略)

BabymetalのAPMAにおけるパーフォーマンスは、楽しさにあふれた大成功だった。それは、若者が憧れる対象となることを狙ったものでもなく、既にセカンドアルバムで達成されているように、彼女たちの正当性をもっと高めようとするためでもなかった(そういうものを目指して演ったとしても悪くはなかっただろうが)。そこにいたのは、道端でいつもライブをしているような、本当に自分たちの楽しみのためだけにやっているような、ひとつのバンドだった。そして、それは、世界中のメタルファンとBabymetalのファンにとっては、この上もない贈り物となったのだ。

この予定が発表されたときには、メタル関係の報道が一斉に書きたて、メタルの王者たるRob Halfordが、このジャンルでとても評価が別れる連中とステージを共にする、というようなことを載せていたものだ。うまく行くのだろうか、惨めな失敗となるのだろうか?ここで胸を張って言えることに、結果が後者でなかったことを、Babymetalは確かに証明したのだった。

本番では、彼女たちはリードシングルであるKarateを冒頭にもってきて、いつものように、パワーと釣り合いと正確さを持って演奏したのだが、多くのニュースでは、そのことをさらっと流しただけにとどまった。アワードショーの短いセットでは、コールアンドレスポンスは勢いに水を差すことになる。だから、このような特別の場では、私なら飛ばしてしまっただろう。ところが、ファンカムの映像は、メインとなる観客はともかく、業界関係者が位置取る席のかなりの部分が熱狂していたことを映していた。その影響はなかったようだ。私がここでKarateに言及したのは、この曲が次に続く曲と比較して、完璧な対照となるからなのだ*9

http://www.helloasia.com.au/wp-content/uploads/2016/07/DSC_6679.jpg

最初に来たのは、Su-metalとRob Halfordのコラボによる、Judas Priest1990年の古典的名曲Painkiller。人類を救いにやってきた天使を歌っているから、Babymetalとのコラボには何だかぴったりはまる。このパーフォーマンスが始まって、直ぐに気づくのは、Su-metalが何ともくつろいだ様子に見えること。2曲ともに始めから終わりまで、何かから解放されたように、Suは喜びに溢れていた。彼女は時々、このグループのメインボーカリストとしての重圧を口にすることがあるが、これは疑いなく、その義務を他の誰かと分け合うことが出来るという、彼女にしか分からない喜びだった。
 
Su-metalは、3人のうちでも一番、振り付けからの開放感を感じていたようでもあった。ステージを自由に動きまわり、RobやYuiやMoaにちょっかいを出し(後では一緒になって、いろいろやるのだが)、はたまた観客と一緒に大盛り上がり。冷静に見ていたら、Suが自分の番でないときにでも、一緒に歌っていたことが分かっただろう。彼女がこのパーフォーマンスに全力を傾けていたのは明らかだった。このようなコラボをもっとやりたいと熱望しているに違いない。

私が一番好きなところは、何と言っても、Painkillerの2回目のスクリームパートだ。Robは低音域、Suは高音域を担い、RobとSuの声は、音響的に、お互いを讃えあっていた。この2回めのスクリームを終えようとする2/3ぐらいのところで、Suが突然、ギアを入れ換えたようにパンチを放った。そして、それが終わり二人が左右に分かれたとき、Suの顔に大きな喜びとも驚きとも取れる表情が浮かんだのだ。それは、彼女が心のうちで「やったぜ...」と独りごちているように見えた。Robもまた、ステージの上手へと歩きながら、首を上下に振っていた。それは、ビートを取るためだけではなかったようだ。笑みが浮かび、満足感が垣間見えていた。いい仕事だった。

ここで、Su-metalが観客に紹介したのは、「Today's special guitarists... Yuimetal & Moametal」。私は彼女たちが実際に弾いていたかどうかを議論するつもりはない(録画を見れば、弾いていないことは明らかのように思う)。私にとって重要なのは、このパーフォーマンスの楽しさなのだ。

