RALの謎
謎のレーベルRALについて、「通りすがり」氏にヒントをもらった。前回、次の疑問を提示した。
- Sony Musicサイトのレーベルリストに、RALが記載されていない
- Sony Musicから、BABYMETALに関する発表がいまだに一切無い
- RALから出されたアルバムはたった2枚しか確認されない
- RALのWebサイトが見つからない
この理由がある程度、判明した。
Sony Musicサイトのレーベルリストに、RALが記載されていない
これは、はっきりした。その理由は、RALはSony Music Entertainment(SME)の所有するメジャーレーベルではないから*1。
そもそも、Sony Music Entertainment(SME)は、コロンビアレコードをCBSが買収してできたCBSレコードをソニー米法人が買収して旧SMEに名称変更し、片やRCAレコードを買収したBMGと合併してソニーBMGになった後、ソニー側が全株式を取得して現在の新SMEとなったものだ(ソニー株式会社にとっては孫会社に当たる)。この複雑な設立過程のために、コロンビア、RCA、EPICなど有力なレーベルを幾つも抱えているが、今回はこれらは関係ない。
SMEは、ユニバーサル、ワーナーと並んで、3大メジャーレーベルのひとつである。寡占化が進んで、この3社(グループ)以外は全て、中小レコード会社である。
さて、RALの謎を解くための鍵となるのは、RED Distributionである。
そもそも、BABYMETALの公式サイトにREDへのリンクがあったようだ。一回REDのサイトを見たような気がするが、SMEとの関係が見当たらなかったのでスルーしていた。
RED Distributionとは何か。
REDは、Sony Music Entertainmentの「division」のひとつで、レコードの販売とマーケティングを担当する。現在、70を超えるレコード会社(≒レーベル)と契約している。しかし、SMEが所有する大手のレーベルはここに含まれない。全て中小のレーベル。中小のレコード会社は、自分で全米に販売網を持つのは財政的に厳しいから、REDのようなところに販売とマーケティングを依頼する。日本で言えば、書籍の取次代理店である東販や日販の役割に近い。
契約先にはSMEが出資しているレーベルが多いと思われるが、そうではない完全に独立したレーベルも含まれる。
例えば、DragonForceの6枚目のアルバム「Maximum Overload」は、カリフォルニア州に本社を置くMetal Blade Recordsから出している。このレーベルもREDの顧客なので、「Maximum Overload」はREDの流通ルートで販売されている*2。
REDの設立は1979年。最初はハードロックを扱うdistributerだったらしい。いわゆるインディーズを扱う自費出版代理店のようなものか。Metallicaの最初の2枚のアルバムは、ここ(当時はImportant Record Distributors)から出ている。そのREDが、SMEのややこしい設立過程のどこかに組み込まれて、いつの間にかSMEの「division」になったようだ。
「division」とは何か
さて「division」の話だが、日本で言えば会社の「部」に相当する。但し、もっと独立性が高いのもあって日本で言えば「事業部」にあたるもの、さらには、会計が独立しているところもある。REDはこれに近い、かなり独立性の高いdivisionではないか。
トップdivisionの責任者は通常、「vice president」と呼ばれる。そのためdivisionが細かく分かれている会社では、vice presidentが何百人もいる場合もあるようだ。だからvice presidentを副社長と訳すと、日本語の意味からはちょっと外れる場合もある。
構図が分かった
これで構図が少し読めて来た。BABYMETALのニューヨーク公演にやって来たSony Music Entertainmentのマーケティング担当副社長というのは、おそらくRED Distributionの責任者であるvice presidentに違いない。
アミューズは最初から、SMEと交渉していたのではなく、RED Distributionと交渉していたわけだ。SMEというとコロンビアやRCAのような大きなレーベルが思い浮かぶために、例のvice presidentが大きな権限を持っているように思えるのだが、アミューズと釣り合うような身の丈にあった人だった。
そもそも、記事がSonyのvice presidentと呼ぶから悪いのだが、確かに間違ってはいない。
RALとは何か
RALは、REDのdivisionである。つまり、SMEから見ればdivisionの中のdivision。日本で言えば「課」に相当するのだろう。おそらく所属する社員は10人以下、2・3人かも知れないし、専任ゼロの可能性もある。
さてRALの設立目的だが、例えば、一匹狼のプロデューサーにSMEが出資してレコードを作らせ、これをRALのレーベルで出す、というようなためにあるらしい。独立したレコード会社として成り立つほどにはレコードの種類もないような相手が対象である。音楽業界は一種の山師的な商売だから、SMEとしては、確率は小さいが大ヒットする可能性がゼロではないというようなミュージシャンやプロデューサーに、保険を掛けて取り込んで置くというわけだ。
RALはREDのdivisionであり、RALというレーベルでもある(下がレーベルのイメージ)。RALレーベルは、REDのレーベルリストに載っているが顧客ではなく社内レーベルなので、リストの中でひとつだけ特殊な位置を占めている。
上のイメージで*3、「RED ASSOCIATED LABELS」と複数形になっているのに注意してほしい。すなわち、これが単独のレーベルであるかどうかも疑わしい。中小というより零細レーベルを集めた集合だよ、という意味にも取れる。
RALから出されたアルバムはたった2枚しか確認されない
この理由は明白である。RALは最近できたばっかりのようだ。
RALのWebサイトが見つからない
上で推測したように人員と予算が少ないので、作っていない。REDのレーベルリストで、RALをクリックしても同じページに戻るだけ。
何故、RALがBABYMETALを扱うのか
おそらく、ここで扱うしかなかった。
アミューズは単独のレコード会社ではない、それにも関わらずレコード製作やツアー計画もアミューズが行うので、関連レコード会社に紹介するわけにもいかない。さらに、とりあえずは既に日本で発売された1枚のアルバムを再発売するだけ、契約エリアもメキシコを含む北米だけとなると、便利屋的なRAL部門で扱うしかなかったのではないか。
しかし結果的には、現状であまり機能していないRAL部門にとって、売上の90%以上(99%かも知れない)がBABYMETAL関連で占められることになるだろうから、REDとしても悪い話ではない。喜んでいるのは、RAL部門のたった数人しかいない社員たち*4。頑張ってマーケティングしてくれるでしょう。
ちなみに、SME本社もRED Distributionもニューヨークに所在するので、RALもニューヨークのはず。BABYMETALの3人がメキシコからトロントへ行く途中でニューヨークによったのは、RALが雑誌のインタビュー等を設定したのでしょう。早速、活躍しているようです。