BABYMETALとClassic Rock
「いまBabymetalは、とても重要な存在なんだ。我々には常に、人を振り向かせる、他と違った何かが必要だ。まさにBabymetalは、メタルを聴いたことがない人々を、メタルへと導いてくれているんだ」(Herman Liの言葉/Classic Rockの記事)Reading&Leedsが終わって、何か書いてみたいと思っていたのだが、なかなか考えが定まらなかった。それと言うのも、「9万人が熱狂*1」などと日本では大袈裟に宣伝されていたのだが、Sonisphereのビックリした感じとは違い、まあBABYMETALだからこれくらいはやるだろう、というような良い意味では信頼感、悪い意味では停滞感が感じられたような気がしたのだ*2。これも、BABYMETALの存在が、ひとつ上のステージに進んだということなのだろう。
NME
Reading&Leedsというロックフェスティバルは、Sonisphereと比べると、音楽的にはかなり範囲の広いフェスティバルらしい。
そのためBABYMETALも、NMEなどという、ちょっと下品な雑誌にまで扱われることになってしまった*3。「BABYMETALが、ついにNMEに載った」と無邪気に喜んでいる向きもあるが、この雑誌は歴史だけは古いが、全て過去の栄光。一時は20万部を超えたことがあるが、最後は1万部に落ち込み、ついに9月からフリーペーパーになってしまった。
といっても、今はNMEの主力は雑誌ではなく、NME.comというWebサイト。BABYMETALも、実は雑誌ではなく*4、NME.comに登場したわけだ。NME.comは、最も成功した音楽情報サイトと言われている*5。
腹立たしいのは、彼らが「BABYMETALは日本版Little Mixみたいなものだ」という程度の理解しかしないこと*6。しかし、これからチャートの上位でも狙おうとするのならば、メタルの外へ出て行く必要がある。そういう意味では、NME.comで扱われることは必須条件なのだが、何か、娘を荒海に放り出すような気分だ。
Classic Rock
Team Rockという会社は、傘下に「Metal Hammer」、「Classic Rock」、「Prog*7」、「Blues」という4誌を抱えている。このうちClassic Rockは、2013年に当時のオーナーからMetal Hammerと一緒にTeam Rockに買収された。月刊誌で、平均発行部数5万部を越えているのでMetal Hammerの2倍である。
そのClassic Rockに(おそらく10月号)にBABYMETALが載った。「BABYMETAL: WILL THE FUTURE OF ROCK LIKE THIS?」という記事である。
Reading & Leedsの直後に出た記事なので、それに合わせて、あらかじめ計画されていたのだろう。Classic RockとMetal Hammerは、扱うアーティストが被らないように心がけているようだが、著名なバンドになると別である。Bring Me The HorizonやGhostの記事は既に載っている*8。BABYMETALが今回、初登場したわけだが、NMEに載ったことと併せて、メインストリームになりつつあるということだろう。
初登場になると、バンドの紹介記事のようなものが必要になるのだが、たぶんこの記事も、そのひとつなのだろう。BABYMETALの紹介記事と言えば、2014年10月号のDom Lawson著の記事にとどめを刺す*9。Metal HammerやClassic Rockの記者にとっては、Dom Lawsonの記事を越えることは難しいと思うのか、どうしても違う方向から見ようとするため、なんとも微妙な感じになってしまう。
それでも、この記事にはBABYMETALの「次のステージ」を象徴しているようなところがあるので、紹介しておく価値はあると思う*10。
BABYMETAL: ロックの未来は、こうなってしまうのか?*11
Stephen Dalton著/2015-09-04/Classic Rock 10月号
日本のポップメタルトリオBabymetalの名前は、みんなが口にする。しかし、彼女たちは本当の現象なのか、単なる一発屋なのか、それとも、金儲けの手段なのか?