さあ、ステージ上の全員で、「Breaking The Law」の新版を送り出すのだ。小さなお立ち台の上で、MoaとYuiは、注目を浴びながらリフを繰り出した。特にMoaは気合が入っていて、腕を2回、クルクルまわし(彼女がよくやるやつ)、その腕を素早く振り下ろしてギターを弾きだした。Yuiの方は、いつもの振付が無いために、海に放り込まれたみたいな様子だったのだが、ダンスルーチンに全てをかけてきた人間としては、もっともなことだ。Kamiの相棒*10と一緒になったときに、やり取りできる相手ができて、彼女はやっと落ち着いたように見えた。

それに比べてMoaは、若手のギタリストみたいに、はるかに気持ちよさそうで、パワーポーズ*11をとるだけではなく、純粋にギターパーフォーマンスに集中しているように見受けられた。ギターの扱いがかなり大袈裟だったIDZのビデオとは違って、今度のパーフォーマンスは(二人ともに)ずっと抑制されていたのだが、それでも随所にセンスの良さを感じさせていた。彼女たちがライブで弾く機会が、あまりあるとは思わないが、Moaの方は、この曲とその構成を頭に入れているように見えた。

SuとRobが交互に旋律を担い、あるいは一緒にコーラスをする傍ら、MoaとYuiがシュレッドし、神バンドもまた楽しい時間を過ごしているように見えた。それは、パーフォーマー自身が発散する喜びを純粋に味わえるという、楽しいパーフォマンスだった。特にMoaと大村は、終わりにくると、お互いを鏡のように真似、ひざまずきながら、背中を床につかんばかりの格好で演奏し、Breaking the Lawの最後のひと時を心ゆくまで楽しんでいた。そして、一緒に両手をくるくるまわしたかと思うと、最後のジャンプを決めたのだ。

全体的に見て、このパーフォーマンスはアワードショーの中でもハイライトであり、多くのメディアの注目を集めた。端的に言えば、Babymetalの大成功のひとつは、メディアと象徴と言えるような大物を味方につけたことであり、肯定的な発言を得ることが成功の鍵となる要素である。明らかにギターを弾く振りをしていたのを見て、私はこれが反Babymetalの連中からの攻撃材料になるのではないかという危惧を抱いたのだが、そういうコメントはほとんど見られなかった。怒りの大半は、Rob Halfordが、このバンドと共演したという「裏切り」に向けられているようだ。

これは、Babymetalが前に進むための大きな力になる。彼女たちは喜びをもたらすバンドであり、一緒に楽しめて、笑顔になれるバンドである。こういうところにメディアがすり寄り、音楽界の大物たちが惹きつけられるのだ。Rob ZombieやCorey TaylorやRob Halfordのような人々がこのグループを支持するのも、心の底からパーフォーマンスすることが好きなのだという、彼女たちのこの心根に魅了されるのに違いない。人々は、彼女たちのメタルとしての正統性を始終、議論しているけれども、ひとつだけ確かに言えることは、女の子たちが養子先のこのジャンル*12を探求し、パーフォーマンスしている間にも、彼女たちは楽しんでいるということだ。(以降略)

あとがき

この文章のなかで、著者の意見に賛成できないところが、ひとつだけある。それは、MoaとYuiのギターパーフォーマンスが振りだけだと著者が信じている部分だ。残念ながら、というより彼も喜ぶだろうが、少なくとも、Moaは本当に弾いていた。私は、録画の中で、Moaの6弦が大きく振動しているのを見つけた。そして、おそらく、5弦も。彼女は確かに低音のリフを弾いていたのだ。この時、Moaは大村と近距離で向き合っていたから、仮にアンプを通していないとしても、デタラメに弾いているわけがない。そんなことをしたら、大村の演奏にも影響が出てしまう。

