異形のアイドル山本彩

彼女のことを良く知らないうちに*1不必要なリンクが張られるのを避けるため、以前の記事では彼女の名前を出さなかった。その後、彼女自身の著書「すべての理由」を含め多くの情報を得ることが出来たので、今回は表題に名前を含めた。

「すべての理由」を読んで、ちょっと驚いた。内容はネット上で得られていたものと大きな違いはなかったのだが、驚いたのはその文章だ。決して手慣れているというわけではないが*2、その記述は極めて論理的で、言いたいことを簡潔に、誰にでも分かる言葉で表現している。よほど聡明な女性なのだろう。


山本彩という人にはずいぶん驚かされる。最初は2016年の朝ドラ主題歌の弾き語り、その声の圧倒的な迫力と、とてもよく響くギターに驚いた。

次に2014年のエレキギターを抱えた「僕らのユリイカ」 *3、こんなにも魅力的なフロントウーマンが、何で自分のバンドを持っていなかったのだろうとため息が出るほど。たぶん、2014年のこの時点で、彼女はある種の頂点にいたのだろう*4

そして、最後は2016年のファーストアルバム「Rainbow」。アイドルが出したアルバムなどと言うと大間違で、とてもプロフェッショナルなアルバムだ。なかでも「心の盾」は、ぴたりとはまったストリングスのアレンジと相まって、完璧なR&Bに仕上がっている。曲の様相に合わせて色鮮やかに声色を使い分ける秀逸なボーカルテクニック。なにげないようだが、本物を感じさせるリズム感。なによりも、よく響く天与の声。古い話になるが、同じ年頃のDiana Rossよりうまいのではないかと思うぐらいだ*5

彼女は元々これだけ歌がうまかったのか、それとも亀田プロデューサーに入念に指導されたためか。一人でそれを身につけたのだとしたらそれは驚くべき才能だし、後者だとしても僅かな期間でここまで仕上げられる能力は並大抵ではない*6。いずれにしても、優れたアーティストであることに間違いない。


そもそも、まだほんの23歳なのに、ほとんど漫画みたいな人生だ。

小学生の時に聴いたAvril Lavigneに憧れ、シンガーソングライターに成りたいという夢を抱く。幸運なことに、中学時代に結成したロックバンドでメジャーデビューを果たす。しかし、それは長続きせず人生で最初の大きな挫折を経験する。夢を諦めかけていた時に、偶々アイドルのオーディションに出会う。アイドルになる気はなかったが、いずれはシンガーソングライターへの道が開けるかと考え、オーディションに応募し合格する。その後はアイドルグループの中心メンバーとして活躍するが、なかなか夢を実現する道筋が見えてこない。しかし苦節7年、ついにファーストアルバムの発売に漕ぎ着ける。

これで、最後はシンガーソングライターとしてスーパースターになりました、ということになれば完全に漫画になってしまう。しかし、ファーストアルバムのクオリティー、ライブの盛り上がり具合からすれば、それも高い確率で実現してしまうのではなかろうか。


昔は、アイドルは歌がへたで、あまり賢そうでなく、かわいいだけということになっていた。だが、それとは正反対の、山本彩のような人がアイドルを名乗るというのも、アイドルがビジネスモデルとして確立されたあかしかも知れない。

*1:なにしろ、彼女の名前の読み方を知ったのが今年の初めなので

*2:それ故、ゴーストライターを使っていないことが明白だ

*3:年が前後するが、この順番で見つけたので

*4:若さによる旬といったようなもの。この時点でバンドを持たせてデビューさせていた方が、吉本はずっと儲かったのではないだろうか

*5:R&Bということでモータウンを代表する女性歌手と比較したのだが、Supremes時代のDiana Rossは、ちょっとアイドルみたいに振る舞っている

*6:事実は、その両方か?