秋が近づき、Babymetalの夏にさよならを言う時がやって来た。Babymetalは、ロック界のこの10年で、最も盛り上がり、かつ意見が分かれた現象だった。
ほんの18ヶ月前、日本のポップメタルのチアリーダーたちは、まだイギリスで一度も演奏したことがなく、ヨーロッパにおけるレーベルも持っていなかった。ところが今、去年の段階では寿命の短い一発屋のギミックとみなされていたグループは、もはや止めようがないものとなり、DownloadではDragonforceと共演し、ReadingではMetallicaの口開けを担った。
輝かしい出世ではあるが、Babymetalはいまだに、ロック界に大きな論争を引き起こしている。ある種の純粋主義者にとっては、東京の作られたロックアイドルは、メタルの純粋な精神を踏みにじる小さなゴジラなのだ。しかし、彼女たちの巧妙に練りあげられた世界征服計画が成就しつつあるのを見ると、Babymetalがロックの未来を決定し、彼女らの後を多くのコピーバンドが続くことになるという可能性も、あながち否定はできないのだ。
彼女たちは、その先進的なフュージョンサウンドを「kawaii metal」(kawaiiは日本語で可愛いを表す)と名づけて、息もつかせぬバブルガム・ティーンポップのボーカルに、不釣り合いに思えるほどヘビーにシュレッドするギターをブレンドしている。
Babymetalは西洋の目にはエイリアンのように映るのだが、彼女たちは決して無から生まれたのではない。3人のシンガー(Su-Metalこと中元すず香、17歳、Moametalこと菊地最愛とYuimetalこと水野由結、共に16歳)は、最初はさくら学院という小中学生バンドに所属していた。このバンドは、Jポップスターの生産ラインである、巨大な「アイドル」シーンの一員である。ところが、そのアイドル市場は最近、飽和状態となりつつある。そこでマネージャーやレコード会社は、製作過程を活性化するために、より信頼度の高いサブカルチャーであるロックやメタルから、サウンドやスタイルを借りてしまうということをやり始めた。
こうしてBabymetalは生まれた。その過程で、彼女たちのマネージャーであり、音楽的な黒幕であるKobametalこと小林啓は、ソングライターのチームを立ち上げた。その中には、カルト的なノイズロックバンドCoaltar of the Deepersのメンバーである奈良崎伸毅や、元エレクトロパンクバンドMat Capsule Marketsの上田剛士も含まれる。その他にも、彼はパワーメタルバンドDragonforceにもアプローチして、Road Of Resistance*12でコラボを果たしている。DragonforceのギタリストHerman Liは、小林の献身的なメタルへの愛情こそが、過少評価されがちなBabymetalの信頼性の礎になっている、と言う*13。
「彼は、本当に熱狂的なロックメタルガイなんだ。彼には、自分のやるべきことが分かっている」とLiは強調する。「みんなは女の子がダンスすることとか、奇妙な日本の風俗のことをとやかく言う。そりゃあ日本文化に馴染みが無い連中には、確かに奇妙だろうけど。だけど、その音楽は、パワーメタルとロックと幾分のデスメタルを、とてもキャッチーにミックスしたものなんだ*14」。
Babymetalのみかけは「パンク・ロリータ」と呼ばれているが、この3人はJポップの他の連中に比べると、あまりセクシャルではない。彼女たちのゴシックで軍隊的な衣装は、黒と赤の、鎧の胸当てとちょっと暗い感じのするチアリーダーのユニフォームを混ぜあわせたものである。このイメージは、80年台から90年台にかけて日本で流行ったビジュアル系(ホラー映画の要素を取り入れたグラムメタルのサブジャンル)から借りたものだ。
Babymetalは西洋で言葉の壁を越えたヒットとなり、既にかつての日本のバンドが到達したことの無い場所にいる。同名のデビューアルバムは、母国語で歌っているというハンデを乗り越えて、世界中でiTunesのメタルチャートのトップになった。このバンドは、2014年のSonisphereにおいて、イギリスでのライブデビューを65000人の前で飾った。その時には冷笑も少しはあったが、野次よりも応援の方が多かった。その幾分かは、バックのミュージシャンが供給する叩きつけるような轟音の所為でもあったろう。その後に続く満員になった2つのショーは、最初は小さなクラブで予定されたものが、大きなコンサートホールへアップグレードされたものだった。Babymetalのマネージャーは、イギリスで余りにも大きなアピールが成功したことに、厚かましい商売根性を見せるというより、むしろ戸惑いを見せている。
もちろん、この成功は音楽だけでなくマーケティングの勝利でもある。ジャパンタイムズの批評家である英国生まれのIan Martinは、その要因の幾分かは、東洋風の文化を売り物にしたものに対するステロタイプな受け取り方、つまり「奇妙奇天烈な日本の風俗を無条件で受け入れるという西洋メディアのお人好しな傾向」にあると指摘している*15。
去年のジャパンタイムズのコラムでMartinは、このバンドの高度に定型化されたイメージの背後にある、抜け目のない商業的ロジックを解き明かした*16。「これは、自分たちのやっていることを、正確に把握している連中の仕業だ」と彼は書いた。「そういう意味では、DragonForceやManowarのような西洋のメタルアクトが、ここ何十年もファンを一喜一憂させてきた芝居がかった演出などは、全く子供じみたものと言えるのじゃないかな?」。