ところで、Moaと大村が膝つきで弾いていた部分だが、2階席から撮影されたファンカムのビデオを見ると、これを仕掛けたのはMoaであることが分かる。最初にMoaが、「このまえ教えてくれた、あれをやろうよ」とでも言わんばかりに膝をついて座り込み、それを見た大村が、はっと気付いたように追随した。パーフォーマンスに限れば、この娘は天性のロックギタリストだ。神バンドを含めても、彼女が一番、ロックスピリットを持っているのではないだろうか。

Moaに比べると、Yuiは確かに居心地が悪そうだった。こういう真面目で、慎重で、恥ずかしがり屋の人は、新しいものは苦手だ。しかし、こういう人は、経験を積んで自信があるレベルを越えたときに、急に弾けるものだ。心配はいらない。30代になったときには*13、彼女が一番、暴れまわっているかも知れない。

Rob Halfordも楽しそうだった。若い頃のエネルギーには比べるべくもないが、燃えるものがあったのかも知れない。中年の男は、若い女の子と一緒なら、あれぐらいの元気がでるものだという意見があったが、伝えられる彼の性的嗜好からすれば、それだけは絶対にありえない。純粋にアーティストとしての高揚だ。そして、それを引き出したのは、神バンドの演奏技術と、Su-metalのボーカリストとしてのオーラであるとみて間違いない。「今度はもっと長い時間やろう」と言って別れたのは、彼の本音だろう。

以前の記事でも述べたが、Halfordはヘビーメタルの現状に大きな不満を抱いているようだ*14。そういう彼がBABYMETALと共演したのは、メタルはこうあるべきだという、彼の明確な意思なのだ。メタル純粋主義者は残念だろうが、いくら「裏切り」と非難してみても、流れがもとに戻ることはない。

*1:もちろん、このアルバムに飽きたわけではない。サードアルバムが出るまでは、今世紀最高のアルバムだと思っている

*2:正直なところ、私自身はRob Halfordのことはほとんど知らない。ロックファンだったころは、Judas Priestはまだ駆け出しのバンドだった。だから、メタルの神を有難がっているというより、女の子たちや、なによりも神バンドの連中が嬉しそうにしているのを見て、彼女たちの喜んでいるという事実に感動しているわけだ

*3:BABYMETALとJudas Priestを併せた造語。念の為

*4:グラミー賞の選考委員らしき男が、この場にいたようだ。彼は、演奏前の彼女たちと話したということだが、このパーフォーマンスをどのように感じたのだろうか?。以前の記事で、BABYMETALはグラミー賞を取ると断言したのだが、ちょっと弱気になっている。それと言うのも、そもそも、グラミー賞はアメリカ国内の活動が中心になるから、APMAが事実上、今年最後の公演と言えるのだ。BABYMETALは年内は東京ドームで活動を終了しそうで、グラミー賞のノミネートが発表される12月までの5ヶ月間、アメリカでは空白の時間になってしまう。本気で取りに行くなら、11月末ぐらいにニューヨークあたりで大きなコンサートを演ることが望ましいが、日程的に厳しいだろう

*5:私がかってに名づけている称号。いつの日か、The Queen of Rockとして、ロック界に君臨するだろうという意味

*6:もちろん、「睨み」が彼女の魅力のひとつであることに間違いはない

*7:Halfordが年老いた大熊で、彼女が若さに溢れる青年熊

*8:The Queen of Rockの戴冠の日

*9:Karateが振り付けで、後の2曲が(当然のことながら)フリースタイルであることを言っているのか?

*10:藤岡

*11:自信たっぷりのポーズ

*12:自分たちの意思ではなく、ヘビーメタルをやり出したこと

*13:30代のBABYMETALは有り得ないと言った評論家がいたが、私は間違いなく有ると思っている

*14:かと言って、彼自身がそれを変えられるかというと、それは難しい。若い連中に期待するしか術はない