BABYMETALとビジネス

東洋経済に記事を書いたアホは、「BABYMETALは外国で名を売って日本に逆上陸し、日本で稼ぐ」のが巧妙なしかけだと書いていたが、私はそうは思わない。

彼らは(あきらかに彼女らではなく)、メタルレジスタンスの額面通り、世界を狙っている。1億人の市場より70億人の市場の方が、だれが見ても魅力的だ。現状のBAYBYMETALの受け入れられ方を見て、もし世界市場を意識しないとすれば、それはビジネスマンとして失格だろう。

ファーストアルバムがアメリカとEUで発売決定

昨日、BABYMETALのファーストアルバムが、アメリカとEU諸国で発売されることが決定したそうだ。

ビジネスとしては、これは決定的に重要なステップだ。いくらインターネットの時代だとはいえ、実際にレコードショップに陳列されるのとそうでないのとでは大きな違いがある。現地企業が扱うことによって現地メディアへの影響力も違ってくるだろう。

題名を現地語化し、歌詞の現地語訳をつけるのも意外に重要だ。我々は外国語の曲を聴くのに慣れているから、歌詞の意味があまり分からなくても気にならない。ところが特に英語圏の人は、どうも歌詞に重きを置いているらしい。実際、IDZでイジメ反対を歌っていることが、たいへん評価されているようだ。

この契約について報じるLoudwireの記事に、アメリカでの発売元RAL/Sony Music Entertainmentのマーケティング担当副社長の談話が乗っているが、単なる1アーティストとの契約にしては大層すぎるほめ言葉を寄せている。

「ニューヨークでのソールドアウトしたショーをこの目で観て、自社でぜひ扱いたいと思った。コアなメタルファンもメタルプレスも、BABYMETALが音楽という言葉で、現実の言葉の壁を超越してしまったことを認めているようだ。彼女たちはエンターテインメントとしての様々な要素を持っていて、本当に観ているのが楽しくなる」*1

マーケティング担当の言葉だから話半分で聞かなければならないが、かなり正直なところを言っているように思う。

契約の意味

当該のニューヨーク公演は去年の11月4日だから契約までにだいぶ時間がかかったようにみえるが、UNLOCKING THE TRUETHの場合とは違い*2、企業同士の契約だからこんなものだろう。契約エリアが北米全体に及ぶのかとか、インターネット販売の取り分やマーケティング費用はどう分けるのかとか、決めることは多々ある。*3

この契約には噂されていたような契約金は存在しないだろう。連結売上高が軽く300億円を超えるアミューズにとって、目先の数億円にはほとんど意味がない。それよりも将来の権益を確保する方がはるかに重要な意味を持つ。

そういう目でみると、5月初旬の北米ツアーは示唆的だ。ツアースケジュールの発表直後には、何でメキシコシティーから始まってカナダを経由するのかという疑問があったが、おそらくRAL/Sonyとの契約はカナダとメキシコを含んでいるのだろう(あるいは、北米自由貿易協定NAFTA)のために自動的にそうなるのか)。ツアーは契約のお披露目としての意味を持っていたわけだ。

メキシコは人口が1億人を超えるスペイン語圏最大の国だし、NAFTAの成立や日中対立の影響もあって日本企業の進出も多い。さらにメキシコを足掛かりにして中南米のスペイン語圏、ポルトガル語圏を目指すことも意識しているのかも知れない。南米の大国でありヘビーメタルの人気が高いブラジルは当然、彼らの視野に入っているはずだ。

世界征服はできるのか

ここまで来るとさすがにマーケティングは、小林啓の手を離れているに違いない。彼には一番大事な仕事、セカンドアルバムの製作が残されている。

BABYMETALが世界を征服できるかどうか。

マーケティング環境が着々と整えられているなか、セカンドアルバムの出来がその成否を決めることになる。

*1:意訳ですよ。"They hit all the entertainment buttons" なんて直訳できるものですか

*2:最近のニュースではUNLOCKING THE TRUETHはSonyとの170万ドルの契約を破棄する意向だそうだ。打ち合わせなどに忙殺されて音楽に集中する時間が取れないらしい。そもそも中学生がエージェントなしに(弁護士は付いているが)契約を結ぶのは無理だ。可哀想に。BABYMETALでは、小林啓その他が全部やってくれるから状況は全く違う

*3:中元すず香が最近ニューヨークに行っていたという噂があるが、この契約のためだという可能性はある。彼女がサインしたかどうかは別にして、締結の場に同席していても全くおかしくはない