批評家がBabymetalの魅力を分かっているのに比べて、メタルファンは真っ二つに分かれたままだ。純粋主義者たちは、このバンドを「作りものの張りぼて」とか「サイテー」などと非難する。彼女たちのデビューアルバムに対するレビューのひとつは、「メタルアルバムとして良くできていないだけでなく、Jポップアルバムとしても良くない。。。すぐに消えてしまうギミックであってほしい*17」と結論付けた。
意外にも、Herman LiはBabymetalのヘイターに対して寛容である。「彼らにも一理ある。音楽の受け取り方は様々だからね」と彼は言う。「だけど、彼らはメタルが進歩しているということを忘れている。今のバンドが、Led ZeppelinやBlack Sabbathのような音を出すわけがない。そのために、皆んなの意見も別れるんだ。人々がこれ*18について、とやかく言うのも同じ理由だ。人は何でも貶したがるものさ」
小林になると、もっと上を行っている。Babymetalをバッシングする連中も、彼の世界征服計画の一部として受け入れてしまうのだ。「かえって有り難いことだよ!」と彼は去年、Metal Hammerに語った。「Slipknotのときと同じだよ。彼らが立ち上げたとき、多くの人にくずだと言われた。誰にでもヘイターはいるが、それは次のレベルに進むために不可欠なものなんだ」*19。
Babymetalにとっての次のレベルは、一発屋でないことを証明するための、しっかりとしたセカンドアルバムということになるだろう*20。それでも彼女たちは既に文化的な現象になっている。アジア中の若い女性ポップバンドに、ヘビーなサウンドと装いを取り入れるという流行を巻き起こしているのだ。その中には、アイドルグループのBand-Maid、韓国のPritz、ももいろクローバーZなどが含まれる*21。そして今や、BABYMETALのトリビュートアクトのようなものやパロディーバンドまでが現れているのだ。ひげのLadybabyは、中でもよく知られている。
Babymetalのように、明らかに作りものであり、イメージ先行型のメタルアイドルバンドが*22、ヘビーロックの未来になるのだろうか?多くの真剣なファンにとっては、これは悪夢だろう。しかしHerman Liは、そういう見方は杞憂であるとする*23。
「そんなイメージが、あまり的を射てるとは思えないね」と彼は言う。「見た目が良いのは素晴らしいことだ。だけど、多くの人々が、その音楽を愛するが故に聴いてくれるのなら、それが一番大事なことだ。いまBabymetalは、たいへん重要な存在なんだ。我々には常に、人を振り向かせる、他と違った何かが必要だ。まさにBabymetalは、メタルを聴いたことがない人々を、メタルへと導いてくれているんだ」。
*1:元情報からすると、2日間の合計の推定値らしい
*2:そういう意味では、事前にWembley Arenaを発表していたのは良かった。やはり驚きが無いといけない。今日現在、6割〜7割は売れていると思われるWembley Arenaを一杯にするためにも、来年の3月末までに、あと2つほど「驚き」が必要だろう
*3:ここの写真はスカートの中ばかり狙っている
*4:雑誌にも載ったかどうかは確認できていない
*5:最近、彼らは日本版サイトを開いた。BABYMETALが頻出したのも、この影響かも知れない
*6:これに比べれば、メタル界のヘイターさんたちは可愛いもので、少なくとも音楽に対して真面目な人たちだ
*7:少し前まで、Prog Rockという名前だった
*8:Team Rockでは、BABYMETALを含めて、この3つのバンドをメタルの未来に想定しているように思えるのだが
*9:この記事には既に、とても良い翻訳がある。それでも敢えていつか訳してみたいと思っているぐらい、良い記事だ
*10:この記事も既に翻訳があるのだが、急いで訳されたものなので、意味が分かりづらかった
*11:半分は冗談だと思うのだが、記者は残りの半分で本気に心配している。Dom LawsonのようにBABYMETALを愛しているわけではない(?)記者としては、BABYMETALに脅威を感じているのだろう。それだけでも、良しとしよう
*12:原文はRoad To Resistanceとなっています。指摘を受けて修正した
*13:Herman Liという男は、本当によく分かっている
*14:とても正確な捉え方だと思う。BABYMETALはみかけがあまりにも他と違うので、どうしても音楽に注目が集まらない傾向にある。BABYMETALの音楽性にもっと目をむけたら、何故それに中毒性があるかが分かるはずなのに
*15:ちょっと意地悪な記事のように思えるが、Ian Martinの元記事はなかなかのものだ。日本のアイドルシーンの流れを英国人に教えてもらった
*16:ちょっと考えすぎだと思うが
*17:残念だったね!
*18:BABYMETALのこと
*19:小林の素晴らしいところは、この客観性と大局観。ヘイターというのは、一種のファンだ
*20:これだけは、無条件で納得できる
*21:アイドルのことは分からないのだが、年齢からしても、ももクロがBABYMETALの影響を受けるのだろうか?
*22:BABYMETALがイメージ先行型とは???ジャパンタイムズの記事に影響されすぎているのか
*23:「ポスト BABYMETAL的 メタル要素を持つアイドル」というWeb記事を読んで(聴いて)みた。バックの演奏はともかくとして、ボーカルについては、逆に中元すず香の凄さを感じさせるだけだった。アイドル風のメタルバンドと、メタル風のアイドルの違いと言ってもいいかも知れない。ここまで差が歴然としていると、BABYMETALをアイドルと言うには、既に無理があるように思うのだが、どうだろう?